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北朝鮮ノドンミサイル、秋田県沖排他的経済水域EEZ内に着弾 ミサイル部品などを洋上で確認

2016-08-03 23:42:48 | 防衛・安全保障
■弾道ミサイルが秋田沖に着弾
 北朝鮮は本日日本時間0750時頃、朝鮮半島西岸から日本海に向け弾道ミサイル二発を発射、うち一発が秋田県沖の我が国排他的経済水域へ着弾しました。本日は予定していました『将来艦隊戦闘と巡航ミサイル2』を急遽変更し、この事案についてみてみましょう。

 ノドンミサイルが発射されたものと視られ、発射地点は黄海南道の殷栗付近、ミサイル基地からの発射ではなく移動発射装置からの発射と推測されます。二発が発射され、この内一発は発射直後に爆発し上昇に失敗、しかしもう一発は朝鮮半島を越え1000km飛翔し秋田県沖250kmの我が国排他的経済水域EEZ内に着弾しました。ノドンミサイルの射程は1500km、我が国を射程に収め事実上対日攻撃用弾道ミサイルとなっています。

 秋田県男鹿半島沖250km、0805時頃着弾したとのことで、排他的経済水域EEZ内にミサイルが着弾するのは今回が初めてであり、直接の被害はありませんでしたが、着弾海域近海では操業中の漁船が航行中であり、ミサイル実験の連続と共にともすれば危機感が麻痺しそうではありますが、1993年のノドンミサイル日本海発射実験以降、徐々に緊張度合が高まっている北朝鮮ミサイル脅威はもう一段階、我が国が意識すべき領域へ入ったといえるかもしれません。

 ミサイルへの備えについて。弾道ミサイルは宇宙空間を飛翔し落下するため、落下速度が極超音速と非常に早く、その迎撃は困難とされてきましたが、防衛省は世界的に見て非常に高度な弾道ミサイル防衛体制を整備しています。弾道ミサイル防衛は落下速度が非常に早い為いち早い探知が重要となりますが、弾道ミサイル探知能力を重視したJ/FPS-5レーダーが青森県大湊分屯基地と新潟県佐渡分屯基地及び鹿児島県下甑島分屯基地と沖縄県与座岳分屯基地へ配備され、加えて軽量型のJ/FPS-7レーダーも配備が進められています。これらは新自動警戒管制システム JADGEにより即座に全自衛隊で共有化されます。

 自衛隊に他にアメリカ軍も協力しています。ミサイル防衛については加えて青森県車力分屯基地と京都府経ヶ岬分屯基地にはアメリカ陸軍防空砲兵部隊のXバンドレーダーAN/TPY-2が展開中であり、THAADミサイルの構成要素の一つとなっています。これらの情報は航空自衛隊横田基地でのBMD統合任務部隊と日米共同統合運用調整所 により共有され、AN/TPY-2については韓国国内へ在韓米軍が配備する事について米韓での合意が為されている事から、この情報についても共有され、重厚な警戒体制が構築されるに至りました。

 迎撃は航空自衛隊によるペトリオットミサイルPAC-3,海上自衛隊によるイージス艦からのSM-3迎撃ミサイルが配備されており、ペトリオットミサイルPAC-3については全国24個高射隊の各5基配備されるM-901/M-902発射装置のうち3基が航空機対処用の射程100kmであるPAC-2,2基が弾道ミサイル防衛用の射程15kmというPAC-3となっています。海上自衛隊イージス艦は、こんごう、きりしま、みょうこう、ちょうかい、あたご、あしがら、が対応しており、搭載する迎撃ミサイルは射程1500kmのSM-3,海上にて高高度を飛翔する弾道ミサイルを迎撃します。

 排他的経済水域EEZへのミサイル実験、しかも今回はミサイル実験の通知などを一切行わず実施されており、これは排他的経済水域域内における漁業権や海洋資源開発等の権利を有する沿岸国が操業中である当然の認識の上で実施されたことが考えられ、看過する事は出来ません。実際問題、山形県漁協や秋田県漁協では着弾海域付近にて操業中の漁船があった事から、山形県漁協は所属する漁船195隻に対し、緊急に無線などによる安全確認を実施しました。

 弾道ミサイル部品が着弾海域付近で確認されています。これは海上自衛隊及び海上保安庁航空機、および警備救難船艇及び海上自衛隊艦艇等が着弾海域付近において情報収集を実施した際に確認されたもので、これまでにも北朝鮮による弾道ミサイル実験の際の部品が山陰地方の沿岸などに漂着している事は確認されていますが、ミサイル実験直後に着弾したばかりの部品を発見する事は稀有な事例と云え、現在、海上自衛隊及び海上保安庁はその部品の回収作業を進めています。

 今後のミサイル防衛への課題ですが、航空自衛隊は全国のレーダーサイトのうち、基本的にミサイル実験への対処能力を有するレーダーは配備されているものの、主たる警戒対象は対領空侵犯措置任務に当たる国籍不明機対処であり、レーダーの監視対象も宇宙空間を飛翔するミサイルよりも成層圏までを飛翔する航空機へ向けられています。移動式発射装置等は従来の基地からの発射の様に衛星画像からの実験徴候把握することが難しく、更に予算を強化しミサイル監視専用のXバンドレーダーの増設や、導入準備が進むRQ-4無人偵察機による公海上での監視強化などが考えられますが、場合によっては策源地攻撃など、必要な措置の実施を真剣に考えなければならないほど、脅威が増大しているといえるやもしれません。

北大路機関:はるな くらま
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5 コメント

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Unknown (Unknown)
2016-08-04 00:03:33
越えてはならない一線、越えて来た
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Unknown (PAN)
2016-08-04 06:52:53
今回のノドンが問題なのは、日本の経済水域内に通告なく落としてきたこと以上に、事前の発射兆候をまったくキャッチできていないことでしょうね。

以前から言われていたことですが、それが現実化しました。たまたまイージス艦が展開していたとかではない限り、対処の方法も事実上ないというのが、非常に悩ましいところです。
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Unknown (雨辰)
2016-08-04 22:16:57
今回の事態は舞鶴配備のSM-3運用艦が「あたご」一隻である以上、当然予想されたことです。

恐らく佐渡のJ/FPS-5は探知したのだと思いますが、迎撃手段がないのではどうすることもできません。早急に三沢と能登にイージス・アショアを配備すべきだと思います。
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Unknown (雨辰)
2016-08-05 01:58:32
「あたご」としてしまいましたが、「みょうこう」の間違いでしたので、訂正します。失礼しました。
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Unknown (国民の目)
2016-08-05 21:51:00
 MDの待機命令が常時発出へと変更検討されていますね。日本の国内事情による不合理が、厭な形ですがいい意味で改善されそうです。
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