百醜千拙草

何とかやっています

結局は再現性次第

2014-02-21 | Weblog
私がわざわざコメントするような話ではなくて、もう研究者の人であれば、みな一家言ある話ではありますが、世紀の大発見の出版から三週間で急激に膨れ上がった理研のSTAP論文疑惑について、早速、Nature自身が結構詳しい記事にしているのを読みました。理研もハーバードも調査を開始したとの話。

私は、個人的に胎盤の写真を見た時に、これはアウトだろうと思ったのですが、写真はマウスクローニングのテル 若山さんが撮って、単に写真を張り間違えたのだというコメントを聞いて、うーん、と思いました。確かにそういうケースはよくあります。しかし、筆頭著者の人の過去の論文のゲルのバンドの小細工に関しては、これは、全くT大をやめたK先生の一連の論文と同じ手口です。このNatureの図でも一つのゲルの写真に細工がされているようです。しかし、この細工は全くする必要のないようなもので、もし本当に細工であれば、なぜこんなことをしたのか理解に苦しみます。

現時点では、これまでの経過を見ると、多少の問題はあるものの、理研が言う通り、論文の内容的には本当なのかな、と思います。

その一方で、人間の心情的に、一旦、「疑い」を抱いてしまって、過去の論文にも怪しいところがある、となってしまうと、疑惑が必要以上に大きくなってしまうのも仕方がない部分があります。本当に、単純ミスで悪意はないとしても、限られた出版論文の中で怪しい箇所が複数のある人が書いた論文の成果は、少なくとも、そのまま受け取れない、と思う人が増えているようです。

Do You Believe in STAP Stem Cells: Poll Week 3

現在、3割弱の人が、STAP細胞は、ほぼウソだと考えており、約2割5分の人がどちらかというと信用できない、つまり、半数以上が、この論文を疑っているという結果でした。捏造論文がNatureにポンポンでるご時世ですから、きっと怪しい点が一つ見つかると、雪だるま式に疑惑が広がるのでしょう。

これは論文だけの問題のせいではなく、もっとも大きいのは、まだ誰もちゃんと再現できていないということでしょう。酸性溶液につけるだけで細胞が初期化できる簡単な方法、というのがこの論文の一つのウリなのに、現時点では、10グループが色々な細胞でやってみて、9グループは細胞を作ることが出来なかったと報告。1 グループはOct4の発現がWesternで認められたが、GFPレポーターを使っての実験は、今のところペンディングという玉虫色。しかし、再現することが技術的に難しい実験というのはあります。かつて、この胎盤の写真を取った若山さんがマウスのクローニングに成功したとき、最初の成功率は約300回に1回だった言っていたように思います。もしそういう頻度でしか成功せず、追試しようとした人が、みんなが途中であきらめてしまっていたら、マウスクローニングも怪しい論文とラベルを貼られて終わってしまっていたかもしれません。実際は、その後、複数の研究室でマウスクローニングが可能であることが確認されました。今回の論文に関しては、簡単に初期化できる方法、という売り込みですから、iPSと同様に、複数の研究室が再現に成功すれば、問題は消えると思いますが、逆にできなかったら、ちょっとまずいことになるでしょうね。

また、普通の研究者であればこの論文のような、誰もが簡単に追試できるような成果を捏造するはずがない、だから多分、本当だろうと私は思うのですが、Nature論文が全くのフィクションだった、普通でないT大のRNA研究者の例もあります。そして、こうした悪質な捏造は、再現性の無さから疑いを抱かれて、大抵、図表などの些細な誤りから芋づる式に手繰っていって発見されています。T大RNA論文では、怪しいというウワサのあった中で、論文で扱った同名の別の遺伝子の遺伝子配列を混同していたことから捏造が発覚しました。(本当に実験をやったのならこういうことは起こりません)。韓国のステムセルの人は、内部告発ですが写真の使い回し(今回の胎盤写真と表面期には同じです)、Hendrick Schonのケースも図表の使い回し、最近のT大K研究室ではゲルバンド写真の使い回し(今回の筆頭著者の別論文で指摘されているのと同じ)でした。

この件に関する日経バイオテクの無料記事を読んで、なんだかなーと思ってしまいました。論調は、図表の間違いはNatureの編集にも問題がある(出版直前にいろいろ変更させたから)と言い、「科学界やマスメディアでは神聖視されているNatureの編集プロセスを検証することが必要だ、科学者が金科玉条とするピア・レビューシステムによる検証を経た出版というNature誌などのビジネスモデルは危機に瀕している」と書いてあります。業界の人間なら、誰もNatureの編集プロセスを神聖視などしていないし、それどころか、Natureなどの雑誌の若い編集者に学会などでゴマをすって出版枠を確保するのが大物研究者の仕事の一つであって、編集プロセスには小さからぬcorruptionがあるということは常識でしょう。ピア レビューは確かに危機に瀕していますし、よいシステムではないこと(ただし、他にそれ以上にマシなやりかたがないので仕方なしに継続している)も業界の人なら実感しており、誰も「金科玉条」とは思っておりません。そういうつもりで書いたのではないのかも知れませんが、責任を転嫁しつつ話題を本質から反らせているような感じで、いただけません。(責任所在をたらい回しにしつつ、議論の焦点をずらすというのは日本の政治家、官僚のお家芸ですが)

論文の結論については、まずは第三者による実験の再現を待ちましょう。一流雑誌に載っている論文の6割は再現性がないという数字があるそうですが、通常の生物学論文と違って、この論文のような技術、工学系の要素の強い論文では話は違いますから。

それよりも、1リットル当たり、2億3000万ベクレル の汚染水がが100トン漏れた、というニュースの方が私は心配です。その理由が、「発見の9時間半ほど前には、タンクの水位計がほぼ満水を知らせる警報を発していた。この時点ではタンク周辺に水漏れなどの異常は見つからなかったため、東電は現場で実際の水位を確認しないまま水位計の故障と判断し、特段の対策は取らなかったという。」という、いつもの、警報がなっているのに無視した、という東電体質。以前も原子炉の温度を測って低温であると言った時、三つの温度計のうちの二つは異常値を示していたが、「故障と判断」して無視した、という事件がありました。再現性のない科学論文と相通じるところがあります。


オマケ:ATGC論文チェッカー、本日の名言から。

「もし人生が二回あればお母さんの言う通りに高校へ行くけど、一回しかないんだから自分の自由にさせてください」
(船木誠勝)

(筆者、つけたし)
もし人生が二回あればおまえの言う通りに自由にさせてあげるけど、一回しかないんだから高校にいきなさい。(母)

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