七色の声を使い分けるとはこういうことか!と聴いている私たちをうならせる澤登翠さんの話芸だった。小津安二郎の戦前の作品「突貫小僧」と「出来ごころ」の2本の作品をベテラン活動写真弁士:澤登さんの名調子で楽しんだ。
北海道立文学館の特別展「小津安二郎」展の関連行事として小津安二郎監督の戦前の無声映画を楽しむ鑑賞会があり参加した。
7月8日(土)午後、札幌エルプラザに国内のみならず海外でも活躍している弁士:澤登翠さんを迎えて、小津安二郎の戦前の無声映画の作品2本の上映会が開催された。
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※ 映画で二人の大人たちを完全に凌駕した鉄坊(青木富夫)が光った映画だった。彼はこの後名子役として名を上げたという。
最初に上映されたのは1929(昭和4)年制作の「突貫小僧」だった。これは僅か14分間の上映時間という短い映画で、人さらいにさらわれた小僧が、人さらいの親分をコケにするというギャグ映画である。あまりにも短い映画だったので感想は省略することにする。
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※ 次郎役の大日方伝(左側)の堀の深い顔立ちは、いくら昭和初期でもいわゆる“いい男" は存在したということですね。
続いての映画は上映時間が101分と現在の映画並みの長尺物で1933(昭和8)年制作の「出来ごころ」と題する映画だった。ストーリーは、父子で生活する中年の喜八(坂本武)が年甲斐もなく若くきれいな春江(伏見信子)に熱をあげるがソデにされ、春江は喜八の同僚である次郎(大日方伝)に恋するも、今度は次郎が春江を相手にしないという展開である。こちらも往年の小津映画とは違い、ドタバタ劇といった趣きの映画で、まだまだ若かった小津は自分の持ち味を出すことなどは出来ずに会社の制作方針に沿った映画しか撮ることはできなかったのかな?と思われる内容だった。
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内容そのものより、私は澤登翠の活弁に新鮮な驚きをもった。以前に何度か活動弁士による映画を観た体験はあったが、それらの弁士とは一味も二味も違った澤登の活弁は “お見事!” の一言といって良かった。登場人物のほとんどの声音を使い分け、さらにそこへ状況説明も加えて、観客たちを見事に映画の世界へ魅入らせたのだ。それは名人芸の域に達していたと言っても過言ではないほどだった。
他の観客たちも同様だったようだ。澤登の名調子に時には静かな歓声が会場内に響いたほどだった。私もドタバタ劇を心から楽しめた101分だった。
叶えられるのであれば、もう一度澤登翠氏の名調子をお聴きしたいと思うのだが…。
※掲載写真は全てウェブ上から拝借しました。