顧客満足度コンビニ部門で8年連続して第1位に輝いた北海道発のコンビニチェーン「セコマ」を牽引する丸谷智保会長は、その秘訣を誇るでもなく、衒うでもなく、むしろ淡々と「あくまで地域の貢献する経営を続けてきた結果である」と語った。
昨日午後、札幌プリンスホテル国際館パミールにおいて秋山記念生命科学振興財団の特別講演会が開催され参加した。講演は(株)セコマの会長である丸谷智保会長が「地域に貢献する経営~地域産業エコシステム」と題して講演された。余談ではあるが丸谷氏は、ワイン町長として名をはせたあの北海道池田町長の丸谷金保氏のご子息である。
丸谷氏のお話は門外漢の私でもとても興味のある内容だった。ただ、丸谷氏はお話されたいことがたくさんあったのだろう。氏のお話も、用意されたパワーポイントの回転も速く、私の筆力ではその内容を十分にメモすることができず、丸谷氏のお話を十分に再現できないのが残念である。そこで私が印象に残ったことを中心にレポしてみたい。
丸谷氏はまずセコマは単なる小売業ではなく、サプライチェーンマネジメント企業であると強調された。このことは、農産物の生産から仕入れ、製造、物流、小売りまでを独自に築き上げ一連の流れを全て自社で行う体制を築いているということである。この体制を築き上げた2016年に社名を(株)セイコーマートから(株)セコマに変更したそうだ。
そして丸谷氏は自社の現状を話されたが、セコマでは自社農場をはじめとして、全道各地に実に多くの自社工場を稼働させ、それらの工場から全道各地に配送するトラック基地なども整備されていることを写真とともに見せていただき、一連のサプライチェーンが整備されていることを教えられた。
そしてセコマの理念ともいえる「地域に貢献する」という例として2014年に出店した「セイコーマート初山別店」の例を話された。当時の初山別村の人口は約1,200人(現在は1,057人)で、とても出店できる規模ではなかった。
当時の村長からは「村に店が無くなってしまうので何とか出店してほしい」と懇願されたそうだ。しかし出店するためには店舗の減価償却費、物流、人件費、光熱費、家賃、土地代などのコストを計算するとそれに見合う売り上げはとうてい見込めない状況だったという。ただ丸谷氏の頭を占めていたのは村長や村の人たちの窮状に対して「何とかしてあげたい」という一念だけだったそうだ。そこで出店するための経費のムダを一つ一つ潰していったという。土地代は村の土地を提供してもらい無償に近い形で借用することができた。人件費、光熱費は24時間営業でなかったことからそれほど負担にならないと考えたそうだ。物流費は初山別村のある日本海沿岸の他の町に商品を運んでいるので負担増にはならなかった。等々、一つ一つ問題を解決していって利益はでないまでも、赤字にはならない見通しが立ったことで出店を決めたという。
開店から9年、当初は赤字が続いていたけれど現在は一日当たりの客数が250~300人、客単価が平均の1.5倍程度となったという。当初は日商30万円が黒字化の目安だったが、最近は30万円を上回る日が多くなり、減価償却費に充てる割合も多くなってきたそうだ。
丸谷氏のお話を伺っていると、丸谷氏の頭の中では「地域に貢献する」、「なんとかしてあげたい」という “情” の要素と、経営者として冷静に利益を産み出すための戦略的な “理” の要素が同居し、冷静に対処してきた結果が企業も地域住民をも幸せにする秘訣があると丸谷氏のお話から汲み取ることができた。
講演の最後にとても良い話を聴くことができた。2018年9月4日、関西では台風21号が吹き荒れ大被害に遭った。その時、朝日新聞の関西支社の記者が台風被害の取材のために和歌山県田辺市に赴いたそうだ。その際、喉が渇いたので水を求めて地元のコンビニで水を求めたところ店主から「停電でレジも動いていないのに、売れるわけないやろ!このボケ!」と罵られたそうだ。
それから2日後に北海道では胆振東部地震が勃発した。件の朝日新聞の記者は応援取材のために北海道に派遣されたそうだ。そこでも取材中に喉の渇きを覚えコンビニに入ったそうだ。その時の店主の対応は、申し訳なさそうに「停電で冷蔵庫が使えません。冷えていませんがよろしいでしょうか?」とペットボトルを出してくれたという。その対応の違いに朝日新聞の記者は大感激して丸谷氏にお話されたという。
セコマの店舗は胆振東部地震が起こって全道的にブラックアウトになる中、実に95%の店が営業したという。それはセコマが停電に備えた端末や対応マニュアルを用意してあり、各店はそれに従ったまでだという。これぞ顧客満足度8年連続1位企業の面目躍如である。
私はこれまでもセコマを良く利用させてもらってきたが、ますますセコマを応援したくなるような良い話を聴いた思いである。