すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

読み通して見える何かが

2022年12月05日 | 読書
 結局、ゴダール式読書とはならないまま、ここ一週間少しでだらだら読了した文庫本たちのメモ。やはり読み通すことで見える全体像、芯は確かにあるようだ。


『たった一人の熱狂』(見城 徹  幻冬舎文庫)

 堀江貴文と藤田晋が立ち上げたというSNS「755」に、著者が発した言葉をもとにした書籍化。「ユーザーと見城徹によるガチンコの人生問答」的な内容をトピックでまとめ、再構成したものだ。
 著者の本は何冊か読んでいるが、まあ「圧が凄い」と括ることができるだろう。それを今どきの若い世代がどう受け止めるのか。イメージは幕末期の勤王志士のようである。
 おそらく大きな仕事をする人の思考回路として、この考えは一つの典型ではないか。「全ては無知と無理・無茶・無謀から始まった」だからこそ切り開ける。


『運命を引き受ける』(佐々木常夫  河出文庫)

 学校に勤めていた時に(8年前ではなかったか)。講演を聴いたことがある。「ライフワークバランス」という語が教育界にも提言され始めていたから興味を持った。後付けをみると単行本はその頃の出版となっている。だから書かれていることの多くを耳にしたのかもしれない。
 しかし改めて読むと、それは「バランス」のとり方ではないということか示されている。つまり「『どうやるべきか』(to do)の前に『どうありたいか』(to be)を自分に問う」。
 ノルマ消化とクレーム対応に追われている現実であっても、見失ってはいけないことがある。




『この女』(森絵都  文春文庫)

 主たる舞台は1994年歳末と翌年正月半ばまでの大阪、神戸。大震災発生を念頭において進められる物語には、独特の緊迫感がある。
 ここに盛り込まれているモチーフは当時の、いや現在もまだ引きずっている社会問題として根強くあるものばかりだ。ドヤ街と貧困層、都市開発と利権、発達障害者と家族、そしてカルト教団など。こうした要素を巧みに織り交ぜながら、一人の女をモデルに小説を書きあげようとする男の生き様を描いている。
 もととも筑摩書房で単行本が出ていて、そこには「冒険恋愛小説」とあった。恋愛とは冒険なのかもしれない。映像化できそうな鮮やかな場面が多く惹きつけられた。