八八九
六十一
一蠺桑之事 蠺(さん・かいこ=蚕)
此儀、山野廣御座候ても、桑土地ニ應し不申候得は、適々植付候ては一向そたち不申、土地ニ合所も狭所は
畾地無御座、扨又、養蠺之儀、女童之手業とは乍申、高太ク抱人畜少里在は、女童ニ至迄農業手傳申候ニ
付、麥作せつかい、養蠺心懸厚有之候ても届兼申候、新作之内紅花ハ格別利益ニ成申ニても可有御座候ても、
田根付之手廻支候年多御座候ニ付、根付時候を考、作畝減被仕、年ニより候ては作り不申儀も御座候、耕作
之内さへ右之通之損益御座候ニ付、養蠺之儀、手なれ不申ゆへ好候もの少ク御座候、且又、高見合、人畜
太ク相見候處ニも色々有之、野地・山地・詰郷共ニ多所は、別て畑方ニ手入無油断、男女共ニ野山稼仕申候、
海邊在々は人畜多キ所も御座候ても地方少ク、桑を植候地無御座候、右之通ニて必至度養蠺繁昌不仕、折角
農民之為を被為思召上、連々蠺桑之儀被仰付候所柄立兼、於私共も奉恐入候、尤山付在、人畜も多、桑土地
ニ應し候ニ付自然と蠺桑ニ進申所も御座候間、其所迄ニ養蠺被仰付、里在ニも無高或は後家・鰥なとニは心
懸次第ニ被仰付置被下度奉存候、一圓養蠺被仰付候ても、只今之通ニては繁昌仕申間敷と奉存候、勿論、極
零落之村方狭い家ニては飼方難相成、所ニより却て失墜相見へ、圓茵之改方桑仕立等ニ夫方も費申候
但、桑仕立方之儀、御山支配役幷御家人中え被仰付、所ニより御支配銀幷御郡中出銀を以、勤料御渡被成
候、然處桑仕立方之儀は、村々ニて植立申儀ニ被成候ニ付、右之面々見■(扌偏に乄=締)被仰付置候ても、何そ積ニ立
候勤方も相見不申候、出銀相増候處氣毒ニ奉存候、見■人は被差止被下度奉存候
[上ノ付札]「此儀、桑見■御家人は去ル寅ノ年より被差止候事」