百醜千拙草

何とかやっています

新マウスプロジェクト

2017-10-27 | Weblog
先立つものは相変わらず心もとないのですが、新しいプロジェクト始めることにしました。まずはツール作りです。いろいろ考えた結果、結局マウスを作るのが最も簡単だろうという結論に達しました。
この結論に至った時は、ちょっと我ながらビックリしました。一昔は、マウスを作るだけで年単位かかるプロジェクトで、作りさえすれば出版が保証されるという時代もあったからです。それが、今や、マウスを作るのがツール作りの中では最も簡単、という時代になりました。感慨深いです。

しかも、試薬会社がそれに必要なものを作ってくれるのです。2年前に初めてCas9を使って変異マウスを作った時も、マウス作りもこんなに簡単になったのだなあ、と感心したものですが、それでも打ち込むsgRNAは自分でコンストラクトを作って、予備実験をした上で、in vitro transcriptionを行い、精製するというぐらいのことはやりました。今や、Cas9蛋白/mRNAとtracrRNAはすでにストックされており、リペアのssDNAとcrRNAはシークエンスを指定して注文するだけです。ベンチでの作業はゼロ。

少なくともツールを作るという点においてマウス作りに大したクレジットが与えられることは無くなりました。ESの時代はコンストラクト作り、ES細胞の培養、クローニングとスクリーニングで、毎日気を使う作業が長期間に続き、そのあとはマイクロマニピュレーターを使ったキメラマウス作り、キメラができたあとは、無事に生殖細胞へ落ちるかどうかとやきもきし、落ちなければ一からやり直し、かつては、マウスを作るのは時間的にも労力的にも大変なものでした。

マウスはまだ多少高価な実験ですが、細胞株でin vitroで再構築系を作ってアッセイするような実験でも別にそう安いわけでも早いわけでもはありません。マウスが発生段階で数日でやってしまうようなことが培養系の細胞では数週間かかります。また、マウスが無事できればその遺伝子の形質に対する作用の解析、細胞を使っての解析、などなどと培養細胞で再構築するよりもメリットが大きい部分も多いですし。

今回もCas9を使ってマウスゲノムに微小変位を入れようと考えています。Cas9を使った遺伝子改変は小さな変異は得意なのですが、まだ長いものを挿入するのは効率が悪く、その点が難点でした。しかし、それもlong ssDNA(一本鎖DNA)を使うことでかなり効率が上がるようになったようです。この技術の開発でfloxed mouseの作成など、複数の変異を長い距離にわたって入れないといけない場合などの問題も解決できそうです。ただ、長いssDNAを調整するために、一旦、in vitro transcriptionでdsDNAをRNAに転写して、そのRNAを逆転写してDNAの戻すという手順を踏むのが面倒です。

この方法を知った時、京都の大名炊き(贅沢煮)という料理を思い出しました。贅沢煮といっても原材料は沢庵などの漬物です。そのままでも食べられる古漬けの漬物を、わざわざ一旦、塩抜きして味をつけて炊きなおすという「手間」のかかることをするのが贅沢であるというのが名前の由来のようです。こういうムダな贅沢に見えるようなことをするのを合理主義の京都の人は「冥加に悪い」などと形容します。

ssDNAにするために、せっかく作ったdsDNAコンストラクトをわざわざ一旦、RNAにして、逆転写でDNAに戻すのは冥加に悪いように感じますけど、私はこういう工夫が昔ながらの分子生物の基本を利用している点で好きです。アメリカ人なら高性能のDNA合成機械を開発して合成するというストレートな方法を好むでしょうが、とりあえず使える身の回りのものを使って目的を達成する工夫を楽しむというのは日本人好みだと思います。

ssDNAといえば、大昔はプラスミドのインサートのシークエンスを決めるためにDNAを環状一本鎖にするという面倒なことをやっていた時代もあり、そのためにヘルパーファージを使っていました。稀に、M13ヘルパー ファージを使った経験のある人に出会ったりすると、妙な親近感を覚えます。(共感できる人はオヤジです)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする