百醜千拙草

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留学先の選び方

2016-02-01 | Weblog
週末は、風邪と偏頭痛と不整脈のトリプルパンチでベッドで唸っておりました。人間、二箇所以上を同時にやられると戦意喪失すると言います。トリプルパンチでは、生きているのも嫌という気分になりますね。それで、何もできずにとにかくうずくまって過ごしました。
週明けのニュースを見て、沖縄県が予定通り国を訴えた話とか、アメリカ大統領選とか、汚職の話とか、それぞれ一言いいたいこともありましたが、ちゃんと考えることができなかったので、その話はまたの機会にして、BioMedサーカスの人気連載、「教授と僕の研究人生相談所」の研究留学先選びに関しての今回のエピソードを読んでちょっと思ったことなどを書きたいと思います。

教授「だがな、今は研究者があまっている。ポスドクから独立ラボのPIになることは非常に狭き門となっている。だから独立ラボのPIとなる平均年齢もあがっているし、ポスドクから独立ラボのPIになれる割合も激減している」
教授「若い研究者にとっては厳しい環境だが、上の世代の研究者はそれを上手く利用していることもある。例えば、大御所と呼ばれるような研究者は、配下にAssistant ProfessorやらAssociate Professorやらを抱えて、そいつらに独立PIっぽくさせて研究費を獲得させているが、その実、自分自身のラボを含めて所属研究機関内に一大派閥を作る。表向きは小さな独立ラボが研究センター内に存在しているように見えるが、実質的には研究費も研究スペースも共用だ。だが、その中での色々なことは、大御所研究者の一存で全てが決まる。配下のAssistant ProfessorやAssociate Professorは単なる中間管理職みたいなもんだ」
教授「だがな、表向きはそんな中間管理職PIも独立PIっぽく振る舞う。で、一番の問題は、そういう中間管理職PIは基本的に能力が低いんだ。ま、考えてみれば当然だな、自分の力で独立できないからこそ、そういう大御所研究者の下で中間管理職PIになってるんだからな」
教授「でだ、留学先選びのときに、そこのボスが独立PIなのか中間管理職PIかということをあまり考えない人間がいる。で、間違って無能な中間管理職PIのところに行ってしまったら、休暇も満足に取らせてもらえずこき使われるだけで業績が出ないなんてことも当然ある」
教授「だから、今回の相談者が本当に留学したいなら、きちんと人を見る目を養っておくべきだな。間違っても俺みたいなのを優秀だなんて思ってはいけない」
僕「・・・。でも教授、独立PIと中間管理職PIの見分け方って簡単なんですか?」
教授「簡単だよ」
僕「ぜひ、その見分け方を教えてください」
教授「君はポリンキーのCMを知ってるか?」


アメリカでのPIの基準は、グラントを取ってきてこれるかどうかだと思います。グラントを取ってこれるということは、グラントを書く能力がある、グラントの研究を遂行するだけの能力がある、それを裏付けるだけの出版歴がある、それなりの機関に所属している、プロジェクトの成功を予測させるだけの予備データをすでに持っている、これだけのことを満たす必要があります。すなわち、単独でPIとなっているグラントを持っており、そこそこの出版歴があれば、まずまずOKではないかと私は思います。現在、NIHのサポートに関しては、データベースがあり、誰がどのようなプロジェクトでいくらサポートを受けているかがわかるので、留学を考えている人は、グラントの状況をまずチェックすべきであろうと思います。それで、真に独立していない中間管理職PIというべきPIですが、そういうPIは確かに存在していると思います。NIHグラントでも小さなグラントやトレーニンググラントであれば、基準は多少緩いですから、ときどきそのようなグラントを独自で、あるいはボスとの共同プロジェクトという感じで取りつつ、親ボスのリソースを借りて、共同、共生やっているようなところはあると思います。そのようなスタイルも私はアリだと思います。独立してグラントを取っていくのは難しい時勢ですから、リソースをうまく使いまわして個人ではなく全体としての利益を図るというやりかたはむしろ推奨されるべきではないかと思います。これが教授のいうように、大御所が一大派閥を作ってその一存で小ボスを使って研究を進める、というようなケースが実際にどれほどあるかと考えれば、これはむしろかなり少数派ではないかと思います。逆に、このようなシステムは、なかなか独立したボジションで安定してキャリアを継続することが難しい研究者の人への救済策としてのプラクティスではないかな、と私は思います。ボスにとってこういうシステムで研究室を回すというメリットはデメリットに比べてそれほど大きくないと思われます。今や、大物でもNIHグラントを一回の応募で取れる確率は高くはなく、本当に安全な人などおりません。そういう状態で小ボスを養えるような人は、ハワードヒューズの金を持っているとか、企業と組んでいるとか、通常グラント以外の金づるがあるようなごく一部の人々ではないかと思います。

しかし、ポスドクとしてトレーニングを受けに行く立場であれば、結局は自分が独立したPIになるために必要なスキルをつける準備として行くわけですから、真に独立していないPIの下で下請け作業をさせられるというのでは、その目的に合いません。普通、十分な能力があれば、アメリカの場合では、ポスドクのあとテニュアトラックポジションに移って独立することが多いので、PIの経歴をちょっと見てみて、ポスドク後の仕事がポスドクや学生時代の仕事と独立していて、かつ通常サイズのNIHグラントに匹敵するグラントを獲得しているかを見て見れば良いだろうと思います。私の意見では、比較的若手で独立後に旧ボスの名前の入っていないそこそこのインパクトの論文を責任著者で出版しており、メジャーなグラントのサポートを持っている人が良いように思います。そういう人は成功への野心もあり、ハイインパクト論文出版への意欲も高く、本人自身がグラント獲得、論文出版という厳しい戦いの最中でもあるので、まさに数年後の自分がやらねばならないことを直接学べる可能性が高いと思います。

一方、大御所のところも多くのメリットがあります。まずハイインパクト論文が出せる確率が高い、最新の技術や知識へのアクセスが容易、などです。しかし、大御所はある程度安定したシステムを作ってしまっているので、ボスから直接学べることは限られます。そこに集ってくる優秀な同僚からそうした技術を学び、盗んでいくだけの積極性が必要と思います。いずれにせよ、その辺は本人の才能、努力と根性次第ではないかと思います。

というわけで、教授はポリンキーのCMという答えでしたが、私の意見では、留学先を選ぶ際は、次の点をチェックすればよいのではないかと思います。PIがテニュアトラックの比較的若手であること、単独責任著者でインパクトのある論文を出していること、研究のスタイルや内容が自分の興味とある程度一致すること、メジャーなグラントサポートがあり留学期間中継続すること、それから、これは見極めるのは難しいですが、人柄に難のないこと。人柄については、許可をとってそのラボの在籍者や出身者にコンタクトを取ってみるのが良いでしょうね。
コメント
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