乱獲によって漁獲高が激減した、などというニュースを耳にすることがあるが、はたして本当のところはどうなのか?鮨をはじめ、日本食には欠かせない魚類であるが、その漁獲高が激減していることは、日本人としては気になる話題である。海洋生物の資源を調査研究している専門家から話を聞いた。
農業用ロボットの話を聞いた同じ7月18日(月)午後、北大全学企画公開講座「『国のかたち』を案ずる時代の知恵」の第6講は「海洋生物資源を理解して上手につきあう」と題して、北大北方生物圏フィールド科学センターの宮下和士教授が講師を務めた。
※ 講師の宮下和士教授です。(写真や図はいずれもウェブ上から拝借)
宮下氏によると、海洋生物資源の量は確かに変動しているが、その要因は大きく二つに分けられるという。その二つとは「自然要因による変動」と「人為的要因による変動」だという。
自然変動には、レジームシフトと称される10年~100年のスケールで起こる気候、海洋、生態系の変化で、それに伴い魚類などの生育環境が変わり資源に大きな変化が出てくるそうだ。また最近よく耳にする数年に一度の割合で発生するエルニーニョ、ラニーニャによる気候変動現象も資源の変動を引き起こしているという。
一方、人為的変動であるが、こちらは,(1)過剰な漁獲(乱獲)、(2)混獲・投棄、(3)ゴーストフィッシング、(4)海洋汚染、(5)開発、(6)種苗生産・放流、などが考えられるとした。
人為的変動の中で最も影響が大きいのは、やはり乱獲である。1952(昭和27)年から1980(昭和55)年までの世界の海の漁獲量の変遷の図を見せていただいた(資料が古い!)が、主たる漁場が日本近海から太平洋、そして全世界への海洋へと広がり、各海域での漁獲量が減少していることが一目で分かる。獲り過ぎの結果だと思われる。
人為的変動要因の中で耳慣れない言葉がある。ゴーストフィッシングである。直訳すると〔幽霊漁業〕、つまり捨てられた漁具などが魚を捕え、さらにその魚を餌にしようとする魚が捕えられるという、捨てられた漁具がいつまでも魚を捕え続けるという悪循環を海のなかで繰り返されていることを指すことだそうだ。
こうした、自然変動、人為的変動を受けて、我が国の漁獲量は1984(昭和59)年の1,161万トンをピークに、2013(平成25)年には376万トンとピーク時の1/3にまで激減しているという。提示された図からは、特に遠洋漁業、沖合漁業の落ち込みが激しいことが分かる。(沿岸漁業の変化の割り合いは小さい)
※ 我が国の漁獲量の変遷です。
宮下教授は講義の冒頭で、海洋生物資源は「再生産が可能」だという特質を示した。化石資源などと違い、上手に付き合えば人類は悠久に恩恵を受けることが可能であるとした。
ここが大切なのだと思う。〔上手に付き合う〕ためには…。
海洋生物資源の資源管理が問題となってくる。
資源管理の手法としては、(1)インプットコントロール、(2)テクニカルコントロール、(3)アウトプットコントロール、の三つの手法があるという。
(1)は、操業隻数の制限、漁船のトン数制限、操業期間の制限など。
(2)は、網目制限など漁具の規制、禁漁措置、禁漁区の設置など。
(3)は、漁獲割当方式の設定、漁獲可能量(TAC)の設定、などが考えられるとした。
TACとは、魚種ごとに漁獲できる総量を定めることにより資源の維持または回復を図ろうとする措置だそうだ。
このTACの考え方は世界的な潮流となっているようで、排他的経済水域においては各国が設定しているようである。
そのTACを導入するためにも欠かせないのが、海洋生物資源の計測手段を高度化することだと宮下教授は指摘した。そして、その計測手段の現状に話が移った。
その計測手段としては、(1)直接計測、と(2)遠隔計測があるという。(1)の直接計測としては、潜水計測や採集計測がある。(2)の遠隔計測には、衛星計測、音響計測などがあるという。
ここで最新の計測方法として〔バイオロギング〕なる方法が提示された。バイオロギングとは、生き物たちの行動を探るために、生き物にセンサーを持たせて各種情報を得る手段である。このバイオロギングが開発されたことにより、これまで謎だった生き物たちの行動がずいぶん解明されたということだ。
※ 写真のように魚や鳥、海獣などの背にセンサーを付けて行動を観察することをバイオロギングと言います。
こうした海洋資源を計測する方法の開発によって、排他的経済水域のみならず、全世界の海域においてTACの考え方を広げることが喫緊の課題であろう。そうして人類が海洋生物資源と〔上手に付き合う〕日が一日も早く到来することを願いたい。
農業用ロボットの話を聞いた同じ7月18日(月)午後、北大全学企画公開講座「『国のかたち』を案ずる時代の知恵」の第6講は「海洋生物資源を理解して上手につきあう」と題して、北大北方生物圏フィールド科学センターの宮下和士教授が講師を務めた。
※ 講師の宮下和士教授です。(写真や図はいずれもウェブ上から拝借)
宮下氏によると、海洋生物資源の量は確かに変動しているが、その要因は大きく二つに分けられるという。その二つとは「自然要因による変動」と「人為的要因による変動」だという。
自然変動には、レジームシフトと称される10年~100年のスケールで起こる気候、海洋、生態系の変化で、それに伴い魚類などの生育環境が変わり資源に大きな変化が出てくるそうだ。また最近よく耳にする数年に一度の割合で発生するエルニーニョ、ラニーニャによる気候変動現象も資源の変動を引き起こしているという。
一方、人為的変動であるが、こちらは,(1)過剰な漁獲(乱獲)、(2)混獲・投棄、(3)ゴーストフィッシング、(4)海洋汚染、(5)開発、(6)種苗生産・放流、などが考えられるとした。
人為的変動の中で最も影響が大きいのは、やはり乱獲である。1952(昭和27)年から1980(昭和55)年までの世界の海の漁獲量の変遷の図を見せていただいた(資料が古い!)が、主たる漁場が日本近海から太平洋、そして全世界への海洋へと広がり、各海域での漁獲量が減少していることが一目で分かる。獲り過ぎの結果だと思われる。
人為的変動要因の中で耳慣れない言葉がある。ゴーストフィッシングである。直訳すると〔幽霊漁業〕、つまり捨てられた漁具などが魚を捕え、さらにその魚を餌にしようとする魚が捕えられるという、捨てられた漁具がいつまでも魚を捕え続けるという悪循環を海のなかで繰り返されていることを指すことだそうだ。
こうした、自然変動、人為的変動を受けて、我が国の漁獲量は1984(昭和59)年の1,161万トンをピークに、2013(平成25)年には376万トンとピーク時の1/3にまで激減しているという。提示された図からは、特に遠洋漁業、沖合漁業の落ち込みが激しいことが分かる。(沿岸漁業の変化の割り合いは小さい)
※ 我が国の漁獲量の変遷です。
宮下教授は講義の冒頭で、海洋生物資源は「再生産が可能」だという特質を示した。化石資源などと違い、上手に付き合えば人類は悠久に恩恵を受けることが可能であるとした。
ここが大切なのだと思う。〔上手に付き合う〕ためには…。
海洋生物資源の資源管理が問題となってくる。
資源管理の手法としては、(1)インプットコントロール、(2)テクニカルコントロール、(3)アウトプットコントロール、の三つの手法があるという。
(1)は、操業隻数の制限、漁船のトン数制限、操業期間の制限など。
(2)は、網目制限など漁具の規制、禁漁措置、禁漁区の設置など。
(3)は、漁獲割当方式の設定、漁獲可能量(TAC)の設定、などが考えられるとした。
TACとは、魚種ごとに漁獲できる総量を定めることにより資源の維持または回復を図ろうとする措置だそうだ。
このTACの考え方は世界的な潮流となっているようで、排他的経済水域においては各国が設定しているようである。
そのTACを導入するためにも欠かせないのが、海洋生物資源の計測手段を高度化することだと宮下教授は指摘した。そして、その計測手段の現状に話が移った。
その計測手段としては、(1)直接計測、と(2)遠隔計測があるという。(1)の直接計測としては、潜水計測や採集計測がある。(2)の遠隔計測には、衛星計測、音響計測などがあるという。
ここで最新の計測方法として〔バイオロギング〕なる方法が提示された。バイオロギングとは、生き物たちの行動を探るために、生き物にセンサーを持たせて各種情報を得る手段である。このバイオロギングが開発されたことにより、これまで謎だった生き物たちの行動がずいぶん解明されたということだ。
※ 写真のように魚や鳥、海獣などの背にセンサーを付けて行動を観察することをバイオロギングと言います。
こうした海洋資源を計測する方法の開発によって、排他的経済水域のみならず、全世界の海域においてTACの考え方を広げることが喫緊の課題であろう。そうして人類が海洋生物資源と〔上手に付き合う〕日が一日も早く到来することを願いたい。