北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】アーレイバーク級超音速滑空兵器搭載とイスラエル防空艦マーゲン,カナダ26型

2021-01-11 20:21:40 | インポート
■週報:世界の防衛,最新10論点
 今回は海軍関連の話題を合せて。超音速滑空兵器は新しい時代の潮流ですが海上自衛隊も今後検討すべき時代が来るのでしょうね。

 アメリカ政府は全てのアーレイバーク級ミサイル駆逐艦へ超音速滑空兵器を搭載する、ホワイトハウス安全保障大統領補佐官が10月20日に発表した。超音速滑空兵器は次世代の中長距離打撃手段であり、高高度に到達した飛翔体が高速落下し滑空しつつ目標に接近するもの、高速であり迎撃が難しいとされる。アーレイバーク級は100隻以上配備される。

 プロンプトストライクプログラムとして超音速滑空兵器をズムウォルト級駆逐艦やヴァージニア級攻撃型原潜へ搭載する計画がある。今回の発表はこの配備計画をアーレイバーク級まで広める事を期したものであるが問題がある、新型ミサイルは従来型のMk41VLSに搭載出来ない為である。政府の突然の決定に搭載方法が無い海軍は困惑しているようだ。

 アーレイバーク級ミサイル駆逐艦はイージスシステムを搭載し戦後量産された駆逐艦としては最大の建造数を誇るが、兵装の大半はMk41VLSに搭載する。対してプロンプトストライクプログラムのミサイルはMk57VLSやトマホーク用潜水艦VLSを念頭としており、アーレイバーク級に搭載するには装甲ボックスを採用するか根本的な改修が必要となる。
■ノルウェーイージス艦事故
 海軍艦艇の事故は心痛むものですが、同時に重要な装備故にこうしたものは責任所在からやはり長引くのですね。

 ノルウェー政府はイージス艦ヘルゲイングスタッド沈没事故について同艦を建造したDNV-GL社に16億ドルの賠償を請求する事となりました。ヘルゲイングスタッドは2018年11月8日にNATO演習からの帰途に際しタンカーソラ号と衝突、浸水が進み浅瀬に移動した上で総員退去となりましたが、その後浸水が進み沈没、世界初の喪失イージス艦に。

 ヘルゲイングスタッドは2019年2月17日に引き上げが行われ修理不能が判明します。当初は防水作業の練度不足が沈没原因とされていましたが、シャフト部分など13の水密区画からの浸水が原因である事が判明し、事故調査報告書において建造に問題がある事が結論付けられた。本艦建造費は15億ドル以上と見積もられ建造費が賠償として請求されました。
■インド,ブラモス発射試験
 インド海軍に超音速対艦ミサイルの時代が到来します。このミサイルは対艦用に用いるのではなく対地攻撃用とのこと。

 インド海軍は水上戦闘艦発射型のブラモス超音速巡航ミサイル発射実験に10月18日、成功しました。ミサイル発射実験はミサイル駆逐艦チェンナイから実施、目標とされた地点に正確に命中したと発表しています。ブラモスはロシアとインドの共同開発ミサイルであり、航空機発射型と潜水艦発射型等が開発、これらは2007年に配備開始されています。

 ブラモスミサイルは速力マッハ2.8で海面上10mを超低空飛行します。こうした装備を開発する背景には現在、中国弾道ミサイルの射程が延伸すると共に対艦弾道弾がインド海軍航空母艦への深刻な脅威となりつつあり、インド海軍では超音速巡航ミサイルにより対艦弾道弾を発射前に撃破する狙いがあるという。この為に駆逐艦は重要な打撃手段なのです。
■カナダ,26型フリゲイトを選定
 カナダ海軍は昨今日本周辺に置いて頼もしい存在となっていますが、新しいフリゲイトを防空艦で固めるようですね。

 カナダ海軍は11月6日、CSCカナダ次期水上戦闘艦計画用武器システムとしてスタンダードSM-2艦対空ミサイルの採用を決定しました。これはSM-2block3Cに最適化されたMk.41発射システムの垂直発射型と共に100発分を5億ドルで取得する計画で、CSCカナダ次期水上戦闘艦計画にはイギリス製26型フリゲイトが既に2018年に決定しています。

 CSCカナダ次期水上戦闘艦計画計画では当初、カナダアリオン社とオランダダーメン社による防空フリゲイトデゼーヴェンプロヴィンシェン級派生型、スペインナヴァンティア社のイージス艦アルヴァロデバサン級にイージスシステムに代えCEAFAR2レーダーを搭載の独自案が提案されていましたが、最終的にイギリス製26型フリゲイトに決定されました。

 26型フリゲイトはグローバルコンバットシップ計画として設計され、基準排水量5400tでイギリス海軍では射程120kmのアスター30対空ミサイルを搭載していますが、カナダ海軍はアメリカ海軍と同系統のミサイルを採用したものです。カナダ海軍は現行の全ての水上戦闘艦をこのCSC計画艦12隻により代替する計画で2020年代に建造が始ります。
■ルーマニア次期フリゲイト
 ルーマニア海軍は冷戦時代の旧式艦と西欧からの中古艦艇を継ぐべくを最新鋭の小型艦で固めるようです。

 ルーマニア海軍は2020年11月、フランスとの間で4隻のゴーウィンド級コルベットの建造契約を締結しました。ルーマニア海軍には国産で1992年に竣工したフリゲイトマラシェシュティとイギリス海軍より中古取得した22型フリゲイト2隻が配備されていますが、マラシェシュティは満載排水量5790tと大型ながら起工から40年を経て老朽化しています。

 ゴーウィンド級コルベットは対潜型の全長102mで満載排水量2500tのものと哨戒型の全長85mで満載排水量1000tのものがあり、76mm単装砲を搭載、対潜型はナーバル社製セティス戦闘情報システムを搭載し対艦ミサイルとしてエクゾセもしくはオトマートを搭載するとともに飛行甲板を配置し、10t級までのヘリコプター発着が可能となっています。

 フランスとの契約はゴーウィンド級4隻の新造と22型フリゲイト2隻の延命改修による契約総額は14億ドル、ゴーウィンド級コルベット4隻は2026年までに引渡が完了する契約とされ、ルーマニア海軍としては冷戦後最大の水上戦闘艦建造計画となります。無人機等を艦載機として搭載する計画ですが、コルベットの型式内訳は明らかにされていません。
■イスラエル,初の防空艦
 イスラエル海軍が同国海軍初の、しかし詳細を見ますとちょっと不思議な防空艦といえる水上戦闘艦でした。

 イスラエル海軍は初の防空艦となるサール6型コルベット一番艦マーゲンを受領します。これはドイツのティッセンクルップマリンシステムズにて建造されているもので将来的に4隻が導入されます、満載排水量は1900tでドイツ海軍が運用するブラウンシュバイク級コルベット派生型にあたるもので、契約金額は4億3000万ユーロにて建造される事となった。

 サール6型コルベット最大の特色は本型がイスラエル海軍初の防空艦という点です、が、広域防空艦ではありません。その任務はイスラエルの排他的経済水域内にあります天然ガス掘削プラットフォームをイスラム過激派のロケット弾攻撃から防空する事に在り、イージス艦が100km圏内の防空を重視するのに対し、10km前後の防空を想定している点です。

 防空にはEL/M-2248-MF-STAR-AESAレーダーを搭載し76mm主艦砲や16発の対艦ミサイル、324mm短魚雷発射管とともに射程10kmのバラク8 艦対空ミサイルをVLSに16発、アイアンドームC艦対空ミサイル40発搭載し戦術ロケット弾等による飽和攻撃に対し有効な迎撃が可能となります。また後部甲板にはUH-60クラスの航空機が発着可能です。
■バーソルフ級9番艦就役
 バーソルフ級、アメリカ沿岸警備隊が誇るほとんど水上戦闘艦というべき沿岸警備隊のカッターですね。

 アメリカ沿岸警備隊は11月11日、インガルス造船所よりバーソルフ級カッター9番艦ストーンを受領したとのこと。ストーンはサウスカロライナ州チャールストンに配備される計画で、同施設には同型艦のハミルトンとジェームズが配備されています。バーソルフ級は満載排水量4112t、57mm艦砲やCIWS個艦防空システム、航空機等を搭載しています。

 バーソルフ級は水上戦闘艦に準じる性能を有しておりHH-65ヘリコプター2機か同1機とMQ-8無人ヘリコプター2機を搭載可能で、艦内にはスリップウェイを艦尾に有し11m複合艇など艦内に3隻を搭載可能です。アメリカ沿岸警備隊は本型10隻の整備に続いて、満載排水量4520tと更に大型化させたヘリテージ級カッターの整備に移行する計画です。
■ギリシャ掃海艇事故で全損
 艦艇は何処の国でも伝統的な名前とともに国民の期待を背負って配備されているだけに、海軍艦艇の事故はやはり心が痛むものですね。

 ギリシャ海軍の掃海艇カリストがアテネ近海にて貨物船と衝突、船体が破断し船体の半分が千切れて沈没する重大事故が発生しました。事故は10月27日に発生、乗員27名は総員離艦しましたが2名が重傷を負って病院に搬送されています。沈没を免れた船体後半部分は近傍のサラミス海軍基地に曳航されましたが、修理は事実上、断念されています。

 カリストはイギリス海軍のハント級掃海艇を2001年に中古取得したもので満載排水量750t、ハント級掃海艇はギリシャ海軍においてエヴロピ級掃海艇として2隻が運用されています。ハント級掃海艇の船体は磁気機雷を想定しFRP製船体を採用しており、大型貨物船との衝突は元々想定していません、貨物船が磁気機雷の爆発を想定していない様にです。
■アドミラルクズネツォフ動静
 アドミラルクズネツォフ、ロシア海軍唯一の航空母艦の去就は隣国日本としては重大な関心事です。

ロシア海軍は長らく重整備中である空母アドミラルクズネツォフの海上公試を2022年にも再開する方針と発表しました。空母アドミラルクズネツォフはロシア海軍唯一の航空母艦であり、Su-27戦闘機海軍型を運用可能であるとともに飛行甲板には24基の長距離対艦ミサイルが垂直発射方式で内臓されており、艦載機と併せ強力な打撃力を有しています。

空母アドミラルクズネツォフは2019年に大規模な火災事故に見舞われており、これは定期整備中に艦内で実施した溶接作業が艦内に大量放置された定数外の油性廃棄物を含む布きれに引火、これが艦内の電力ケーブル被膜へ延焼したことで、大規模な火災となっており、これにより作業員と乗員の内2名が死亡し14名が負傷する重大事案となっていました。

空母アドミラルクズネツォフは2018年にも造船所にて70tクレーンの倒壊に巻き込まれる事故に見舞われ、船体老朽化と共に常に現役維持の難しさが指摘されるところです。しかし空母アドミラルクズネツォフはロシア海軍にとり唯一の航空母艦であり、クリミア併合による経済制裁がロシア経済を悪化させたため、後継艦建造見通しも無く、今日に至る。
■ブラジル海軍旧オーシャン
 ブラジル海軍の唯一の航空母艦である元ヘリコプター揚陸艦は海軍旗艦となりました。

 ブラジル海軍はイギリス海軍コマンドー空母旧オーシャンとして知られるアトランティコを11月26日付で多目的ヘリコプター母艦から多目的航空母艦へ区分変更しました。アトランティコは現在、ブラジル海軍旗艦に位置付けられています。もともとブラジル海軍旗艦は旧フランス空母フォッシュをサンパウロとして運用していましたが退役しています。

 アトランティコの前任、空母サンパウロは満載排水量32800tで2000年に再就役しましたが元々1963年に就役した空母であり、2017年に老朽化から除籍、この後継としてオーシャンが選ばれました、満載排水量22500tで現在のところサンパウロのような固定翼機は運用しませんが、1998年竣工とまだ当面運用が可能で、海軍唯一の空母へ位置付けられました。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【防衛情報】F-35最新報とラファール乱れ売り,スーパーホーネット新時代と各国輸送機事情

2021-01-10 20:00:36 | インポート
■週報:世界の防衛,最新11論点
 2021年最初の防衛情報は一年の飛躍を願いまして航空関連の話題を中心に11の話題を集めました。

 イタリア空軍は11月、保有するF-35A戦闘機及びF-35B戦闘機を完全重武装のビーストモードにて飛行させる事に成功したとのこと。ビーストモードでのF-35はAMRAAM空対空ミサイル4発及びAIM-9X空対空ミサイル2発とGBU-31/2000ポンド爆弾6発を搭載可能で、ステルス性を一部断念しつつ、機内弾薬庫と主翼パイロンを最大限活用します。

 JSF統合打撃戦闘機計画として開発されたF-35にイタリアは開発段階で10億ドルを投資しアレー二ア社はじめイタリア防衛産業とレベル2開発国としてJSF計画に参加しています。この関係で優先顧客以上に早期にF-35を受領する権利を有しており、2016年に初号機を受領、イタリア空軍は単一の軍組織として現在唯一、F-35A,F-35Bを運用しています。

 しかし、イタリア国内には巨額の開発費とユニットコストへの憂慮、トーネード攻撃機やハリアー攻撃機とAMX軽攻撃機など253機のイタリア軍作戦機を90機のF-35で置き換える事は作戦機数の激減を意味する為に反対も多く、ビーストモードでのF-35A,F-35Bの飛行を誇示することは、F-35のポテンシャルの大きさを示す意味でも重要といえましょう。
■イギリス,F-35B更に3機到着
 日本の自衛隊への配備は順調に進んでいますが、F-35は友好国イギリスにも順調に配備が進んでいる模様ですね。

 イギリス空軍は11月27日、新たに3機のF-35B戦闘機をアメリカ本土のロッキードマーティン社工場から受領したとのこと。受領の後にイギリス本土へイギリス空軍要員にょり回航されるとのこと。イギリス空軍には現在19機のF-35B戦闘機が配備されており、この3機の受領により21機となります。空軍は最終的に138機のF-35Bを導入予定です。

 F-35Bはイギリス海軍に新しく配備された空母クイーンエリザベス艦上での運用を進めており、先日米英合同訓練においてアメリカ海兵隊所属のF-35Bとともに16機を飛行甲板に並べていますが、クイーンエリザベス級航空母艦には今後、イギリス軍だけで40機のF-35Bを搭載可能となるため、イギリスのF-35B導入はまだまだこれから本格化といえましょう。
■スイスF-X選定急遽F-35参加
 スイスの次期戦闘機選定はスーパーホーネットで決定かと思っていたのですが、やはり第五世代戦闘機が欲しいようです。

 アメリカのロッキードマーティン社はスイス空軍の次期戦闘機選定NFA計画へ正式にF-35A戦闘機を提案しました。これはスイス空軍の次期選定に当初候補として挙げられていなかったF-35が急遽スイス政府より要請される形で11月18日に提案書を提出する事となり、スイス空軍は最大40機の次期戦闘機を導入予定、提案書は2019年が期限でした。

 F-35のほかにEF-2000タイフーンにJAS-39グリペンやF/A-18Eスーパーホーネット、ラファール戦闘機などが提案されています。スイス空軍の現用戦闘機は非常に古いF-5戦闘機と古いF/A-18C/D戦闘機で、後継機として60億スイスフラン、ドル換算で64億ドルを計画、直接民主制の瑞西ではこの計画へ野党反対を受け国民投票に掛けられる予定です。
■インドネシア,次はラファール
 インドネシアの防衛装備品調達は二転三転当然ともめる事で有名なのですが、今回ばかりは度を越しているようで。

 インドネシア空軍は次期戦闘機としてフランスのラファール戦闘機48機を調達予定であると12月2日にル・トリビューン紙が報じたとのこと。これは10月にフランスを訪問したインドネシアのスビアント国防大臣がダッソー社の工場を視察した際に示し、インドネシアは次期戦闘機を早ければ2020年内にも契約に漕ぎ着けたいと示唆したとのことです。

 インドネシアの決定は二転三転する事で有名で、元々は韓国と第六世代戦闘機を共同開発する方針でしたが、アメリカの次期戦闘機導入を交渉しF-35の供与を求めアメリカが難色を示していました。しかしインドネシアはロシアとの間でSu-35戦闘機導入で合意に達しつつあるとの報道もあり、いきなりラファールの名が示され、今回も驚かされる次第です。
■ギリシャのラファールは最新
 ギリシャはトルコとフランスの対立の関係から安価にラファールを導入する事となりましたが、安価でも最新型だ。

 ギリシャ軍が2021年に導入するフランス製ラファール戦闘機18機のうち12機は2020年9月に初飛行したばかりのラファールF3R仕様となる見込みです。エーゲ海でのトルコ海洋開発を契機としたギリシャトルコ間の緊張が進み、トルコ政府がギリシャを牽制する為にリビア内戦を支援した結果、この対立はトルコとフランスの緊張に発展してゆきます。

 ラファール戦闘機18機のギリシャ供与はこの緊張下において妥結され、18機のうち10機はフランス空軍の中古機となっており、実質的に無償供与となっています。しかし、今回新造機8機に加えて中古機の一部をラファールF3R仕様へ近代化改修し供与する方針が示されたかたち。無償供与機近代化改修費用についての詳細な数字は明らかではありません。

 ラファールF3R仕様の従来型の機体に対しての改修点は巨大なタリオス新世代レーザー照準ポッドを機体前部に装着しており、これに併せてラファールでーらリンクシステムそのものが大容量化されている点、そして新開発されたシュフランAASM空対地空対艦ミサイルシリーズの運用能力が付与され、通常兵器での長距離打撃能力を有するに至った点です。
■SPEAR,F/A-18に超音速兵器
 アメリカではスーパーホーネットを第五世代機時代においても強力な兵装搭載能力を最大限活かした運用を目指すようですね。

 アメリカ海軍は10月21日、SPEARフライトデモンストレーターとしてF/A-18E/F戦闘攻撃機から運用する超音速兵器システムの実証装備開発をボーイング社に対し発注しました。これは超音速推進対応のラムジェット推進方式の装備を期しており、実証装備は、2022年後半に完成させる見通しといいます。当面の契約金額は3000万ドルとのこと。

 SPEARフライトデモンストレーターの開発の背景にはハープーンシリーズやトマホークと、現在アメリカ海軍の装備体系が亜音速兵器に重点が置かれている点であり、これは冷戦後に開発が中止された超音速巡航ミサイルファーストホーク以降この種の兵器が開発されていなかった点に起因します。ラムジェット推進方式は極超音速さえ可能としましょう。

 海軍航空戦センターがF/A-18E/F戦闘攻撃機を発射母機として選定した背景にはステルス性に影響が及ぶF-35Cに対して主翼下に大量の兵装を搭載するF/A-18E/Fの汎用性の高さであるといい、またこの装備の開発によりアメリカ海軍の空母航空団は対艦戦闘及び対地戦闘において高い優位性を維持します。この装備はF/A-XX計画にも影響するでしょう。
■ブルーエンジェルス交代
 F/A-18Aからはじまりましたレガシーホーネットの時代は海軍曲技飛行部隊でも終焉を迎えスーパーホーネットに道を譲るようです。

 アメリカ海軍の曲技飛行部隊ブルーエンジェルスは11月8日、運用しているF/A-18ホーネットの運用を終了しました。最後の飛行転移はフロリダのパンハンドルとアラバマの海岸上空を飛行しペンサコーラ海軍航空基地へ移動する際に30分間に渡り飛行を実施しています。F/A-18はブルーエンジェルスにおいて最長の34年間に渡り運用されてきました。

 ブルーエンジェルスは2021年より新たにF/A-18E/Fを運用、厳密にはこちらもF/A-18の派生型ではありますが、F/A-18AからF/A-18Dまではホーネット若しくはレガシーホーネットとされ、2021年より運用開始する機体はライノの愛称で知られる第4.5世代戦闘機となり、ブルーエンジェルスにはF/A-18Eが9機とF/A-18Fが2機、配備される計画です。
■50番目のA-300-MRTT
 エアバスは日本にもKC-767に続く給油機を提案していましたし、アメリカでもKC-135後継機となるエアバスの空中給油機は順調に生産が進む。

 エアバスディフェンス社は2020年11月、50機目のエアバスA-330-MRTT空中給油輸送機用のA-330旅客機を納入したとのこと。機体は今後改修工事をうけます。このA-330-MRTTは大型旅客機エアバスA-330を原型とした空中給油輸送機で、NATO域内において統合運用される空中給油部隊に配備され各国に割り当てられる方式を採っています。

 A-330-MRTT空中給油輸送機は戦闘機や輸送機への空中給油に当ると共に機体の上部は貨物型旅客機に相当するものであり、人員輸送やコンテナ貨物輸送、そして2020年代には更に、医療緊急搬送にも転用できる点が強調されています。50号機となるA-330-MRTT空中給油輸送機は現在のところ、ルクセンブルク空軍に割り当てられる計画となっています。
■C-27輸送機最新型の試験
 C-130Jでは大き過ぎるが手頃な輸送機が必要、という国には魅力的なC-27Jに最新の話題が。

 イタリアのレオナルド社は同社が生産するC-27J戦術輸送機の最新型について、その最終試験を11月中旬より開始しました。このC-27J最新型は2021年に某国空軍へ納入されるとのこと。レオナルド社広報はこのC-27J最新型について、2020年現在の世界を覆う新型コロナウィルスCOVID-19流行禍に対しても有用な空輸能力を発揮すると強調しました。

 C-27J輸送機は機内には最大60名の人員か担架上の負傷者36名と医療関係者2名を空輸可能で貨物輸送能力も10tに達する双発の戦術輸送機です。このC-27J戦術輸送機最新型のFANS-1/Aプラスデータリンクシステムを搭載し、欧州などで規格化される次世代航空管制システムに適合するとともに戦術VNAVシステムを搭載し、救難任務にも対応します。
■ケニア軍C-27配備完了
 C-27はC-130を双発にしたようなコンパクトな新世代輸送機です。

 ケニア空軍は10月2日、C-27Jスパルタン戦術輸送機の3機納入計画の3号機を取得し導入計画を完了したとのこと。これは1億9800万ドルを投じて進めていた空軍空輸部隊近代化計画です。しかし、3機の内最初の2機は2020年1月に納入されましたが、3号機だけは新型コロナウィルスにより初飛行や要員訓練、引き渡しなどが大きく遅れていました。

 C-27J納入式典にはケニア空軍司令官フランシスオゴラ少将とC-27Jを生産するイタリアのアルベルトピエリ大使が出席しました。C-27Jはアメリカ製C-130Jを小型化したといえる最新鋭の戦術輸送機で、機内には最大60名の人員か46名の空挺隊員、もしくは10tまでの貨物を搭載可能で、航空自衛隊のC-1輸送機に匹敵する搭載能力を有しています。
■中国Y-20輸送機に派生型
 Y-20は世界への人民解放軍展開を視野に中国がアメリカのC-17に対抗し開発したかなり大型の戦域間輸送機です。

 中国の四発大型輸送機Y-20について、その派生型に空中給油機が実用化、中国空軍が第五世代戦闘機として位置付けられるJ-20戦闘機へ空中給油試験を実施したとの事です。Y-20空中給油型はもともと中国軍が長距離ミサイル爆撃機として運用するH-6M爆撃機への空中給油用に用いられるべく2019年に開発されていますが、戦闘機への給油は初という。

 中国環球時報が報道したところによれば、J-20戦闘機は空中給油を受ける事で航続距離8000km、戦闘行動半径にして3000kmまで作戦能力が拡張されると考えられ、H-6M爆撃機や改良型のH-6N爆撃機へJ-20戦闘機が護衛にあたる事も可能となり、このほかにKJ-500早期警戒機なども空中給油受油装置装着型が報じられ、新しい脅威といえましょう。

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令和三年-新年防衛論集:ポストコロナ時代の防衛安全保障(8)回帰か転換かポストコロナ時代

2021-01-09 20:00:26 | 北大路機関特別企画
■結果論として世界は変わる
 ポストコロナ時代の防衛という話題で8回目となりました今回は最終回としまして社会の変容等について考えてみましょう。

 ポストコロナの時代の防衛を展望しました本年の新年防衛論集、今回は最終回としまして防衛よりも広い視野に立ったポストコロナの時代を考えてみましょう。しかし、それよりも前に重要なのはワクチンの接種開始です。既にイギリスとアメリカでは昨年末より接種開始、フランスやイタリアにスペインが続き、イスラエルでは100万に既に接種完了した。

 日常を取り戻すには感染を終息させなければなりません、収束ではなく終息、政府による感染拡大終了宣言が必要です、その為には集団免疫を獲得する事が必要で、不可能を可能とするのは完成した新型コロナワクチンだ。世界には唯一スウェーデンが感染拡大放置にて集団免疫を目指しましたが膨大な死者と社会不安に景気後退を引き起こし失敗しました。

 ウィズコロナ時代からポストコロナ時代へ転換するには日本でのワクチン接種開始を前倒ししなければなりません、治療薬は無く感染力はインフルエンザをはるかに上回り、しかも致死率は2%、重篤患者を集中治療室で徹底的に延命した場合での致死率が2%ですので、ICU収容力を超えた医療崩壊が現実となった場合には、致死率は突沸するのが、現実だ。

 ワクチン接種以外に手は無く、この他の選択肢は都市封鎖による経済破綻の危機か、感染爆発と大量死者の容認で、これをやった国は経済崩壊は避けられたものの結局経済後退となるとともに大量死者を容認した政権批判は極右政党への支持という想定外の副作用を引き起こしました。結局のところ民主主義国家では、生命が大事という正論には勝てません。

 経済崩壊か政治的破綻か、それともワクチンか、政治は決断が求められるように考えます。一部には生命が過度に重視され過ぎているコロナ対策への批判もあるようですが、季節性インフルエンザのような規模に抑えられる確証がない、更にCOVID-19は致死率2%という、PSIインフルエンザパンデミック指数でいえばカテゴリー5という最高度の致死率である。

 季節性インフルエンザよりも感染力が高い事は、コロナ対策徹底の結果、無論予防接種の成果もありますが、季節性インフルエンザ罹患者の異常な低さが見て取れます、そして、仮に季節性インフルエンザのような致死率0.1%以下、千人罹患して死者が1名以下であれば、都市封鎖など大袈裟、と思われるでしょうが、2%とは50名に1名という致死率だ。

 制御できなくなった場合には取り返しがつかない、これがCOVID-19の脅威度です。一方、ワクチン接種は、抗体効力がどの程度持続するのかが未知数です、急がねばなりません。何故ならば緩慢なワクチン接種計画により長期間を要してワクチンを接種した場合は、初期接種対象者が集団免疫を獲得前に免疫が失われる懸念があり、いそがねばなりません。

 ポストコロナ時代、防衛を中心にみてきたがもうひとつ別視点、結局は先コロナ時代への日常の回帰と考えるのか、ポストコロナという新しい社会構造へ転換すると考えるのかで、見方は変わってくるように思うのですね。これは視点を変えれば先コロナ時代が労働環境や社会文化的価値観として最適であったのか、という意味にも繋がる訳なのですけれども。

 長期的に考えて、経済力を強化しなければ防衛についても成り立たないのですが、ポストコロナの時代を俯瞰しますと、転んでもただでは起きない、コロナから何か新しい転換点を見つけ出す事が必要です。少なくとも世界はポストコロナの世界において変革を遂げている事となるのでしょうから、新しい時代への順応が求められる事だけは確かでしょう。

 テレワークの普及。当たり前ですが脱炭素社会として温室効果ガス削減というものにまじめに取り組むならば、社会は1980年代以来取り組んだデジタル化とサービス産業化による製造業からの転換に進まなければなりません、そしてデジタル化はテレワークに必須であるとともに産業構造のクラウド化、政府の言うところでの地方創世とも連関する命題です。

 コロナ感染拡大の厳しかった諸国ほど、都市封鎖ロックダウンが徹底されたことでテレワークへの転換が進んだ、というよりも強いられました。結果論ですが、デジタル化と労働集約化という一見矛盾した状況から脱却する一つの選択肢となったのですね。ただ、これがコロナに追いつめられた応急的な措置なのか恒久的な変革なのかは未知数ではあるもの。

 日本のテレワーク化が通信回線の容量不足とコンピュータセキュリティの問題、また押印文化に厳しい現実を突きつけられています。一方、テレワークには、デジタル分野での外注を筆頭に脱地域性が大きな強みであり、東京一極集中、人口減少時代においてこれは人口流失、地方の急激な過疎化を意味する、この状況からの一種の打開策となるでしょう。

 VR拡張現実とテレワークを組み合わせることができれば、もちろんこれは一例で通信環境改善は前提ですが、地方中核都市はもちろん、地方拠点都市であっても東京首都圏と同一労働同一賃金原則のもとでの労働環境を確保出来る可能性はあります。そしてもう一つ、これは副次的なものですが、言語の問題、自動翻訳技術恩恵は対面よりもテレワークの方が大きいという点です。

 難しいのは、1990年代から本格的に導入した成果主義報酬制度、年功序列からの脱却が、成果主義ではなく減点主義という日本型の定着に帰結してしまい、合意形成の為の会議が異常に長い実情があります。成果主義の評価制度に定格を形成出来なかった点も一因ではあるのでしょうが、責任者の決断よりも会議に依る合意形成が労働時間を長期化させた。

 テレワークを行う上で、日本型の合意形成への会議を続けるならば時差のある地域との会議は成立ちません、持ち帰って検討する的な即断できない状況がそのまま維持され、結果論として長時間労働の温床です。テレワークと相いれない文化として、2020年には判子決裁がやり玉に挙がりましたが、トップダウンよりも合意による責任分散も悪弊ではある。

 日本の国際競争力に英語力というものの箍がある、こうした視点は労働集約財的な産業構造ではそれほど問題になりませんでしたが、第三次産業においてはこの部分は、日本語圏内だけで外注先を模索するのか、英語圏を含めて外注を模索するのかという部分で大きな相違があります。これは日本国内で外注を受ける場合も含めて、という視点で考えたい。

 人口減少時代がそのまま人材不足に直結し、日本は低成長時代から脱却できない状況があります。一つの選択肢は大胆に移民を受け入れる事ですが、言語の壁がありますので、人員不足では無く人材不足という状況、日本国内で不足している高度人材、デジタルスキルを有して、且つ日本語に高度に対応、という人材はなかなか日本国内では確保できません。

 語学という部分では、専門教育のかなりの分野まで母国語にて対応出来ることは大きな意味があります、結果論ですが、日本語語彙の多さは様々な言語の邦訳に寄与していますし、現実問題として学術論文に占める日本語の地位は理系分野と文系分野でフランス語、ドイツ語に並ぶ水準にあります。しかし、英語から距離を置く論拠とはならない事も確かです。

 自動翻訳技術はかなり発達しましたが、音声の自動通訳には未だ日常会話の域をでるものではありません、しかし、オンラインではこの問題が幾分か解決し得るのですね。そして忘れてはならないのは時差でして、時差は難点のように見受けられるのですが、テレワークの労働集約を行うならば、こちらの就寝時間の間に進捗が期待できる利点ともなります。

 製造業から完全に脱却する選択肢は必要ありません、しかし、思い切った先端サービス産業に転換してゆかなければ、先端サービス産業の典型とされるGAFAとされるGoogleやAppleにFacebookとAmazonのような高付加価値産業は進まず、脱炭素社会が進む中で温室効果ガス排出権料だけを延々支払わされる未来しか待っていません。するともう一つ。

 オンライン教育について。テレワークと共にもう一つ重視する機会は、大学教育のオンライン化です。大学進学に併せて東京へ、という実例は多いようですが、東京での生活物価の地方との格差がかなり深刻な進学への障壁となっていまして、実際問題、奨学金という名の教育ローンと共に負担は大きくなっています。オンライン教育は打開策にならないか。

 大学教育における経済負担、大学教育は専門の取得が目的であり、義務教育とその延長線上の高等教育のような知識の集積だけが求められるものではありません、知識の集積は寧ろ専門学校の分野ともいえる。もちろん、オンライン教育は文系分野に限ります、まさか原子力工学科の学生の為に、大学が実験用原子炉を学生宅に宅配する訳にも行きますまい。

 理系のオンライン教育では、工学部土木科の学生アパートに毎週のように実習用建築資材が送られ続け途方に暮れたとか、体育講義では木造アパート故に可能な限り画面に従って運動を、と言われ、出来たのは手を振る事だけの体育だった、とか椿事は数多聞いたのが2020年のオンライン教育ではありました、しかし文系分野ほどオンラインには適している。

 大学教育の強化の為にも、例えば政府は電子書籍の電子図書館制度など、学生が必要とする専門書籍等について、年間一定期間に上限を加えた上で著作権法の柔軟運用を行う施策、大学図書館の利用柔軟性を高める等の措置を行うべきでしょう。これは電子複製に他ならない為、著者が不利益を被らないよう対象専門書籍等は慎重に確定すべきではありますが。

 大学教育のオンライン化は、サテライトキャンパスなどにおいて先コロナ時代より既に遠隔講義等が行われていますが、勿論対面講義を否定するものではないのですけれども、先進させ、また必要な専門図書への遠隔アクセスを担保する制度を構築する事で、専門領域の研究は容易となりますし、大学キャンパスに囚われないインターンシップも可能になる。

 留学についても、大学側が海外の提携校との間で思い切ったオンライン化の取り組みを行っているならば、学生に渡航費用の負担を省いたオンライン留学というものが可能だったのではないか、と。実際のところ、短期間の語学留学を除けば長期の専門分野の履修は、就職活動のインターンシップ等と重なる為に留学そのものが忌避される傾向があります。

 大学生というのは、一回生で基礎科目、二回生で専門領域を画定し、専門演習は三回生から、となりますのでインターンシップがここ20年間で就職活動において重視されるようになりますと、留学の期間、セメスター単位の留学は語学留学以外、専門分野の知見を広める為の留学は難しくなってしまうのですね。これが、オンラインならば両立し得るという。

 デジタル庁の職員募集が始りましたが、これも大学教育におけるオンライン教育常態化に思い切った施策を執るならば、いわば労働者や経営者が大学教育を受けるという一つの関門でオンラインに親和する機会となるため、世代交代というほどに社会のデジタル化を進める事となるでしょう。そして2000年代から模索を続けたグローバル人材を養成できよう。

 COVID-19という非常事態ではありましたが、オンライン講義による脱地域性により首都圏人材に偏重する産業構造を、前の安倍政権が提唱した一億総活躍社会と地方創生へ転換させ、テレワークにより世界規模の先端サービス業における外注体制を構築する踏み台と出来れば、日本型の、時間集約型の労働生産性から脱却できるかもしれません。これこそがポストコロナ時代に必要な変革と考えます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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令和三年-新年防衛論集:ポストコロナ時代の防衛安全保障(7)次の中国発世界的流行禍へ備え

2021-01-08 20:00:06 | 北大路機関特別企画
■戦後五回目の中国発世界的流行
 今回の話題は防衛よりも少し話題を転じまして、現状のままでは遠くない将来に再来するであろうCOVID-19規模の世界的流行禍パンデミーについて。

 ポストコロナの安全保障。もう一つ考えなければならないのは、COVID-19の次に生じるであろう中国からの大規模な流行禍です。これは、中国の衛生観念と政治体制に国民文化というものが、偶然合わさる事で流行禍というものが定期的に醸成されるのかもしれません、何故ならば、SARS,香港かぜ、アジア風邪、戦後に四度流行禍が起きているのだから。

 武漢中心病院の眼科医が早い段階で新型ウィルスの警鐘を鳴らした事に対し、中国当局は彼を逮捕し流言飛語の流布で取り締まった、習近平国家主席は3月10日まで中国国内での感染者は湖北省でしか確認されていないとして、湖北省周辺は勿論、北京市一部街区においてさえ現実に都市封鎖が行われている最中にも空港を閉鎖せず、人の移動を続けていた。

 次の危険な感染症について、中国政府は2000年代に二回あった世界的流行禍と同じように情報を、世界へ危険な規模まで拡大する段階まで開示しない可能性は高く、特に中国政府の情報隠ぺい体質というものが、COVID-19を契機に改善された点は残念ながら皆無である事から、遠くない将来においても、もう一度同じような状況は起こり得ると考えます。

 衛生観念と政治体制に国民文化、こうした背景があると前述したのは、疾病発生を地方政府が中央政府に報告した場合に地方政府高官が衛生対策失敗の責任を負わされ更迭されるという政治体制の問題、公衆衛生よりも対外的対面を重視する公衆衛生優先度の欠如、そして漢方や食文化等の野生動物や自然と調和する国民文化が、残念ながら影響しています。

 新型インフルエンザか新型コロナウィルスがCOVID-19の次に発生した場合、残念ながら仮に中央政府が通報枠組等の地方政府を超えた疾病管理情報網を整備しようとも、これは最早政治文化と政治システムの段階で内部化されていますので、中央政府が情報を得ると同時にWHO世界保健機関へ公表し共に感染封じ込めへ連携する可能性、難しいでしょう。

 COVID-19発生初期についても、中国は情報隠ぺいに全力を挙げて取り組み、感染封じ込めよりも情報封鎖へインターネット検閲を強化した事は残念ながら事実です。中国地方政府と中央政府、中国政府はインターネット検閲の実態を公表していない為に共産党中央部の指示か、地方政府が中央政府へ忖度し実施したのかは、現時点では定かではありません。

 SARS、2002年に発生し中国を中心に北半球へ拡大した重症急性呼吸器症候群についても2002年11月に中国広東省において症例が確認されていましたが、中国政府は新型ウィルスの国際社会の発表を2003年2月まで大きく遅らせた事、爆発的感染拡大の要因となっています。もっともWHO世界保健機関はカナダの情報機関より報告を受けていましたが。

 GPHINグローバル公共衛生情報機構、カナダ政府の公共情報収集機関がWHOへ報告があった、これは中国国内のインターネット情報を監視中に、インフルエンザ爆発的流行、という特定の用語が2002年末に中国国内にて厳しく検閲対象となっている兆候を発見し、中国国内で中国政府が把握しているが国際社会に発表しない爆発的感染への、第一報でした。

 SARSを何故中国政府が隠蔽しようとしたかは不明です、特にSARSは中国政府が発表した感染者数と死者数、各国で確認された感染者数と死者数を統計しますと、致死率9.6%という恐るべき高さでした。もっともWHOは2003年7月5日に封じ込め成功を公式発表しており、死者数774名に抑えられたこともあり、SARSの情報隠ぺいは見過ごされました。

 陰謀論にくみするものではありません、先ずこの点は明確としたい。陰謀論とは、中国政府がCOVID-19について発生初期に危険性を把握しつつも、敢えて世界と中国の人の移動を維持させた事で世界中にCIVID-19感染拡大を故意に助長し、欧州や日本とアメリカで感染爆発を起こさせる一方、自国が感染早期鎮静化させる事で影響力拡大を狙った、という。

 WHO世界保健機関事務局長がCOVID-19感染初期に中国を訪問した際に中国政府が公衆衛生緊急事態宣言PHEICの発動を見送るよう圧力をかけ、二週間に渡り各国に緊急対応を執る時機を遅らせた点や、マスク外交にワクチン外交という中国の施策は現実として有るのですが、中国がCOVID-19を生物兵器のように散布した事実は、現実としてありません。

 中国高速鉄道事故。ただ、現実を視ますと2011年7月に発生した温州市高速鉄道衝突脱線事故における事故車両現場埋設の事例のように、中国では現場への過度な責任の押し付けが行われる等背景はあるにしても、情報隠ぺい体質というものは根本から改善させるのは不可能であり、これを世界が求めた場合は新しい冷戦構造を醸成する懸念もあるでしょう。

 難しい問題です、現実としては疾病情報について、中国政府は各国に情報開示をまじめに取り組んでもらいたいものですが、そもそも事実というものは政治力が造るものであり科学的検証は政治により操作されるのが当たり前、という価値観が定着しているのですから、私たちが中国を理解できない様に、中国の政治システムも理解の選択肢がそもそも、ない。

 国家間対立に繋がる懸念か次の感染拡大を看過するか、実のところ、COVID-19の次の感染拡大を願いたい点では世界は一致できるでしょう、COVID-19はワクチン接種が開始されても一日当たりの死者数は世界で1万6000名規模、全世界での死者数は183万名で、ワクチンが普及する2023年までに恐らくアジア風邪死者300万を遥かに上回る規模に達する。

 何故中国からこうした感染拡大が起こるのか、という視点で考えますと、疾病情報のブラックホールと云わざるを得ないようなSARS,COVID-19の感染初期の情報封鎖が在り、そしてアジア風邪や香港かぜの時代とは比較にならない程に中国の経済力が成長した事で、中国を中心とした人の流れが醸成されている事が、過去にない世界の広がりの一端、とも。

 世界第二の経済大国となった中国なのですから、中国には責任が求められます。しかし、大量の中国からの人の流れと共に世界中に深刻な感染症をまき散らす正当性とはなりません、それは無いといわれてもこれが結果です。発展途上国かつ世界の最貧国であった時代の政治システムをそのまま維持している事が問題の背景に在るようにも思えるのですよね。

 オーストラリアと中国の深刻な政治対立、2021年に至るも大きな影響を及ぼしています。もともとこの対立はオーストラリア政府が感染源を解明するべく患者0号という視点から中国への情報公開を希望したところ、何故か中国政府は次々と様々な理由を点け豪州製輸入品関税や輸入禁止措置を執りました。一説には中国政府は前述の陰謀論を警戒したとも。

 天安門事件を始め、中国は大国を名乗りますが政権基盤は依然として脆弱であり、こうした基盤の揺らぎに繋がる命題を過度に警戒しているとも見て取れるものです。ただ、世界は次のCOVID-19という衝撃に耐えられるかは未知数である事もまた事実で、中国の国家基盤を破綻させない事に留意しつつ、しかし情報開示が行える変革は必要となりましょう。

 ポピュリズムの時代。さて、こうした変革が中国に求められる背景には、2020年代の世界はポピュリズム、大衆迎合を期した朝三暮四主義の波が各国政治へ影響を及ぼしており、この朝三暮四主義とは短絡的な陰謀論と不思議な親和性を有しているのですね。故に、中国情報開示が進まなければ、中国陰謀論という安直な心象が世界政治へ影響もありえる。

 WHO世界保健機関専門調査団の中国入国拒否。さてこうした話題が2021年に入り早速ありました、習主席自らが受け入れを表明したWHO調査団が直前に停止された訳ですので、情報公開という部分では、ほぼ疫学的検証が難しいであろう発生一年後でも開示出来ないものがあるのか、嘆息してしまうのですが、なんとか中国変革へ道の模索が必要でしょう。

 TPP環太平洋包括協力協定。日本が中心となり環太平洋諸国11か国が参画する世界最大規模の経済協力協定です。先日、中国が参加を表明し、TPPの盟主となった日本では菅総理大臣が、国営企業等の制度の残る中国では参加するには障壁が大き過ぎる、として事実上の拒否の姿勢を示しましたが、逆にTPP参画は中国に変革を求める好機とならないか。

 情報公開や国営企業民営化、TPP参画はある意味、EU欧州連合へ加入できるよう東欧諸国が変革を推し進めた背景と共通する部分があるように思えます。無論中国が応じる訳は無い、と反論もあるかもしれませんが、全く取り付く島もないとは言い切れないのですね。そしてこの枠組みが、アジア版ヘルシンキ宣言となる可能性もある。1975年の宣言です。

 ヘルシンキ宣言、1975年にソ連と欧州諸国にアメリカカナダが参画して合意された全欧安全保障協力会議CSCEの宣言です。これは元々、ソ連が平和攻勢として進めた会議ではありましたが、この枠組みが様々なソ連を含む国際協定へのシナジー効果を生み、移動の自由や人権尊重という視点から東西冷戦の時代の根本的な雪解けへ発展した歴史もあります。

 日本は戦後一貫して中国の発展に尽力しました。実際、文化大革命や天安門事件については今日的に憂慮するものがありましたし、技術協力をどれだけ行っても西日本への軍事圧力増大という背景は少し残念な結果ではあり、また日本と中国は同じ国ではないという認識はある一方、ポストコロナ時代が過度に国家間緊張を生まぬよう、願いたいものですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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令和三年-新年防衛論集:ポストコロナ時代の防衛安全保障(6)脅威過大の本土防空と宇宙空間

2021-01-07 20:20:55 | 北大路機関特別企画
■南西方面の大空に異常な緊張
 陸海空の防衛においてもっとも端的に緊張が突き付けられるのは空軍と航空防衛力が突き付けあう空の防衛です。

 航空防衛について。2020年は台湾を舞台に中国の軍事圧力について常識外の強大な圧力が生じうることを目の当たりとしまして、この結果と言うべきでしょう、本来は国家予算節約のための行政刷新会議においてもF-2後継機、次期戦闘機開発に際しては十分な予算を投じる必要があると、河野行政改革担当大臣が発言したほどの緊張度がありました。

 F-35戦闘機147機体制への拡充、そしてF-15戦闘機の能力向上改修、さらにはF-2戦闘機後継機の開発、と航空防衛は年々強化されてゆくのですが、そもそも平時における非常識な軍事圧力により、一回あたりの運用費用の大きな機体に何度も発進を強いることで消耗させる、という状況には、強力な戦闘機陣は、果たして対応できるものなのでしょうか。

 緊急発進4500回、隣接する台湾空軍では2020年に非常識といえるほどの領空接近事案が続き、日本の過去最大の緊急発進件数は1100回でしかありませんから、これも多いが平時として4500回というのは、異常と言わざるを得ず、言い換えれば、いつこの圧力が日本列島に突きつけられるか、ということを真剣に考えなければならない事態といえるでしょう。

 台湾のこの現状は対岸の火事なのでしょうか。確かに台湾は中国本土から台湾海峡を隔てているだけであり、近傍ではあります、が、中国空軍の戦闘機は現在、かなりの数が西日本までを本土からの戦闘行動半径に含めている状況があり、2000年代はじめの、中国空軍戦闘機の大半が沖縄県さえ行動圏外であった時代と違い、実際対岸の火事ではありません。

 本土防空を真剣に考える場合、現在の航空自衛隊が有する体制はどう考えるのか。私論としまして2015年、わずか五年前には航空団を大型化し、巨大な航空団が複数の航空隊を隷下に置き、航空隊単位で余裕のある飛行隊を脅威正面へ展開という機動運用にて対応できる、という認識ではありましたが、これも台湾の現状をみれば甘すぎるのかもしれません。

 F-2後継機とは別にT-7レッドホーク高等練習機を原型として、高等練習機とし用いうるが、最低限機関砲とAMRAAMを数発のみ搭載し、中間指令誘導能力を最低限付与させたレーダーを搭載させた、数あわせの戦闘機という選択肢など、もちろんレッドホークはエンジンからしてかなり強力ではあるのだが、数の不足を真剣に考える選択肢もあるでしょう。

 戦闘機以外のアプローチを真剣に検討するべきではないか。無人僚機により邀撃機を水増しする選択肢や、地上防空システムを抜本的に強化した上で軽量戦闘機を、邀撃管制機というかたちで実現させる、新時代の支援戦闘機というべき装備を開発する、もしくは戦闘機一機に対しての操縦要員確保を抜本から見直す案、何らかの新技術が必要な時代です。

 操縦要員を十分に確保する、というものが王道ですが、しかし、台湾にかけられた軍事圧力のような状況が、沖縄方面に転移した場合、例えば戦闘機が物理的に、沖縄には40機のF-15が配備されていますが、訓練を行わず緊急発進だけに特化させる極端な状況で、緊急発進を2機で行うとして、極論でも航空団に年間9000ソーティは現実的なのでしょうか。

 専守防衛は内線作戦、もともと軍事的に不利ではあります、そして内線作戦は防衛正面の主導権を有していませんので、南西諸島に向けられた軍事圧力が、牽制の意味を込めて小笠原に、西日本に、北陸に、突如転向する可能性も否定できないものでして、操縦要員を確保したとしても戦闘機の物理的寿命はなんともならず、現水準では大きな課題といえる。

 無人僚機、豪州が地上試験を繰り返しているロイヤルウイングマンがその好例ですが、こうした選択肢もあるのかもしれません。戦闘機の緊急発進とともに同行し、時に脅威へ接近し、時に盾となり、時に索敵を担う、というもの。無人機の利点である滞空時間の長さを捨てているため、実はリスクのある選択肢でもあるのですが、一つの大きな関心事です。

 支援戦闘機。既に無い区分ですが、F-35に比較し確実に性能では対抗できないものの、いくつかの任務でF-35を凌駕する軽量戦闘機を開発する、という選択肢です。当然ですが、F-1支援戦闘機やジャギュア攻撃機の現代版に用はありません、何故ならば中国軍機で日本間で接近できる機体はSu-27系統とそのコピーなど高性能機が多く、太刀打ちできない。

 しかし、無謀な案ですが、MQ-57ステルス無人機を有人化したような、ステルス性能に重点を置いた低コスト航空機と、地上に配備する広域防空ミサイル網とを連接し、地対空ミサイルのセンサーノードに近いかたちで有人支援戦闘機を運用する、という選択肢はあるのかもしれません。MQ-57はコスト面でMQ-8などよりも安価に収めた、ともされる。

 Su-27系統の航空機に支援戦闘機で対抗するのは不可能です、しかし、地対空ミサイルの覆域内であれば、ステルス製などで秀でていれば、いきなり攻撃するのではなく警告射撃を行う航空機に甘んじた支援戦闘機というものはあり得るとおもう。特にペトリオットミサイルの後継にスタンダードSM-6のような400kmの射程をもつものが充てられれば、と。

 要撃管制機、こう支援戦闘機を表現するのですが、安価と地上防空システムを一体化させたような装備も、検討すべきなのかも知れません。この支援戦闘機、要撃以外にはステルス性を活かし例えば我が方の情報優位を危険にさらす無人攻撃機などへの対処専従や、有人運用と無人運用をハイブリッド型とした上で監視任務に充てるなど考えられるでしょう。

 もう一つ。航空防衛について、限られた予算、という認識とは矛盾することは承知で、航空宇宙防衛、という概念へ一歩進む必要は感じています。具体的には海洋防衛における情報優位の喪失が、人工衛星による偵察により顕著となる可能性があるためです。いや、既に1980年代後半から海洋観測衛星により空母の位置が秘匿できなくなる指摘はあった。

 宇宙からの監視体制、海洋観測衛星が航空母艦を発見できるとか、海水温度変化を観測することで選考中の原子力潜水艦を発見できる、という理論はありましたが、なにしろ情報量が膨大であり、1980年代、そののちに1990年代においても、現実的な情報優位の喪失という視点からは議論されていません。しかし2020年代にも当てはまるのでしょうか。

 AIによる情報処理能力の飛躍的向上、この視点を踏まえると真剣に脅威という認識は必要となるのかもしれません。既に演習などで行動海域が判明している分野では、航空母艦は勿論、日本の汎用護衛艦を撮影した粗い海洋監視衛星画像が数多く発表されており、なかなかに驚かされるものです。宇宙条約により保護されている人工衛星からの軍事情報だ。

 人工衛星迎撃、安易に結論づけられるものではありませんが、ASM-135-ASATのようなもの、とまではいかずともスタンダードSM-3の改良型により人工衛星への対処能力というものを考える段階でしょう、もちろん実際に宇宙条約を無視して行うのではなく、仮に周辺国が我が国情報収集衛星に攻撃を加えた場合への報復的抑止力として、その準備を、です。

 スタンダードSM-3ロケットモーターを利用した、イージス艦からの発射可能な海洋情報収集衛星、スタンダードSM-3は高度1000km以上まで上昇可能ですので、こうしたものを装備し、応急的な偵察衛星として用いる選択肢も検討するべきでしょう。宇宙空間の利用は航空防衛の延長線上にもう少し現実的に考える段階だと思うのですが、難しい問題です。

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令和三年-新年防衛論集:ポストコロナ時代の防衛安全保障(5)汎用護衛艦-そう駆逐艦の時代だ

2021-01-06 20:21:55 | 北大路機関特別企画
■新しい88艦隊論を超えて
 海上防衛については、真剣に考えなければ周辺地域について誤った武力紛争誘発の要因を造る為に重要です。

 海上自衛隊の改編について、これまでは"新しい88艦隊"が必要だ、という視点に注視していました、ヘリコプター搭載護衛艦8隻とイージス艦8隻体制、つまり現状よりもヘリコプター搭載護衛艦を4隻増強し、護衛艦隊を構成する護衛隊8個全てにヘリコプター搭載護衛艦を配備し、艦隊の能力水準を均衡させ、任務対応能力を強化させる、という案です。

 全通飛行甲板型護衛艦というべきヘリコプター搭載護衛艦は、膨大な航空機運用能力とともに艦隊指揮中枢艦となり、海上防衛力には必須の護衛艦と考えています、F-35B搭載改修が開始され、ステルス性と複合光学センサーによる索敵能力の高さは、F-35Bを単なる強力な戦闘機に留まらず、圧倒的な情報優位を担保するゲームチェンジャーという機体だ。

 イージス艦の艦対空ミサイルは弾道ミサイル防衛に用いるスタンダードSM-3の射程が1300kmに延伸したのに驚いたのは十年前、いまや対巡航ミサイル、対航空機用のスタンダードSM-6でも射程は370kmに達しており、艦隊が情報優位を獲得すべき空間は拡大を続けています、ヘリコプター搭載護衛艦の指揮中枢能力はこの為に必須というほどに高い。

 しかし、この段階で充分なのか、というほどに日本周辺の状況は転換期にあるのですね、新しい88艦隊、こう表現しますと比類なき防衛力強化とみえますが、実質的には現在の護衛艦隊はあとヘリコプター搭載護衛艦を4隻増強するだけで充分、という視点でもあったのですが。いずも型の建造費は1000億円、イージスアショアよりも遙かに安価なのですね。

 これだけで充分なのか、ここが率直な印象でして、そろそろ護衛艦隊全体の能力を底上げするという検討が、必要な時期となっているのではないでそうか。近年ではスタンドオフミサイルの搭載という選択肢もあるようですが、要するに護衛艦隊全体の能力を底上げするということは、数の主力、汎用護衛艦能力を底上げする、ということにほかなりません。

 むらさめ型護衛艦、1996年から竣工した護衛艦です。ここから第二世代汎用護衛艦として20隻が2019年まで20年以上を要して整備したのですが、むらさめ竣工から25年が経った、2021年というのはこういった年なのですね。護衛艦の寿命は24年、と昔は言われたものですが今は延命改修により32年程度まで延伸しています、しかしそれもあと7年だ。

 あさひ型護衛艦に続く新しい護衛艦を考えるか、むらさめ型護衛艦の延命改修を行い、竣工から40年程度運用するか、そろそろ"新しい88艦隊"というだけではなく、海上防衛の主柱となる艦隊護衛艦はどうあるべきか、という視点まで進まねばならない段階といえます。もちろん、30FFM、くまの以降の護衛艦の拡大改良型、とする選択肢もあり得る。

 くまの以降の3900t型護衛艦を大型化する、こうした選択肢はありえるとは考えます、FFMは大きくはありませんが、基本設計は1990年代の護衛艦むらさめ型に拡大改良を続けて重ね2010年代までを一杯使った護衛艦から2020年代に初めて世代交代したものなのですから、4500t程度まで拡大しVLSを拡充、航空格納庫を拡張する選択肢は一応は、あります。

 ただ、財政状況を考えますと、むらさめ型護衛艦を延命改修し、使い続ける、という選択肢も検討すべきでしょう。まだ使える、具体的には航空格納庫、ヘリコプターを2機搭載できる格納庫容積がありながら予備機区画という位置づけで、常用2機という配置ではありません。ここを、格納庫扉の形状を若干変え、無人牽引装置を搭載するだけで、どうか。

 SH-60K哨戒ヘリコプター、常用1機でアフリカ方面派遣に際しては予備機を搭載する、という方式ですが、航空格納庫の扉を若干改修するだけで、SH-60Kを常用2機とすることができますし、無人牽引装置、ひゅうが型護衛艦に搭載されているような巨大ルンバというべきヘリコプター移動装置を追加することで運用に際し着艦拘束装置を増設せずともよい。

 たかなみ型はじめ拡大改良型も同様にヘリコプターを増強常用できるだけでも大きな意味がありますし、無人航空機牽引装置であればSH-60Kに留まらず、今後自衛隊に導入が開始されるMQ-8無人ヘリコプター運用能力も補完することとなり、汎用護衛艦の能力を、格納庫扉、若干地味な改造ではあるのですけれど、大きく底上げすることとなるでしょう。

 あさぎり型、はつゆき型護衛艦のハープーンミサイルとSSM-1、問題は現在の第二世代汎用護衛艦の搭載するミサイルの射程が第一世代汎用護衛艦の射程とそれほど変わらない点です、短射程艦対空ミサイルはシースパローからESSMに代わり延伸しましたが、対艦ミサイルの射程は200km以下、中国やロシアのミサイルと比較し数分の一というもの。

 SSM-1対艦ミサイルの後継が必要となります。これはアメリカに習ってNSMミサイル、という選択肢もありますが、NSM発射筒はハープーン発射筒とは形状が大きく異なり、SSM-1発射筒の区画にそのまま搭載するという訳にはいきません。12式地対艦ミサイル改良型の後継が射程2000kmまで延伸させる方針のようですが、その艦載型を待ちましょう。

 OPS-50のような多機能レーダーへの換装、こうした選択肢もあり得るのですが、それ以上に重要なのは艦隊のシステム化にともないセンサーノードとの連接が従来の個艦優位主義を置き換えるという視点です、OPS-50とFCS-2Cでは性能が大きく発展していますが、通信能力さえ確保するならばFCS-2Cシステム艦であっても情報共有により底上げする。

 VLS増設、実際のところ、費用に余裕があるならば思い切って実施すべきはこちらかもしれません、自衛隊の艦載装備射程延伸は前述の通りですが、当然のように周辺国の射程延伸も顕著です、この場合、射程延伸は飽和攻撃実施にさいしての冗長性を意味するのですね、遙か遠くから飽和攻撃に参加できるのですから。するとこちらも備えが必要だ、と。

 むらさめ型であれば、船体中央部のMk56VLS区画を標準的なMK41VLSに切り替えるという選択肢がありますし、たかなみ型、あきづき型、あさひ型については前部VLSについて、復原性が許せば48セル、艦砲を思い切って現行の5インチ砲から3インチ砲に換装してでも軽量化、その軽量化に沿ってVLSを60セルに拡張する選択肢もあり得るでしょう。

 ヘリコプター搭載護衛艦増強について。ここで重要となるのは、航空機整備能力です。はるな型ヘリコプター搭載護衛艦の時代から護衛艦はつゆき型など汎用護衛艦の飛行班では手に負えない重整備支援などを実施してきましたが、ひゅうが型以降のヘリコプター搭載護衛艦は艦内で回転翼を展開させての重整備さえ可能なほどの整備能力があるのですね。

 新しい88艦隊は、やはり必要です。しかしその上で、もはやヘリコプター搭載護衛艦だけを増勢するだけで充分な防衛力を維持できる、という認識ではなく、遠くない将来に迎える現用の第二世代汎用護衛艦の旧式化と老朽化を前に、第三世代汎用護衛艦の量産を準備するのか、それとも第二世代護衛艦を延命するのか、選択の時が迫っている時代です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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令和三年-新年防衛論集:ポストコロナ時代の防衛安全保障(4)本土防衛に不可欠の二つの装備

2021-01-05 20:20:56 | 北大路機関特別企画
■陸上自衛隊の強みを活かす
 陸上防衛に関する重要な話題であるもののCOVID-19影響によりホビーショップ巡りが出来ずガルパン関連の写真をお届けできないのは残念です。

 自衛隊の装備について。機械化が遅れていることは事実です、装甲戦闘車の配備の遅れは現実ですし、AH-64D戦闘ヘリコプターの配備数も13機というのは、AH-1S対戦車ヘリコプターの配備が96機にわたったことを考えれば如何にも少ないことは事実です。しかし、これをもって自衛隊の装備水準が低い、と考えるのは余りに早計といえるでしょう。だが。

 強みはある。空中機動能力が冷戦時代における自衛隊の強みでした、NATO第一線部隊に対して、確かに73式装甲車の数は少なすぎました、1980年代後半に大きな改良なく74式戦車の量産を続けていた点も今考えるならば、第一線の戦車乗員への背徳ではないか、と考えます、実際問題、当時ソ連軍との間で北海道にて戦車戦の可能性は充分ありました。

 そうした中において、対戦車ヘリコプターAH-1Sを充分配備したことは評価といえましたし、もう一つ、航空自衛隊のナイキ地対空ミサイル部隊とはべつに陸上自衛隊が大量にホーク地対空ミサイルを保有し、しかも一個群を近代化するのに一個普通科連隊に73式装甲車を充足できるだけの費用を8個群に3回、装甲車24個連隊分を投入し改修したのです。

 当時と比較した場合、日本の防衛予算はそれほど縮小していません、インフレ率が低かったですので、それほど装備調達費用も減っていない訳でして、もっとも、73式装甲車と96式装輪装甲車は同額でも89式装甲戦闘車は取得費用が五倍も違い、AH-1Sの最終調達費用が48億円ですのでAH-64Dの取得費用72億円というのは、確かに高くなっていますが。

 地対艦ミサイルと地対空ミサイル。それほど防衛予算が減っていない中で、それならばどこに予算は流れているか。端的には1兆円以上を要したミサイル防衛に挙げられるのですけれども、陸上自衛隊はなかでも地対艦ミサイルと地対空ミサイルの予算にかなり注力しています。実際、この水準のミサイルを有する陸軍は世界中を見回しても中々ありません。

 陸上防衛について、個の個性は大きな強みなのですよね。しかし、その上で、装甲戦闘車か重装甲車というものを最低限、戦闘ヘリコプターも最低限、確保しなければならない最低限を割り込んでいるように見えまして、ここはもちろん、取得に費用は一定程度必要となるのですが、思い切って配備する必要を考えるのですね。そう多くはないのだけれど。

 戦闘ヘリコプターなどは、一定以下の配備数では、そもそも戦術研究を行えません、対外試合が出来ない学校が2チームを組めない為に練習試合ができないような状況、というものでしょうか。陸上自衛隊は当初62機の取得を検討していたとされますが、AH-64D、最低でも48機を取得し、例えば中央に集約し各方面へ分遣隊を派遣する規模が必要だ。

 AH-64D、戦闘ヘリコプターの装備射程は延々と延伸しており、これは対戦車ミサイルで射程100kmに上る射程の遠大な装備品がロシア軍などで開発されているために世界的な潮流といえるのですが、例えばAH-64Dでも強力なレーダーの一つの運用方式として、無人機の管制は元々盛り込まれていたのですが、AH-64E,その強化が更に進んでいる現状がある。

 戦闘ヘリコプターは時代遅れ、という錯覚が、一部にあるとは聞くのですが、無人偵察機と徘徊式弾薬と長射程の対戦車ミサイルを搭載し、100km以遠に無人偵察機を派遣させ、いわばフリゲイトとLAMPSヘリコプターのようなセンサーノードとしての運用を無人機に委ね、アパッチがいわばフリゲイトの役割を担うという、そんな時代が近いのですね。

 今の日本ならばAH-1Sの乗員も多い。無人機の時代といわれる昨今ですが、錯覚なのかもしれません、無人機は必要で必須ですが、それだけで成り立つ時代でもない、RQ-4グローバルホークの時代でも未だにU-2偵察機が飛行しているように、ね。U-2が生きながらえる背景にはセンサー搭載能力がRQ-4よりも遙かに大きい為です。そしてこれはAH-64Dにも当てはまるのかも知れないのです。

 MQ-8ファイアスカウト、海上自衛隊が導入する無人ヘリコプターでヘルファイア対戦車ミサイルを搭載できます。自衛隊も対戦車ヘリコプター隊16機をMQ-8の8機程度で置き換えることは可能かもしれません、しかしそうした場合でもAH-64Dは必要です、その論拠としてAH-64DやAH-64Eはエンジンが違うのですね、エンジン出力は汎用性がたかい。

 AH-64Eのエンジン出力を応用し、レーザーを搭載する計画がある。レーザーといいますと大げさに見えますが、例えばクワッドドローンと称される数kg程度の無人機のカメラ素子やモーター駆動部を焼ききれる程度のものです。しかし、近年新しい脅威となりつつある徘徊式弾薬などには、ロングボウレーダーで捕捉しレーザーにて連続攻撃を加えられる。

 もちろん、そんなものMQ-8の改良型にT-700エンジンを双発して十分な出力を持たせてロングボウレーダーを搭載するか、SH-60Kを無人化してレーザーとレーダーを搭載すれば良い、と無人機万能論からは反論されるかもしれませんが、無人機の利点に安価というものが考えられる限り、AH-64DやAH-64Eの必要性は不変とも言いうるのでは、と思う。

 装甲戦闘車も、実のところ自衛隊の規模を考えれば430両程度は必要だと思う、今が68両ですので430両は多すぎる、とおもわれるかもしれませんが、73式装甲車が350両、60式装甲車が428両量産されているのですから、せめて21世紀、長らく世界第二位であり中国の台頭で世界第三位とはなってもまだ日本は経済大国、多すぎる負担ではありません。

 60式装甲車並の数が必要だ、それも早急に、と考える。こう考える背景には装甲戦闘車の交戦距離は30mm機関砲の場合で2000mにも達し、74式戦車の交戦距離に近い水準です。陸上自衛隊は短期間で戦車を大量廃止しましたので、戦車乗員は大量に、しかし戦車に乗ることなく勤務していますが、装甲戦闘車の運用には74式乗り、彼らが不可欠といえる。

 AAV-7,戦車の乗員が不可欠といえるのは普通科部隊が水陸機動団創設に際しAAV-7両用強襲車を検討した段階で、96式装輪装甲車で手一杯という九州の普通科部隊には手に負えないという現実に直面し、当面が第4戦車大隊に委託した事例が。そのために一時期、第4師団祭は10式戦車にAAV-7にと式典が大迫力だった、という椿事もあったのですけれど。

 40mmCTA機関砲でAP弾を用いた場合は第一世代戦車の75mm徹甲弾や90mm粘着榴弾よりも貫徹力が大きい、第三世代戦車であっても側面ならば貫徹しうる性能です、この運用には戦車乗員が必要で、しかも一朝一夕には養成できません、装甲戦闘車の増勢は今まさに急務という段階なのですね。そして装甲戦闘車が必要という背景にはもうひとつ。

 3P弾、所謂調整散弾ですが、これは今後無人機体策で必須の装備となります、実際アメリカ海兵隊ではハンヴィーの後継となるJLTV統合戦術車両に30mm機関砲を搭載したものを大量に配備し、無人機狩りに用いる構想があります、無人機は安価な脅威ですが、正規軍がまじめに対策を進めるならば、技術的奇襲に留まるという一例といえましょう。

 一方、言い換えるならば無人機による脅威を正面から考えると、こうしただ一線火力の強化は必要です、しかし思い切った人員の削減を是認してでも、機械化へ梶を切るならば、コンパクトではありますが遊兵の存在しない機動打撃に重点を置いた部隊体系へ転換することが可能となるでしょう。実際、これ以外の装備はほぼ揃っているのですから、ね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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令和三年-新年防衛論集:ポストコロナ時代の防衛安全保障(3)陸上防衛体系に一大変革が必要

2021-01-04 20:00:19 | 北大路機関特別企画
■機動運用部隊へ転換の覚悟を
 ポストコロナ時代は将来の脅威に備えての種火のように維持する作戦単位ではなく現実的な緊張の増大を認識せざるを得ません。

 陸上自衛隊の問題は一部の精鋭部隊や機動運用部隊に任務が集中している状況です。思い切って機動運用部隊以外全て予備役部隊とすることで予算を捻出する、こうした覚悟が必要です。もっとも、これは即応機動連隊以外全て廃止しろ、というような海洋国家ならではの海空重視論者、言い換えれば陸上防衛不要論、極論同調というものではありません。

 しかし陸上自衛隊の作戦単位を再構築する必要があります、具体的には従来の歩兵主体の編成から、思い切って人員をコンパクト化し、機動運用部隊へ大きく転換する必要がある、ということです。これは有事の際に遊兵を生じさせないという視点であり、たとえば現在では即応機動連隊などの機動部隊と地域配備部隊の運用における温度差が大きすぎます。

 即応機動連隊。全国で次々と編成され、最終的には7個連隊を編成するという。そして既に編成されている第10即応機動連隊、第15即応機動連隊、第22即応機動連隊、第42即応機動連隊は全国狭しと訓練を続けており、その様子が広報されるとおり、まさに自衛隊の看板部隊となっています、しかし、その一方で即応機動連隊以外の部隊現状は、という。

 総合近代化師団。全国に即応機動連隊が次々と編成される一方、即応機動連隊が大量に使用する装輪装甲車などはそれほど増強されていません、すると、その装輪装甲車の供給源というものが本来問題視されるべきですが、これらは総合近代化師団や総合近代化旅団から供給され、言い換えれば重装備部隊が引き抜きに遭い、結果的に弱体化しているのです。

 地域配備部隊と機動運用部隊、もともと自衛隊はすべてが地域配備部隊であり、機甲師団である第7師団や第1空挺団などが機動運用部隊と位置づけられた一方、たとえば冷戦時代にソ連に近い北海道の師団を中心に機械化が進められ、本州九州の部隊は有事の際に北海道へと増援へ展開するためにも軽量で機動力を高める、という運用区分がありました。

 総合近代化師団、2000年代から自衛隊は南西方面の防衛警備を重視する際、北海道の総合近代化師団や新たにコンパクト化した総合近代化旅団をその任務に充てることとなりました、なにしろ当時の総合近代化師団や総合近代化旅団は、普通科連隊のうち一個を装甲車で完全充足していましたし、戦車は90式戦車の配備が進み火砲も基本的に自走榴弾砲だ。

 しかし、即応機動連隊を編成し始めた2010年代半ば、装輪装甲車が不足するようになると、この総合近代化師団や総合近代化旅団から引き抜くようになり、本来重装備で戦略予備の盤石な防衛力を誇るべき重厚な編成から装甲車を引き抜いてしまったのですね。即応機動連隊は、重装備を見慣れていない本州では確かに強力に見える、しかし実際どうでしょう。

 ここで総合近代化師団と総合近代化旅団のもともとの編成を見ますと、2000年代初頭に一個普通科連隊のみ装甲化するという編成を改め、総合近代化師団と総合近代化旅団の隷下の普通科連隊へ一個中隊の装甲車を充てていました、そしてもともと北海道の部隊は戦車部隊にかなり余裕を以て配備していましたので、連隊戦闘団は極めて重厚且つ強大でした。

 連隊戦闘団を総合近代化師団の普通科連隊が編成しますと、90式戦車14両、96式装輪装甲車20両、99式自走榴弾砲10両、120mm重迫撃砲12門、ここに軽装甲機動車や高機動車が付きます。即応機動連隊は16式機動戦闘車20両、96式装輪装甲車40両、120mm重迫撃砲12門、ですので装備を見れば遙かに重厚ですが、ここから装甲車を引き抜いてゆく。

 パトリアAMV,モワクLAV,三菱重工機動装甲車。一応陸上自衛隊は96式装輪装甲車に代わる新装甲車の導入を開始する計画です。ともに取得費用は機動装甲車は2億5000万円程度、パトリアAMVとモワクLAVが250万ドル程度、96式装輪装甲車が9600万円程度ですので、思い切った高級車を買うものだ、感心したものですが、これが揃えば話は変わります。

 装輪装甲車。100億円規模のMV-22可動翼機を考えれば、かなり割安な装備と思えるのですが、総合近代化師団総合近代化旅団の普通科連隊に元通りの規模まで装甲車を配備し、即応機動連隊へ配備するならば、年間40両程度の量産を十五年程度継続する必要があります。もちろん、これくらいは普通に行わなければ無責任という印象でもあるのだけれど。

 普通科部隊であっても、むしろ高機動車主体の普通科部隊こそ戦略機動性が高い部隊、という認識で考えるべきではないでしょうか。例えば現在、一部の方面隊に方面対舟艇対戦車隊として多目的誘導弾が集約配備されていますが、37セット配備されているのですから2セットと中距離多目的誘導弾を組み合わせて普通科連隊へ配備したら、どうかと一案を。

 遠征機動連隊としまして、中距離多目的誘導弾と96式多目的誘導弾とを普通科部隊に組み合わせて配備し、即応機動連隊の機動戦闘車隊に対抗し軽量な対舟艇対戦車隊を置き、重迫撃砲中隊とともに機動運用させるならば、とにかく装備が軽量なのですから渡河はじめ地形障害の克服には強力な威力を発揮できますし、軽量な分、整備負担なども比較的低い。

 戦車部隊も思い切って装甲機動連隊というような、即応機動連隊の機動戦闘車隊を戦車隊に置き換えた編成の部隊を置き、もちろん機動戦闘車隊は2個中隊20両編成ですので、戦車大隊と比較しますと戦車単体の攻撃衝力は低くなってしまいますが、73式装甲車の後継にアメリカのAMPVのような装甲車を充てられれば、機動打撃力は大きく発揮できます。

 共通装軌車両、陸上自衛隊は89式装甲戦闘車の車体とともに73式装甲車の後継となる装甲輸送車両を共通化させる方針で後継装備の開発を進めるとともに海外製装備の取得も視野に情報収集を進めています、これは結果的に89式装甲戦闘車の機動力にあわせる結果となりますので、形式としてはアメリカのAMPVとおなじ発想に向かっているのですね。

 AMPV,アメリカがM-113の後継に充てている装甲車で、実体は砲塔を有さないM-2装甲戦闘車、エンジン出力に大きな余裕がありまして、M-113では難しかったM-1戦車の機動力に随伴することが可能です。もっとも、コングルベルク社製のRWS遠隔操作銃塔を搭載すると化けます、コングスベルク社は30mm砲搭載RWSなんてのも造っているから、ね。

 装甲機動連隊と遠征機動連隊、この提案の意味するところは、単に格好好い名前を提示しているのではありません、現在の師団普通科連隊は1200名規模ですが、即応機動連隊は850名、人員を29%コンパクト化できるのですね。重要なのはこの視点です、即応機動連隊や水陸機動団へ、精鋭部隊に人員を引き抜かれた師団の定員割れは深刻な水準にある。

 予備役部隊ではないのですから、充足率を高めなければなりません、すると安直ですが、自衛官実員を増やすか、定員を下げて充足率を現実に即したものとせねばなりません。人員枠というものを考えますと、将来への枠そのものを減らす縮小改編は勇気が要りますが、相応に有事に際し遊兵とならないよう、思い切った機動運用部隊化を考えねばなりません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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令和三年-新年防衛論集:ポストコロナ時代の防衛安全保障(2)変容続ける北東アジア軍事体系

2021-01-03 20:00:35 | 北大路機関特別企画
■専守防衛の変容と軍事技術
 ポストコロナの時代を見据えると共に軍事技術の発展と概念の変容も注視してゆく必要があるように考えます。

 1980年代に自衛隊が対艦ミサイルを本格的に配備開始した当時には、艦砲と比べて非常に長い射程がおどろきを持って迎えられました。ASM-1の射程40kmも127mm艦砲より長いものでしたし、ハープーンミサイルの射程は戦艦大和の主砲と比較し三倍以上、ともいわれたものです。しかし開発基盤と技術背景が、蒸気機関車と新幹線ほど違いました。

 日本の防衛、あれから40年以上が経ちまして、当然のように各種兵器の射程は日本とアメリカ以外大きく延伸しています、日本が延伸しなかったのは専守防衛の認識から、アメリカは1987年から2019年まで中距離核戦力全廃条約の制約があり、陸上配備型の550km以遠5500kmまでのミサイル保有が条約で厳しく制限されていた為です。そして現代は。

 戦闘ヘリコプターから発射される対戦車ミサイルの射程が100kmを超えている、こう説明しますと驚かれるでしょうか。いや、自衛隊のアパッチはそこまで高度ではありませんが、ALE空中発射センサーとしましてアメリカは、AH-64Eより無人機を発進させ、ロングボウレーダーにより管制を実施、攻撃を加える。AH-64でさえここまで長射程化しました。

 独善的な防衛観と一国平和主義に依拠した防衛の危険性は、中国の現在進めている一国防衛主義と日本の平和主義が重なる点があるとして前回、その限界と危険性を示していますが、防衛力というものは均衡が重要であり、均衡が綻ぶことはその破綻と、武力紛争を誘発する危険さえあります。すると、日本の防衛力についても一段階の変容が見えてきます。

 スタンドオフ兵器。自衛隊の新しい装備体系として導入が開始されます。実際にはF-35戦闘機やF-15戦闘機へ搭載する装備品導入は何年も前に決定し、既に予算に計上されているのですが、導入開始と共に新しく自衛隊が装備する地対艦誘導弾システムを大幅に射程を延伸させるという。これも島嶼部防衛用高速滑空弾として既に何年も研究中なのだけれど。

 新しい時代の日本の防衛を考えますと、スタンドオフ兵器というもの、その導入と周辺国の配備などの情勢を考えなければなりません。専守防衛を逸脱する、という批判もありますが、そもそもスタンドオフ兵器と銘打っていない通常の戦術兵器でさえ、大陸から日本列島へ充分到達するとなっては、飽和攻撃を受けた際の防空か抑止か、対策が必要です。

 1500km程度の射程であれば、今日的にはスタンドオフ兵器というよりは通常の戦術打撃力に収斂している、こうした認識で考えるべきでしょう、流石に例えば仮に日本が中距離弾道ミサイルの射程である5500km以遠の射程の装備を大量装備する、というならば、何処を狙うのか、と指摘するところですが、1500kmから、トマホーク程度までは許容しうる。

 トマホークの射程は2700kmですが、この程度までであれば、現在、世界各国で巡航ミサイルや長射程地対空ミサイルが普及している現状に鑑みれば、寧ろ防衛力の均衡を保つうえで必要である、と考えます。スタンドオフ兵器、そもそも地対空ミサイルの射程が1990年代の常識では100kmのものが長射程でしたが、ここがどんどん延伸しているのですね。

 独善性というものは此処で、現在の各国で進む地対空ミサイルの射程延伸を考えずにスタンドオフ兵器の議論をしており、実は敵基地攻撃能力云々ではなく、本来防衛的であるはずの地対空ミサイルが、周辺国の装備した地対空ミサイルの射程が沖縄県や九州の一部、北海道まで延びてきている、という現実を無視しているのですね。この現実をみていない。

 ロシア製S-400地対空ミサイル等は射程は500kmまで延伸していますので、単純論として500km以下の射程のミサイルでは策源地攻撃一つとっても重大な危険が伴います、そしてS-300等のミサイルは中国はじめ広く輸出され、敵基地攻撃能力を持たずとも、南西諸島や北海道が周辺国地対空ミサイルの射程内へ入る。その為に防衛政策転換が迫られた、と。

 特別な国ではない、普通の国である、こうした認識の上で、戦術兵器というものの射程が留まるところを知らず延伸されるなかで、日本だけが特別扱いでの平和を世界から補償されるものではない、という認識が必要です。こうした視点から、自衛隊装備は必要に応じた射程を有するものへ、延伸というよりは近代化されてゆく認識が、必要なのでしょう。

 海兵沿岸連隊。昨今は自衛隊の米軍化が進む、と所謂進歩的論壇から批判される事がありますが、何を言っているのだろう、というのが率直な印象です。その一例がアメリカ海兵隊が進める沿岸作戦連隊の編成です。もともとアメリカ海兵隊は水陸両用部隊の現在編成となる前には海外基地防衛部隊としての側面があり、沿岸砲兵の機能も有していました。

 海兵沿岸連隊は、海兵大隊と防空砲兵大隊に地対艦ミサイル部隊と兵站部隊を加えた新し編成で、2021年初頭現在は改編に向けての評価試験等が進められています、これは水陸両用部隊としての海兵隊、沿岸砲兵部隊への再転換を期し、特に年々脅威度の増す中国軍の環太平洋インド洋地域での進出に対し、島嶼部奪取ではなく島嶼部防衛で臨むというもの。

 自衛隊の南西諸島における部隊配置と海兵沿岸連隊の編成は驚くほど共通点があります、普通科部隊主体の警備隊、中距離地対空誘導弾システムを有する高射中隊と地対艦ミサイル中隊、そして情報収集に当る情報隊や沿岸監視隊が周辺島嶼部に展開する自衛隊の運用は、先島諸島と鹿児島県島嶼部にて2020年までに編制完結しました。この編成はまさに。

 自衛隊の将来を考えますと、既に12式地対艦誘導弾システムの後継装備として、射程を大幅に延伸させる改良型の開発開始が2020年に画定しています、これを中国の中距離弾道弾の様な大射程を付与させることには反対ですが、1500km程度までであれば、現実的でしょう。地対艦ミサイル連隊は一個連隊で96発の発射が可能、1基数3斉射ですので威力は巨大だ。

 プレジションストライクミサイル、アメリカ陸軍が2023年完成を目指して開発している地対地戦術ミサイルでINF中距離核戦力全廃条約離脱を受け既に開発されているロシアや中国の中距離ミサイルシステムへ対抗する目的から開発されています、こうしたものの射程を念頭に、自衛隊版の沿岸作戦連隊、いや沿岸特科連隊を、模索するべきと、思うのです。

 トマホーク巡航ミサイルを潜水艦に搭載するべき、将来艦隊戦闘と巡航ミサイル、としまして2016年に特集していますが、陸上配備型以外のこの種の長距離打撃装備品であれば、無理に国産に拘るのではなく、むらさめ型護衛艦以降の護衛艦に採用されるMk41垂直発射装置から運用可能で費用も抑えられるトマホークミサイルの導入も考えるべき時代です。

 反対論は出て来るでしょう、これは単純に周辺国のミサイル射程が、北朝鮮の弾道ミサイルくらいは時事情報の延長線上に知っていたとしても、中国や友好国である韓国、ロシア等も1000km以遠の射程を有する装備は最早普通となった実情を知らない為ではないか。こうした認識も踏まえ日本は最早特別な国ではなく普通扱いされる現実を視るべきです。

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令和三年-新年防衛論集:ポストコロナ時代の防衛安全保障(1)一国平和主義の防衛政策に限界

2021-01-02 20:11:40 | 北大路機関特別企画
■ポストコロナ時代はじまり
 みなさま重ねまして明けましておめでとうございます。Weblog北大路機関では毎年恒例となりました企画の始まりです。

 新しい一年の始り、というところではありますが、やはり今年はこれまでの年末年始とは異なる新しい日常を過ごされている事でしょう。こうした中ですが、おめでとう、と実直に認識できるほど世の中は平静に戻っていない訳でして、社会関係はワクチンにより希望の光が見え始めましたが、国際関係となりますと、回復にはまだまだ、時間を要します。

 新年防衛論集、としまして本年も安全保障と防衛の問題とを、ポストコロナ時代の国際関係という、わずか一年前には考える必要の無かった新しい深刻な問題領域が生じました。これは結果的に、感染源で有りつつ感染を素早く鎮圧しつつ、感染拡大に関する情報を必ずしもすべて開示したかを検証させない中国が、今後軟着陸できるか、という視点となる。

 新年防衛論集。今回はポストコロナ時代とともに、北東アジア地域における緊張増大を展望し、新しい時代の防衛力というものを考えてみましょう。日本は最早経済大国ではない、と指摘される点がありますが、平成初期のバブル崩壊とともに日本は低成長時代のまま平成から令和へ進みました。日本は後退したのではなく、相対的に各国が成長しました。

 日本の防衛を考える場合、これは1946年日本国憲法の平和主義、平和主義というものは国際公序であり、どの国も標榜し共有する概念ではありますが、日本の場合は目的としての平和主義ではなく、手段としての平和主義を憲法に明記し、成果としての平和以上に手段としての平和を掲げているのですが、圧倒的な経済力を背景とした平和は望めなくなった。

 経済大国であれば、例えば周辺地域への影響力や、云い方は失礼ですが札束で平和を買いたたくというような選択肢が可能でした、平和はカネで買える、という訳ではなく交易を強化すれば戦争は起きないという認識です。そして平和主義、中でも日本型の平和主義というものに余りに独りよがりとなった状況が醸成されていったように、思えてなりません。

 結果論ですが、日本は防衛に無関心でいられた、という幻想がそろそろ破綻しつつあるのかもしれません。かつては“軍隊を持つ普通の国に”という理念が保守層を中心に議論されていましたが、それよりも前に経済大国という地位が地域大国の地位に収斂する程に、各国が成長した事で、結果論として日本は“普通の国”“特別ではない国”となります。

 地域大国。日本はなにしろ人口が一億二千万規模で推移していますし、国内総生産も世界三位を堅持、第三次産業への転換は比較的成功しつつ国内に工業基盤を保持し、その内需もかなり大きなものへ成長しました。1990年代以降、日本円は戦争に弱いという認識は世界の安定通貨という地位に昇華し、2020年代を迎えていますので、普通の地域大国、と。

 しかし、地域大国という地位は責任を伴う事となります、これには地域安定への関与という責務が含まれ、この為には防衛政策というものを転換させなければならないようになります。すると、もう少し防衛というものを国民全体で関心を持たなければならないよう思えまして、そろそろ平和主義は良心から独善に進まない様考えてゆく時代といえましょう。

 防衛政策の独善性。こう書きますと何を指摘しているのかが見えない様に思われるかもしれませんが、端的に表現するならば、スタンドオフ兵器の導入です。脅威の圏外から運用する、というものが憲法に抵触する可能性が指摘されているものです、この部分で、そもそも脅威の圏外を明確に示さない政府や防衛省にも問題はあると考えるのですけれども。

 国際公序のステイクホルダーである。こうした認識も必要でしょう、わたしたちは日々、蛇口を捻れば飲料水が簡単に入り、COVID-19自粛の息苦しい生活とは言われても、コンセントと家電製品を結べば作動し、ガスコンロは自炊で美味しい食品を得られ、スーパーやインターネット通販は自粛下とはいえ、高度経済成長期よりも快適な生活が当然です。

 海洋自由原則に基づく交易が平常時として機能している為に、こうした生活が成り立つのです。そして、これは原材料を供給する地域の政情安定や、海洋自由原則が海上交通路を、当たり前の権利、として誰のものでもなく自由に航行できるという結果を享受しているだけに過ぎません。すると、能力があればこの国際公序を共に維持する側の努力が必要に。

 日本の事は日本だけで守れるのが当然だ、この認識が的外れである事から考え直さなければなりません。例えば、本土は難攻不落、と例えば、保守層一部が好きな徴兵制でも良いですよ、機銃陣地と無反動砲に鉄条網と地雷原で日本沿岸を隙間なく固めたとしましょう、一見盤石な防衛とみえますが、日本のはるか遠くでシーレーンが寸断した場合、どうか。

 自国の事は自国だけで守れるのが当然だ、これは2020年代には逆に危険な発想となり始めている事を認識すべきかもしれません、これは各国が突き進めば、ブロック方式の第二次世界大戦前夜の様な緊張が醸成されてしまうのですよね、当たり前です、周辺国とは無関係に自国の生命線だと産油国に向かう、こうしてあの太平洋戦争は勃発したのですから。

 一国平和主義防衛の限界というべき事象、認識の上では日本国憲法に依拠する専守防衛と重なるものです、しかし、これは例えば北米や豪州のような自国内で算出する資源だけで自給自足が行える、行い得る基盤が無ければ、あまり意味がありません。そして、この誤った認識を行っている国は日本だけではない事が問題です、何処の馬鹿な国か、中国です。

 自国の事は自国だけで守れるのが当然だ、こうして進める一帯一路構想は、単なる拡張主義と認識され、経済開発の名のもとに第三国のインフラや政治体制へも変革を大量の外貨と共に進める手法は、自国の勢力圏拡大や、衛星国化と定義が同じものとなってしまい、遂には警戒されるものとなりました。しかし一帯一路は供給網を含め自己完結を期すもの。

 集団安全保障体制へ収斂してゆく必要がある。日本にも、勿論将来的には中国にも当てはまる事です、ただ、中国の、法律が政治にとり邪魔ならば政治が法律をその都度書き換えれば良い、これは香港返還交渉に伴いイギリスへ中国が発言し当時のサッチャー首相を震撼させた、この認識の中国に対し、法治国家である日本の方が大きな視点といえましょう。

 日本国憲法の平和主義の精神と、日本国憲法の条文に欠缺が生じているのではないか。応期視点はこの結論に収斂します、具体的には日本国憲法制定当時は、五大国による平和維持での一致により、今度こそ戦争が起きないよう最後の世界大戦となった、こうした認識が在ったのに対し、実際は1940年代後半に鉄のカーテンによる綻びが生じていたのだから。

 ポストコロナ時代。さて、2021年という新年の始まりには、この論点をそろそろ直視せねばなりません。難しいのは、平和、海洋自由主義や民主主義、そして人間の自己実現を支える人間の安全保障、こうした国際公序というものが、実はCOVID-19を契機として分裂しつつある危機が、一例として、香港問題や豪中対立が挙げられるように存在するのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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