けいこを火中ののしゆうにやらせになり (水泳の)稽古を家中のご家来衆にやらせになり
御自分もおよいで居んなはった ご自分も泳いでおられた
太かおからだの御殿さまはあびかた 大きいお体のお殿様は泳ぎ方
はなかなかたつしゃでござつた は中々達者で御座いました
ぶげいでござれよみかき山海川 武芸でござれ読み書き山海川
のことから下々のもののとせいのみちに の事から下々の渡世の道に
いたるまでくわしかつたあのかたの 至る迄詳しかった あのお方の
おとくのほどはどうしてんわするゝ お徳のほどはどうしても忘れる
こつあできんところなんというてん 事は出来ない処なんと言っても
御とうこくの神様ばい お当国の神様です
熊本御城下のくいうふうになりつ 熊本城下のこの様に立
ぱになつたもとは御先々代さまのおじ 派になった元は御先々代様(清正)の御慈
ひのおかげとおもや朝な夕な■お 悲のお陰と思えば朝な夕なお
がまんわけんにやゆくまい 拝まない訳にはいくまい
おるがほつけしょうになつたつのは 俺が法華宗になったのは
こうしたわけからたい こうした訳からだ
三手ごしや五手ごしの川さらへ 三手越しや五手越しの川浚え
は御先々代さまのときからでこるば は御先々代さまの時からこれを
ふしょうなこつをやるとまさかの 不精な事をやるとまさかの
ときにやじぶん/\にこまるけん 時には自分/\がこまるので
みんなこころをあはせてやりおつ 皆心を合わせてやりおっ
た た
今のとんさんもようやんなはるが何 今の殿様(忠利公)もよくやられるが何
うしても加藤家のときとはず うしても加藤家の刻とは随
いぶんちかうごたるおいさき 分違うようだ 老い先
みぢかゝおどんないづれたかせさ 短い自分はいづれ高瀬に
んひつこうで往生きわをよくする 引っ込んで往生際を良くする
やうにせにやここで朝夕御城 様にしないとここで朝夕御城を
をみっとなみだがでゝやるせが 見ると涙が出てやる瀬がな
なか い
これくらひのおもひでにとゞめさせて この位の思い出に止めさせて
くれあんまりいろ/\とおもひ 呉れ 余りいろ/\思い
にふけつてむかしはなしをすつ にふけって昔話をする
と加藤の御家がむげこつでなら と加藤の御家がむごうな事でならない
んからこれからさきはモいわ からこれから先はもう言わ
せてくんな たのむ/\ あとはなみだ せてくれるな頼む/\ 後は涙
であつた であつた
じぶんもききあるひはたづね 自分も聞き尋ね
ながらしまひにともなみだ ながら仕舞に共涙
にむせかへつてしまうた ああ にむせ返ってしまった 嗚呼
くわんへい十ねんはる 寛永十年春
善三郎 善三郎