ロシアのウクライナ侵攻、分単位で変化する情勢は流動的であり、まだまだ帰趨が読めませんが、当初の予想をはるかに越えて泥沼化したということだけは言えるでしょう。
前回、ウクライナが「フィンランド化」を拒絶して、ロシアと全面戦争になったことに触れましたが、その直後に、スウェーデンについで、フィンランドもウクライナ政府側に武器の供給を表明したというニュースが出ていました。このスウェーデン、フィンランドというNATO非加盟国がウクライナ支援を表明したことの意味は大きいと思うのですが、このことをメディアはあまり議論していないようなので、素人の床屋政談を。
これら二国は軍事的にはNATO非加盟ですが、経済圏としてはEUに属しています。そして、ウクライナは、旧ソ連国で(プーチンによれば、ベラルースとともにロシアと一体である)のにもかかわらず、新政府の大統領は政治経験のないユダヤ人コメディアンのゼレンスキーで、西側に接近し、EU入りとNATO入りを望んで、西側の軍事拠点を提供する意思さえ見せました。かつてはソ連のバルト三国も共産圏多くの国もすでにNATO加盟国ですから、こうした経済的、軍事的な西側の勢力拡大の中で、ウクライナ新政府が示した露骨な西側へ接近をプーチンが黙って見逃せるはずがありません。私はこの点で、ウクライナ大統領の経験不足に付け込んだアメリカの未必の故意を感じざるを得ません。少なくとも、中国はそう解釈していました。ゲスな話をすれば、今回のようにヨーロッパへのロシアからの天然ガスの供給が止まって代わり天然ガスを売って市場を拡大するのは誰か、自分は手を汚さずウクライナに前線でロシアと戦わせて武器を売りつけ、あわよくば軍事拠点を手に入れて得をするのは誰か、ちゅーことですね。
こういう目でみると、ロシアのウクライナ侵攻は、日本の真珠湾攻撃とも重なります。日本が追い込まれて開戦に活路を見出すしかなくなったと同じく、ロシアも西側のあおりとウクライナ政府のロシア離れを危機的状況と捉えて、ウクライナに侵攻せざる得ない状況に追い込まれたのでしょう。今のロシアは戦況を有利に導こうとして、神風特攻隊なみの異常な攻撃性をみせています。大きく異なる点は、日本は当時、追い込まれて闇雲に勝ち目のない戦争をしかけたが、ロシアは圧倒的に勝てる状況と読んで先制攻撃をしかけたにもかかわらず、その読みがはずれたということでしょうか。いずれにしても、これらの戦争で大きく傷つくことなく、得をするのがアメリカという点は共通しています。
話がずれましたけど、何年も前からロシアは中国、インドなどのBRICS諸国ととEUに対抗する経済圏を構築しようと努力をしてきました。しかし、ソ連崩壊以後のロシアの凋落は明らかです。プーチンが「強いロシア」をスローガンを掲げるのも、ロシア国力の凋落に加えて、アメリカ、NATO諸国の勢力拡大に非常な危機感を覚えているからでしょう。事実、ロシアはフィンランドに対しても先月の始めに、NATO加盟をしないようにとの通達を出しています。かつてなら、言うまでもないことをわざわざ念押しする事態になっていたのです。フィンランドやウクライナがNATOに加入し、ウクライナがEUに取り込まれるという事態が起こることを、プーチンは許すことはできません。しかるに、ウクライナ新政府は状況を理解してか、いないのか、アメリカの煽りにホイホイ乗って、プーチンを挑発し、この事態に繋がったと考えられます。いずれにせよ、追い詰められていたのはプーチンの方です。
そして、ウクライナ侵攻が始まり、ことを見守っていたフィンランドとスウェーデンは、ロシアの苦戦に驚き、追い詰められたプーチンの状況を理解し、ロシアがかつての力を失いつつあることを確認したスウェーデンがまずウクライナ支援を表明し、そして翌日フィンランドもそれに続いたということだと思います。つまり、フィンランドは「フィンランド化」を脱する好機であると事態を評価したのでしょう。
ニュースには下のようにあります。
北欧フィンランドの政府は2月28日、ウクライナにライフル銃や対戦車兵器などの武器を供与すると表明した。非同盟国で武力紛争で中立政策をとってきたフィンランドの今回の対応を受け、ロイター通信は「政策の転換を意味する」と指摘した。同じく中立政策をとってきたスウェーデンも27日、ウクライナに対戦車兵器5000基を供与すると発表していた。
フィンランドはかつてスウェーデン、それからロシアに支配された歴史をもつ小国であり、独立後もつねにロシアに主権を奪わかねない状況に置かれ、中立を保ちロシアの敵ではないことを示すことよって独立を保ってきた国です。喩えてみれば、家族の生活を守るために、イヤなパワハラ上司にもゴマをすり、頭も下げ、雨にも負けず風にもまけず、いつもヘラヘラ笑っている、そういう戦略でしたたかに生き延びてきましたのです。それが、武器支援とはいえ、中立を捨て、ウクライナ政府側、つまり西側に立つとの意志を明らかにしたということを、ロイター通信は政策の転換であると指摘したのでしょう。ということは、フィンランドは、ウクライナはロシアの思い通りにはならないことを確信したに違いありません。そして、フィンランド人は、現ウクライナ軍を80年前の自身の姿と重ねたでしょう。80年前のスターリンによる攻撃の際も、フィンランドは数日で陥落すると思われていたにもかかわらず、フィンランドは抵抗し、そして一年におよぶ戦争の末、領土の一部と引き換えに独立を維持したのだそうです。
長いものに巻かれるしかなかったフィンランドは、戦況から西側とウクライナ政府に分があると判断し、パワハラ親父との決別のチャンスに賭けたと解釈できます。そしてパワハラ親父を跳ね除けようとするウクライナ軍の姿に損得なしの共感を覚えたのかも知れません。
とすると、もしロシアがあと数日のうちにキエフを掌握するか、満足する条件で停戦合意に達することができなければ、この戦争は長く続いて、双方に大きな犠牲を出したあと、ロシア国内からの批判に耐えきれなくなったプーチンの失脚に伴って終息するのではないでしょうか。独立国の内政に干渉し、軍事侵攻したのですから、西側諸国や国連が圧倒的多数でロシアを非難するのは当然ですけど、いくら外から非難しても止まりません。プーチンもそう非難されることも、戦争が罪ない大勢の人々の生活と生命を破壊する悪であることも十分承知の上で始めたのですから。止めることができるのはロシア人の声であり、その声は日に日に大きくなっています。