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桜と絵本と豆乳と

あったら面白いに寄せていく

2022年12月27日 | 読書
 つまり「独り視聴者委員会」『鎌倉殿』編である。三谷脚本のファンでありごく普通に楽しめた一年間だった。当然『新選組』や『真田丸』と共通したテイストがあったが、改めて「味が濃くなった」印象をうけた。描いた時代が前の二作に比べ、少しだけ馴染みが薄い分、思い切った味付けをしたというところだろう。



 その味付けで、あまりに印象的であった場面が二つある。一つは義経の本格的な登場シーンである。平泉から鎌倉へ駆けつける回、山中で猟師に弓矢へ遠く飛ばす勝負を持ちかけ、あっさり裏切って殺してしまう件だ。悲劇のヒーローとして名高い義経をこんなふうに描くとは…。義経像をぐらぐら揺さぶってみせた。


 もう一つは、三代将軍源実朝が北条泰時に思いを寄せていたという展開。泰時が贈られた歌の意味を解せず返した後、実朝が代わりに詠んだのが、かの「大海の磯もとどろによする浪われて砕けて裂けて散るかも」という筋には、恐れ入る。思わず「そりゃないでしょ」と言いたくなるが、確かに「あったら面白い」


 結局、三谷は「あったら面白い」をどれだけ史実にすり寄せていくかに腐心したのだろう。主人公の一人の人物が、物語当初から徐々にダークになっていく様をこれほど描いた大河ドラマはなかった。もちろん視聴者が共感を寄せる要素を織り込んでいるはずだが、それは群像劇ということもあり、拡散的に作用する。


 最終回もあっと驚く演出があった。冒頭の家康登場シーンである。クレジットに「脚本協力」として古沢良太の名が出たので、すぐ納得した。古沢も魅力的な脚本家だ。印象としてキャラ立ちさせる名手だと思う。安土桃山から江戸へ。大河を見て育った一人として、主人公以外誰を際立たせてくれるか、楽しみである。