久しぶりに知り合いの中国人研究者に会ったので雑談。たまたま、二年前のCRISPR babyの話になり、中国の研究現場の倫理規制の甘さについて、彼は批判しはじめました。中国共産党政権は独裁政権であり、彼らの都合によって事実は曲げられ、長いものに巻かれたい人だけが残る、そんなところでまともなサイエンスが行われないのは当然だ、と自国ながら厳しい批判。日本でも、ポンコツ政権が政権に都合の悪い日本学術会議のメンバーを恣意的に任命しなかった事件がいまだに尾をひいていますから、独裁政権による腐敗と法治の形骸化という点においては、中国も日本も北朝鮮も同じようなものです。
私も中国から投稿される科学論文のいいかげんさには辟易としていますから、中国人研究者である彼は、もっと深く思うところがあるのでしょう。
CRISPR babyの彼の批判は続きます。このCRISPR babyを作った中国人研究者はそもそも生物学のトレーニングはほぼゼロの物理学者で、数年アメリカの生物系研究室でポスドクをやっただけで、いきなり遺伝学者になったというにわか作り。自分のやっていることの意味が理解できないレベルなのだ、と彼。また、普通なら、ヒトの胎児に遺伝子操作を施すためには、研究所レベルの倫理委員会での承認が必要であり、それをヒトの母体に返すという操作にはさらに病院での倫理委員会の承認が必要となるはずで、普通の国なら簡単に行えるような人体実験ではないのです。それが、すんなりできてしまうということは倫理委員会が(存在しないということはさすがにないでしょうから)有名無実で、機能していないということです。そして、そのCRISPR babiesがどうなったのか、その帰趨を知る者は誰もいないのだ、と彼は言います。同様に、最近のオスのラットに子宮移植をするという実験で世界的に大バッシングを受けたのも中国の研究室。普通なら、動物実験倫理委員会がそんな実験を許可するはずがないのに、できてしまうのがいまの中国なのだと。
そして、話題は東京のコロナ感染爆発にうつり、そもそもあのウイルスは武漢のウイルス研究所から漏れたという噂があるけど、とふってみると、彼も、それは間違いないと思う、自分は中国人だから中国の研究現場の実情はよくわかる、あのウイルスが、なぜ食肉市場から発生したのかも想像がつく、というのです。彼によると、中国の研究所のポスドクも他の国と同様に薄給で雇われている低賃金労働者なのだそうです。普通なら厳しい封じ込めが必要なウイルス実験研究所の規制も、あってないようなものだったのではないか、実験後のバイオハザードの処理も厳密ではなかっただろう、なぜなら誰もチェックしないから、とのこと。
武漢のウイルス学研究所でコロナウイルスとその感染治療に関する研究が行われていたのは公然たる事実です。そして、そこで働いているのは生身の人間です。ウイルスの起源が食肉市場であったことに関して、彼は、研究所に出入りする誰かが、金にするためにウイルスに感染させた実験後の動物の肉を市場に売った可能性もある、と言い出して、驚くと同時に、ありえる話だと納得もしてしまいました。今となっては、これが本当であろうが陰謀論であろうが、問題の解決には何の役にも立ちませんが、惨事に際して、振り返って改めるべきところは素直に欠点を認めて改める、過去の失敗から謙虚に学ぶ、ということがなければ、同じことを繰り返すでしょう。これを妨げているのは独裁政権だと私は思います。
中国に限りません。独裁国家で国民が生活レベルに不満を抱えて働いている国ではしばしば、重大事故が起こり世界に迷惑をかけるものです。安全や倫理のための規制というのはブレーキであり本来の目的遂行の妨げでしかないですから。日本でも同じです。東電に便宜を図るために、第一次政権時のアベが福島原発の安全性に疑問を呈した専門家の意見を一蹴した5年後、世界最大の原発事故、福島原発事故がおこりました。独裁政権にとっては、世界の安全や地球の未来や自国民の幸福も、権力の維持以上には重要ではないからです。中身はどうでも体裁だけ取り繕えばよい、権力さえ握っていることができればいいと考えているのでしょう。そういう理由で、日本でも、コロナ感染爆発も起こるべくして起こっていると感じざるをえません。独裁国家では、政府が専門家に耳を傾け、国民の声を聞き、世界の批判を真摯に受け止め、正しく判断し、正しく行う、ということしないのです。我欲のために、過ちを認めて改めるという成熟した人間なら当たり前のことができない。自らの完全性を保持しないと独裁が崩壊するからでしょう。そんな人間がリーダーを務める国では国民も清廉で高い倫理観を維持できるはずもないでしょう。日本の没落が加速していっている最大の理由は、自民党の自浄作用が失われた結果としての独裁国家になっているからだろうと私は思っています。