荻原次晴さんはサービス精神旺盛だった。NHK札幌放送局の8K280インチの大ビジョンに映し出される男子スキージャンプWCの今季第15戦、札幌大会を観戦しながら、ユーモア溢れる荻原さんの解説に終始笑い声の絶えないパブリックビューイングだった。
※ NHKの玄関前に掲げられたパブリックビューイングの案内。
昨日夕刻、午後4時から始まった男子スキージャンプWC第15戦、札幌大会のパブリックビューイングをNHK札幌放送局で観戦した。
※ 放送前の280インチの画面に映し出された荻原次晴氏の顔写真です。
パブリックビューイングの解説を担当したのが、スキー複合競技で一世を風靡した荻原兄弟の弟の荻原次晴氏だった。次晴氏は競技引退後、スポーツコメンテイターとして活躍されていることは多くの人が知っているところである。彼のコメントはいつも前向きで、聞いている人の気持ちを明るくさせるところに特色があると思っていた。
※ 画面を観ながら解説やコメントを発している荻原次晴氏です。
今回のパブリックビューイングは、その次晴氏の良さが満載だった。その上、意外にもといっては失礼だが、技術的な解説も非常に分かりやすく、彼のコメント力の素晴らしさを改めて認識させられた思いだった。
曰く、ジャンプにおいて深い前傾姿勢は時代遅れで、身体をくの字型の姿勢の方が空気を捕らえやすいために距離が伸びる。
曰く、最近のジャンプ台はクロソイド曲線の理論によって造られているため距離が出にくい。(国内では蔵王のジャンプ台だけがその理論に基づいたジャンプ台だそうだ)
曰く、テイクオフが早すぎるとスキーの先端が下がり、遅いと先端が上がり、いずれも失敗ジャンプに繋がる。等々、これまでのテレビの解説では聞けなかったような技術的解説もたくさん聞くことができた。
さらにはスキージャンプの世界は、選手の体力、トレーニングの方法などが年々進化することに伴い、競技の規定も年々変化・進展しているという。その一つの例として、選手のジャンプスーツの前面のジッパーがスーツよりさらに上部まで取り付けられていることに言及した。それはスーツの中に外気を1m㎥たりとも入れないための規定だそうだ。
また、札幌五輪で優勝した笠井選手がもし今のルール(助走路の長さが圧倒的に短いそうだ。また、カンテの角度も違うという)で飛んだとしたらおそらく50m程度しか飛べないだろう、と言われたのには驚いた。それだけジャンプの技術、技量は進化していると次晴氏は語った。
次晴氏は良さ(面白さ)は、単に技術的な解説に止まらない点である。例えば、選手の何気ない振る舞いの中に用具メーカーへの配慮があるといったことや、双子の兄弟の弟であることの悲哀などはいくらでも話せるよと語ったり、自身の競技経験を語る時に恋バナを交えたりと、サービス精神旺盛な点が彼の大きな特長である。
※ 小林陵有選手の2回目の完璧なジャンプです。
あまりにも興味深いお話を次から次へと聞けるものだから、競技の方へ集中できないきらいもあったが、競技の方は今を時めく小林陵有選手が前日の優勝に続いて3位入賞を果たし会場を大いに沸かせた。小林選手はこの日1本目にやや失敗して11位と出遅れたのが響いたが、2本目に137.5mの大ジャンプを披露して8人を抜き去り3位に入ったのは見事だった。
もう一つ気付いたことがあった。荻原氏のコメントを引き出す役のNHK札幌放送局の二人のアナウンサーのプロフェッショナルぶりである。笠井大輔アナの事前の取材の緻密は「さすがプロ!」と思えるほど徹底した選手たちへの取材をしていることをうかがわせる荻原氏とのやりとりだった。対して野原梨沙アナは、素人に徹して初歩的な質問を荻原氏にぶっつけ、ジャンプ競技観戦初心者への配慮を忘れなかった点は見事だと思えた。
※ 表彰台を確保した小林選手(右端)です。
いずれにしてもこれまで何度か体験したパブリックビューイングの中では、最も楽しく、そして充実したパブリックビューイングだった。