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桜と絵本と豆乳と

時間の共有という愉しみこそ

2021年05月07日 | 読書
 寝床のお供にと選んだ2冊。どちらも人気作家、そしてどちらも週刊誌連載を編集した単行本だ。週刊誌は最近ご無沙汰なので、まあ初見ではある。


『ひとりをたのしむ 大人の流儀10』
  (伊集院静  講談社)


『百田尚樹の新・相対性理論 人生を変える時間論』
  (百田尚樹  新潮社)



 しかしどちらも馴染みの深い作家なので、文体や思考のパターンに慣れているのか、ある程度先が見通せる読み方になってしまった。その意味ではあまり心動かされた書物ではない。ただ2冊読み終わって何となく対照的なイメージが湧いてきた。どちらも今年の新刊であり、コロナ禍のさなかに書かれた部分もある。


 百田本はやはり「らしい」切り口で読者を惹きつける。それにしても「新・相対性理論」とは吹っかけた感じがする。まあそれも持ち味か。「すべては『時間』が基準」という発見?を、多様な視点から諸々の例を引きながら説く上手さがある。道具や金銭や社会構造、芸術…確かに「時間」が生み出す産物に違いない。


 かつて、国分康孝氏が語った「人生とは…時間の使い方」というシンプルさに大きく頷いた。それは個の視点だが、百田本では具体的かつ多彩に噛み砕いている。後半の恋愛に関わって「時間の共有」が示されたことに頷く。他者の存在なしに生きられないという自明の理の中で、その視点の持つ深さを改めて感じた。


 そんな感覚に伊集院本が一言放つとすれば「それが、どうした」か。これは連載のタイトルでもあった。身体を貼って物事に対してきた作家の姿勢といってよい。そしてさらに「ひとりをたのしむ」という書名までつけた。ただ「孤独が友となる。ひとりのときをじっと味わう」の「味わう中身」に他者はいるはずだ。


 著者のファンなら知っている「東北一のバカ犬」への愛着は頻出するし、贔屓にしているアスリートたちへの激励、家族との遠い思い出等々。自らを冷静に棚上げしながら(笑)、結局は他者の言動に滲む「芯」の部分に目を向けている。作家としてそれを描くことは、きっと時間を共有した愉悦があるからではないのか。


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