今や巨匠の名を冠するに相応しい山田洋二監督の映画である。山田監督お得意の下町の人情喜劇といった趣きの内容である。主演の吉永小百合さんも大泉洋さんも監督の狙いにはまったキャスティングだったといえる映画だった。
昨日、実は別な用件を予定していたのだが、急遽やめて以前から観たいと思っていた吉永小百合さんと大泉洋さんが主演する「こんにちは、母さん」を観ることにして午後にユナイテッドシネマに向かった。
映画は東京スカイツリーが間近に見える墨田区の下町で足袋屋を営んでいた夫を亡くした後も店を守る母・神崎福江(吉永小百合)。一方、福江の息子で大会社の人事部長として神経をすり減らす日々を送る神崎昭夫(大泉洋)は、妻との離婚問題を抱えるうえ、娘・舞(永野芽都)との関係にも頭を悩ませる中年男を演じる。そんな昭夫が久しぶりに母・福江のもとを訪れた…。
映画を観終えた私の感想は「まあ、巨匠の山田監督が創ったそれなりの映画かなぁ…」というちょっと冷たい感想だった。というのも、確かに山田監督の映画らしく、笑いあり、涙ありのほっこりした映画ではあるが、大きな感動をいただいたというレベルの映画には思えなかったからだ。大泉洋はどのような役でも器用にこなす俳優であるが、本作においても悩める中年男性の役を無難にこなしてはいたものの、格別に輝いていたとはどうしても思えなかった。
反対に吉永小百合の方は久しぶりに “ハマった” 役柄ではなかったろうか?近年彼女が出演する映画は話題にはなるものの、今一つ彼女の良さを十分に発揮できた映画というのには巡り合えていないように思われた。ところが本作においては、独り暮らしの老女がホームレスの人たちを助けるボランティアで巡り合った小さな教会の牧師(寺尾聡)に恋心を抱く可愛い女(老女ではない)を見事に演じていたように私には映った。吉永小百合というと、真面目で、賢くて、というイメージが強かったが、本作ではいくつになっても「恋する女でいたい」という女心が吉永小百合をより美しく、より可愛く魅せるのに成功していたように思われた。
是非とも観てほしい!とは言わないが、78歳にしてまだまだ容色の衰えない彼女を、若い頃サユリストを自称していた人は一度は観てもいい映画ではないだろうか?
それにしても会社を辞め、妻とも離婚してしまった昭夫はこの後どう生きていくのだろうか?そのことが気になった映画の終末だった…。