百醜千拙草

何とかやっています

Sci-hub 訴訟がもたらすもの

2022-01-11 | Weblog
昨年末のニュース記事に関してですが、、、

普通、学術論文を読みたいと思えば、所属する組織の図書館を通じて、購読している雑誌にアクセスすることになると思いますけど、これが個人である場合とか、小さな組織で多くの雑誌を購読できないなどの場合だと、論文のアクセスは容易でなくなります。雑誌は研究者が知見を広めるためのプラットフォームであるのに、雑誌社のビジネス上の都合でその知見へのアクセスが限られるというのは、本来の目的にそぐわないわけですが、特にカネが絡むことは法律で規制があるのでやむを得ません。

しかし、多くは税金が原資の公的資金で行われてきた研究成果を高額購読料を支払わないとアクセスできないという問題は、何度も取り上げられ、いくつかの解決策が模索されてきました。アメリカでは随分前から、税金を使って産み出された論文は、発表半年以内に国立図書館のサイト、PMCを使って無料公開することが義務付けられていますし、それ以前からオープンアクセスの商業出版でないジャーナルのPLoSなどの試みがあります。最近は、商業雑誌でもオープンアクセスで、運営費用を主に掲載者からの掲載料で賄うタイプの雑誌も随分増えました。

こうした正攻法で論文アクセスの問題を解決していこうとする動きは喜ばしいことですが、時間も手間もかかる話で、研究者の立場からすれば、とにかくすぐに読みたい論文にすぐにアクセスできるサービスというのはひたすらありがたいです。このニーズに応えようとしたのか、約十年前に、カザフスタンの二十歳すぎの女子コンピュータプログラマーによって作られたSci-Hubは、出版された科学論文を各地のサーバーを通じて網羅的に公開して、無料で論文が瞬時にアクセスできるサービスを開始しました。

研究者にとっては便利極まりないサービスで、このサイトは急速に世界中に広まりました。思うに、創始者はカザフスタンという国で論文へのアクセスが高い購読料によって制限されているという状況をなんとかしたいと考えただけだったのかもしれませんが、当然ながら、複数の大手出版社から、著作権侵害を理由に、これまで11の国で敗訴、それらの国ではアクセスはブロックされています。Sci-hubのツイッターアカウントも昨年、閉鎖されました。もちろん、これらの国は法治国家ですから、違法となれば、法に従うのはやむを得ません。研究者の便宜よりも法の遵守が上ということになっていますし。

というわけで、これまで、著作権侵害で連戦連敗のSci-Hubですが、最近始まったインドでの裁判では、インド特有の「教育に必要な書物の複製は違法としない」という法律のために、今回は違った結果になる可能性があるという話が紹介されていました。
 論文に発表される知識が研究者の食べ物であると例えると、それを商品として扱う出版会社が利益を確保のためにアクセスを制限するために、食糧不足が起きているとも言えます。極端に言えば、今回のインドでの裁判の争点は、飢えを救うためにやむを得ずパンを盗んだジャン バルジャンの罪をどう考えるか、という話にも多少通ずるものではないかと思いました。

さらに、もしも今回のインドでの裁判でSci-Hubが違法でないと判断された場合は、音楽配信によって音楽ビジネスが変わったように、論文出版ビジネス業界そのもの変えるきっかけとなることも期待されます。論文出版社最大手のElsevirの非常に高額な購読料は、アカデミアではすでに悪評高いです。主に税金で研究者によってなされた研究成果を研究者が評価した上で完成品となったものが論文であり、その発表のために、通常、研究者側は掲載料を支払います。そんな税金や研究者の努力によってできた論文を彼らは「商品」として売り、さらに研究者側から購読料を集めるという商売をしているというわけですが、それが悪どいレベルなのか、活動を維持するために不可欠のコストを分散した結果なのかは、私にはわかりません。ただ、購読料という壁が知識の伝播を阻んでいるという事実は存在します。論文の原資が主に税金であることを考えると、論文を出版する出版社の利益は制限されるべきだと私は思いますし、購読料は廃止して掲載料だけで運営するオープンアクセスのシステムを採用するべきだとも思います。そうなれば、Sci-hubは必要とされないのですから。

長くなったので、本題ははしょります。興味にある方は、続きはNatureの記事をお読みください。この記事は無料です。



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