私はマウス遺伝学的ツールを使っている関係で、結果的に発生生物的な研究をやっていたわけでですが、気がつくと、最近は、発生学的なものから多少離れてきています。Reverse geneicsを用いた発生遺伝学研究というのは、手法的には、生物になんらかの遺伝子操作を加えて、その発生段階での形質を記述するという実験をするわけで、特にマウスの遺伝子操作ができるようになった20 - 30年前から、一挙に分野が拡大しました。それまで、発生学とは無縁の人々(私もそうですが)が、興味のある遺伝子を操作した遺伝子改変動物がしばしば発生異常を来すので、発生学の分野に参入してきて、片っぱしからノックアウトを作って、形質を記述するという論文が量産されるようになりました。それが分野の拡大を招いたのだと思うのですが、この数年、発生学の分野が明らかな縮小傾向を示しているように私は感じます。
思うに、マウス遺伝学を通じて発生にやってきた人は、そもそも発生学的疑問に基づいて研究してきたコアな発生学者ではない人が多いので、その手法でかける論文を出し尽くした後は、だんだんと発生学分野から去って本来の彼らの興味の分野に帰っていっているのだろうと思います。極端に言えば、発生バブルが弾けたとでも言えば良いのでしょうか。
この数年、私が目にしている傾向は、徐々に縮小する発生生物学分野と、それに伴う発生学専門誌のインパクトファクターの低下です。約15年前ぐらいにCellの姉妹紙としてDev Cellできるまでは、発生学では英国の 「Development」が専門誌の中ではトップであったと思うのですが、あっという間にDev Cellにその地位を奪われました。それでも長らく老舗ブランドの力で高品質の論文を集めていました。発生生物学分野が縮小しだして、Dev Cellもインパクトファクターが10を切りそうになってきて、それに続くDevelopmentやDevelopmental Biologyなども地盤沈下してきました。そうなると、投稿する方も発生学専門雑誌ではない雑誌へ出そうという傾向が高まって、ますます発生専門誌への投稿もインパクトファクターも下がっていくという負のスパイラルが起こっているのだろうと思います。私も発生が絡んだ論文でも、それなりの思い入れのあるものであれば、今ではDevelopmentへ投稿するのは躊躇します。(かつてはDevelopmentに載れば大満足でした)一方で幅広い分野を含むブランド雑誌の姉妹紙が人気を集めているようです。Cell系列ではCell Reports、Nature系ではNature Communicationsなどの新興雑誌のインパクトファクターは8 - 10近くあり、老舗のPNAS並みです。おそらく、発生の絡んだ研究で以前ならDev Cellに落とされて、Developmentに出すところが、Cell Reportsという受け皿ができたので、Developmentに行く前にその系統の雑誌の方へと流れているのではないだろうかと思います。移ろいやすいは世の常とは言え、かつての老舗が落ちぶれていくのを見るのは寂しいです。
とはいえ、研究もある程度は人気商売、人々の興味のあることを研究しないとお金はもらえません。その研究の流行を作っていると思われるマサチューセッツ、ケンブリッジのケンドール駅前付近の動向を見るに、やはりここしばらくは、ゲノムワイド、シングルセル、大量データの包括的解析、という金とパワーとテクノロジーが必要なスタイルの研究がはやることになるのかな、と思います。Broad InstituteのEric Landerは「仮説なしの研究」の有用性、すなわち仮説を生み出すための網羅的データ先行型研究の重要性を説きます。(そもそもBroadは仮説先行型研究を好む伝統的な資金配分システムではサポートされにくいような研究をするために作られた組織ですが)こうしたテクノロジーの進歩、ゲノムワイド解析、CRISPRなどによる網羅的遺伝子変異スクリーニング、シークエンス技術とバイオインフォーマティクスの進歩に引っ張られて研究スタイルの流行が決まっていきます。
近年、とりわけイノベーティブであるかどうかが研究(計画)の重要な評価ポイントとなっています。そして概念的よりも技術的なイノベーションを示すことの方がはるかに易しいです。ですので、好むと好まざるに関わらず、新しい技術をいかに自分の研究に導入していって新たな切り口を見せていけるかという戦略なしには、グラントも論文出版も苦労することになります。その点では、従来のマウス遺伝学と発生学的研究手法にはもはや目新しさはなく、発展性も限られています。そういった事情も発生学と分野からの人々の撤退を招いているのかも知れません。
話かわって、ちょっとだけアメリカ大統領選の話。今回のアメリカ大統領選、共和党候補、クリス クリスティーが撤退宣言とのこと。前回の大統領選の時は随分期待は高かったのに、出馬せず、今回の出馬では、予備選序盤での支持率が伸びなかったため撤退とのこと。加えてニューハンプシャーではトランプが圧勝したという話を聞いて、暗い気持ちになりました。マトモな人が評価されず、トンデモないのが人気を集める、これがアメリカ民主主義というか衆愚政治の怖さですね。日本も同様ですが。最終的に共和党の良心がトランプを止めてくれることを期待したいと思いますが。
もう一つ、話かわって、北朝鮮の挑発に対して、米日韓がそろって、制裁を決定。先日、オバマが、従軍慰安婦問題に関して日韓最終合意をさせました。それで一応の準備が整ったので、任期が終わるまでに北朝鮮問題に道筋をつけたいということで行動開始に至ったのでしょう。オバマの意図は中国を引き込み、日中韓で共同的に北朝鮮を抑え込む体制を作ったあと、アメリカ軍のアジアからの順次撤退ということでしょう。そのためにも、日本には正式に軍隊を持ってもらわないと困ると思っており、日米軍事同盟での日本の責任の拡大をアベ氏に指示してしてきたわけです。かつての自民党であれば、ノラリクラリと面従腹背で飲めない要求はかわしつつ、追い詰められそうになったら辞任して問題を先送りするぐらいの芸当はできました。しかし、どうみてもアベ氏にはどうもそんな芸をするのは無理のようですし、する気もなさそうです。結局、国民が選挙でアベ政権の力を削ぐしか方法がなくなってきたというのが、辛いところですね。
思うに、マウス遺伝学を通じて発生にやってきた人は、そもそも発生学的疑問に基づいて研究してきたコアな発生学者ではない人が多いので、その手法でかける論文を出し尽くした後は、だんだんと発生学分野から去って本来の彼らの興味の分野に帰っていっているのだろうと思います。極端に言えば、発生バブルが弾けたとでも言えば良いのでしょうか。
この数年、私が目にしている傾向は、徐々に縮小する発生生物学分野と、それに伴う発生学専門誌のインパクトファクターの低下です。約15年前ぐらいにCellの姉妹紙としてDev Cellできるまでは、発生学では英国の 「Development」が専門誌の中ではトップであったと思うのですが、あっという間にDev Cellにその地位を奪われました。それでも長らく老舗ブランドの力で高品質の論文を集めていました。発生生物学分野が縮小しだして、Dev Cellもインパクトファクターが10を切りそうになってきて、それに続くDevelopmentやDevelopmental Biologyなども地盤沈下してきました。そうなると、投稿する方も発生学専門雑誌ではない雑誌へ出そうという傾向が高まって、ますます発生専門誌への投稿もインパクトファクターも下がっていくという負のスパイラルが起こっているのだろうと思います。私も発生が絡んだ論文でも、それなりの思い入れのあるものであれば、今ではDevelopmentへ投稿するのは躊躇します。(かつてはDevelopmentに載れば大満足でした)一方で幅広い分野を含むブランド雑誌の姉妹紙が人気を集めているようです。Cell系列ではCell Reports、Nature系ではNature Communicationsなどの新興雑誌のインパクトファクターは8 - 10近くあり、老舗のPNAS並みです。おそらく、発生の絡んだ研究で以前ならDev Cellに落とされて、Developmentに出すところが、Cell Reportsという受け皿ができたので、Developmentに行く前にその系統の雑誌の方へと流れているのではないだろうかと思います。移ろいやすいは世の常とは言え、かつての老舗が落ちぶれていくのを見るのは寂しいです。
とはいえ、研究もある程度は人気商売、人々の興味のあることを研究しないとお金はもらえません。その研究の流行を作っていると思われるマサチューセッツ、ケンブリッジのケンドール駅前付近の動向を見るに、やはりここしばらくは、ゲノムワイド、シングルセル、大量データの包括的解析、という金とパワーとテクノロジーが必要なスタイルの研究がはやることになるのかな、と思います。Broad InstituteのEric Landerは「仮説なしの研究」の有用性、すなわち仮説を生み出すための網羅的データ先行型研究の重要性を説きます。(そもそもBroadは仮説先行型研究を好む伝統的な資金配分システムではサポートされにくいような研究をするために作られた組織ですが)こうしたテクノロジーの進歩、ゲノムワイド解析、CRISPRなどによる網羅的遺伝子変異スクリーニング、シークエンス技術とバイオインフォーマティクスの進歩に引っ張られて研究スタイルの流行が決まっていきます。
近年、とりわけイノベーティブであるかどうかが研究(計画)の重要な評価ポイントとなっています。そして概念的よりも技術的なイノベーションを示すことの方がはるかに易しいです。ですので、好むと好まざるに関わらず、新しい技術をいかに自分の研究に導入していって新たな切り口を見せていけるかという戦略なしには、グラントも論文出版も苦労することになります。その点では、従来のマウス遺伝学と発生学的研究手法にはもはや目新しさはなく、発展性も限られています。そういった事情も発生学と分野からの人々の撤退を招いているのかも知れません。
話かわって、ちょっとだけアメリカ大統領選の話。今回のアメリカ大統領選、共和党候補、クリス クリスティーが撤退宣言とのこと。前回の大統領選の時は随分期待は高かったのに、出馬せず、今回の出馬では、予備選序盤での支持率が伸びなかったため撤退とのこと。加えてニューハンプシャーではトランプが圧勝したという話を聞いて、暗い気持ちになりました。マトモな人が評価されず、トンデモないのが人気を集める、これがアメリカ民主主義というか衆愚政治の怖さですね。日本も同様ですが。最終的に共和党の良心がトランプを止めてくれることを期待したいと思いますが。
もう一つ、話かわって、北朝鮮の挑発に対して、米日韓がそろって、制裁を決定。先日、オバマが、従軍慰安婦問題に関して日韓最終合意をさせました。それで一応の準備が整ったので、任期が終わるまでに北朝鮮問題に道筋をつけたいということで行動開始に至ったのでしょう。オバマの意図は中国を引き込み、日中韓で共同的に北朝鮮を抑え込む体制を作ったあと、アメリカ軍のアジアからの順次撤退ということでしょう。そのためにも、日本には正式に軍隊を持ってもらわないと困ると思っており、日米軍事同盟での日本の責任の拡大をアベ氏に指示してしてきたわけです。かつての自民党であれば、ノラリクラリと面従腹背で飲めない要求はかわしつつ、追い詰められそうになったら辞任して問題を先送りするぐらいの芸当はできました。しかし、どうみてもアベ氏にはどうもそんな芸をするのは無理のようですし、する気もなさそうです。結局、国民が選挙でアベ政権の力を削ぐしか方法がなくなってきたというのが、辛いところですね。