北海道・大樹町に本社を置くインターステラテクノロジズ社長の稲川貴大氏は民間ロケットとして初めて宇宙空間に到達したMOMO3号を製作した会社の社長として一躍名を上げた方である。その稲川氏が宇宙開発について熱く、能弁に語った。(稲川氏は経営者であり、ロケット開発の科学者でもある)
12月10日(土)午後、紀伊國屋書店札幌本店のインナーガーデンにおいて「室蘭工業大学テクノカフェ」が開催され参加した。今回のカフェのテーマは「日本のものづくりと宇宙開発の未来」であったが、ゲストとしてインターステラテクノロジズ(IST)社長の稲川貴大氏が招請され、室工大教授の清水一道氏が聞き手となってISTの現在、そして未来を語る対談だった。ここでは対談において稲川氏が語った印象的な言葉について紹介していくことにする。
稲川氏はまず、民間がロケットを開発するということは、「輸送業を始める」ことであると語った。であるから、ISTが目指すロケットは「速く、安く、どこでも」飛ばせることが目標だという。そしてまず、到達距離上空100kmを目指した観測ロケット「MOMO」を2度の失敗の後、3度目に目標の100kmに到達し、目標を成し遂げた。
現在は、地球の周りを周遊する超小型衛星打ち上げ用ロケット「ZERO」の開発中だということだ。衛星を打ち上げる為には地球の重力を振り切るために時速28,000km以上の速度を求められ、この速度を獲得することが最大の課題であるとも語った。
「ZERO」の製作には部品数が4万点ほど必要になるというが、日本で製作されている高級乗用車の部品数が同じくらいだそうだ。つまり日本の工業製品の製作能力は “凄い!” と稲川氏は表現した。彼の言葉によると「日本の自動車製造能力をぜひインストールしたい」と述べた。それはすでに製品化されている市販品を利用すればロケット製作の低価格化が実現できるから、という。もっともなことである。
さて、民間ロケット活用という面について、例えば「宇宙牛(うちゅうぎゅう)」という考え方があるという。これは牛を放牧して宇宙から監視し、管理することだという。そうすると日本の各地に点在する無人島でも牛を飼うことができ、そのことが日本防衛にも役立てることができるはずだと強調された。
稲川氏はDX(デジタルトランスフォーメーション)についても言及されたが、私自身がDXについての理解が十分ではないためこの部分についての説明は省きたい。ただ、DXの考え方を応用して、宇宙をも視野に入れて開発することにより、先述の「宇宙牛」のような農業とテクノロジーの融合など、新しい可能性が開けてくると予言された。
また、ISTが本拠地を置く大樹町は、ロケット打ち上げにはベストな場所であると言い、世界の企業が大樹町に目を付けているとも話された。それは緯度的にも、周囲の環境においても、太平洋に開けているという点においても、地球軌道を回るロケット打ち上げの場所としてはベストであると断言された。
最後に、稲川氏は将来的に有望なロケット打ち上げ産業について「オールジャパン型の連携」を目指したいとした。そして今、ISTは「ZERO」の開発に注力したいと語り、対談を締め括った。
科学の粋であるロケット開発について、私が理解できた範囲はかなり狭いものである。私は稲川氏の話を伺いながら、先日BSテレビで「空飛ぶ自動車」開発に取り組む二人の若い起業家(技術者)の話を聞いた。その二人と稲川氏がダブって見えた。日本の若い人たちが元気なことに心強さを感じた私だった…。