百醜千拙草

何とかやっています

大統領の先物取り引き

2008-02-26 | Weblog
アメリカは、4年に一度の大統領選の真っ只中で、現在、共和党候補と民主党候補を決めるための予備選挙と地方議会選挙が州ごとに行われています。共和党はマッケーンでほぼ固まってきていますが、民主党はヒラリークリントンとオバマが接戦を演じており、まだどちらが最終指名を勝ち取るか分かりません。全ては3月4日のオハイオとテキサスという大票田での投票にかかっているようです。最近のヒラリークリントンのオバマへのネガティブキャンペーンを見ていると、クリントンが切羽詰まってきているのは間違いなさそうです。こんなキャンペーンを続けていると間違いなく、オバマへ票が流れるでしょう。次期大統領は、結局は国民が選挙で選んだ民主党および共和党の代議士の数で決まってくるわけですから、原則的には共和党議員に投票した国民の数と民主党議員に投票した国民の数の力関係という単純な法則で選ばれます。しかし、全ての結果が出る前に勝者を予想するのは簡単な事ではありません。たいていのニュース番組とかでは、無作為抽出でのアンケート調査などから誰が優位であるかという予測をするわけですが、一時点でのアンケートではダイナミックに動く選挙の動きの最終結果を予測するのはしばしば困難です。
 アイオワ大学の研究者は、株式市場と同じように大統領候補のトレードを市場で行うことによって最も有望な候補者を予測できるのではないかというアイデアを思いつき、実験を行っています。実はこれは数期前の大統領選の時に始まり続いているものです。トレード参加者は、Iowa Electric Markets(IEM http://www.biz.uiowa.edu/iem/)という先物取引市場で大統領選での最終投票結果に対して先物取引を行うことになります。参加者に金銭的インセンティブを与えるため、現金を賭けて本当の先物取引の要領で取引が行われ、払い戻しを受けることになります。例えば、前回の大統領選でジョンケリーとブッシュを例にとりますと、IEMはまず、両候補者一本ずつのコントラクトの入ったポートフォリオを1ドルで売ります。候補者が二人で、まったくイーブンの場合は各候補者あたり50セントずつです。トレーダーは各候補者の大統領選投票時での価値を考えてケリーまたはブッシュを売り買いします。例えばブッシュを売ってケリーを買った場合、合計1ドルのポートフォリオではケリーのコントラクトが2本、ブッシュが0ということになります。払い戻しは先物取引と同様に、現物が取引される時点での価格とコントラクトの購入価格の差によって利益や損失がでることになります。この場合は大統領選での最終投票結果ということで、もし最終一般投票で60%がケリーを支持した場合、ケリーのコントラクトは60セントの価値を持つということになります。ですから、2本のケリーのコントラクトのポートフォリオは1.2ドルの価値があり、当初の支払いの1ドルとの差額の20セントが利益となるということです。_過去のデータによると、IEMによるトレードを通じた候補者の価値評価は、概してアンケートや一般調査よりも正確に最終結果を予測するようです。さまざまな時点でのIEMによる市場価格による予測とアンケート調査による予測といずれが正しかったかを検討してみると、1998- 2004年の大統領選では、約7割以上でIEMの方が正しく予測できています。Marketは大変efficientであるということのようです。アンケート方式に比べるとマーケットトレードの場合は、政治的な好みなどではなく、より単純に市場価値だけをみて取引するでしょうし、市場の動向などの情報をより客観的に分析するようになるでしょうから、情報量ならびに分析の客観性という点で勝っていると考えられます。もちろん参加者の数がある程度大きくないと、アメリカ全国民の投票で決まる大統領選の予測を小さなマーケットだけで行うと精度が悪くなるであろうとは考えられます。いずれにせよ、未来の予測をいう点においてこの先物取引市場のアイデアは大変面白いと思います。ちなみに、現時点での取引価格は、民主党ノミネーションに関してはオバマが80.9セント、クリントンが16.5セントで取引されていますから、かなり高い確率でオバマが指名を受けるのではないかと思われます。最終大統領選に関しては、民主党が55セント、共和党が45セントぐらいの取引なので、どうも次期大統領はオバマという線が強そうです。
 またIEM以外の同様のマーケットでは、2020年までに中国が月に降り立つかどうか (Forsight Exchange)、トリインフルエンザがヒトからヒトに伝播するかどうか(Avian Influenza Prediction Market)、ニュースアンカーのKatie CouricがCBSを辞めるかどうか(Intrade)などに対しての取引がされているようです。こうなってくると、イギリスのブックメーカーみたいに聞こえますが、オンラインでリアルタイムでの取引があることを除けば、確かに似かよっていると思います。実際、イギリスのヨークシャーヒルというブックメーカーでは、ブッシュとゴアでの大接戦であった2000年の大統領選では、ブッシュの勝ちに賭けた人の方が多かったらしいです。
 Marketのefficiencyを利用した未来予測法、さすがに金融工学(錬金術)の本家、アメリカらしいアイデアです。錬金術も利用次第によっては役に立つということかも知れません。ついでにこれで日本の将来も占ってみたらどうでしょう。
コメント
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