百醜千拙草

何とかやっています

絹の靴下

2022-03-15 | Weblog
ウクライナ情勢、泥沼の消耗戦になってきていますが、ロシアはどこを落とし所と考えているのでしょうね。現政権を潰して傀儡政権を立てたとしても、国民が納得しないでしょうし。双方ともに停戦を目指しており、双方ともに歩み寄りがありそうなので、遠からず、妥協点にいたりそうには思いますが。

ロシアが先に手を出したのでロシアが一方的に責められていますけど、事の発端はアメリカと西側諸国のアグレッシブな東方への勢力拡大ではないしょうか。この構図はパレスティナ問題とも類似性があるように思います。第一次対戦中、パレスティナでは、ロシアやヨーロッパで迫害されていたユダヤ人のイスラエル建国を、イギリスは金銭的な見返りと引き換えに焚き付ける一方、その裏でアラブの独立もこっそりと支援、結果としてこのユダヤとパレスチナの対立と紛争が激化し、現在に至るまで続行中です。この二枚舌は米英のお国芸で、第二次大戦以降もアメリカは第三国間同士の対立を煽っては、それを利用して金儲けをしてきました。

今回の戦争も、西側に入って「いい暮らし」をしたいと望むウクライナの欲求を利用して、アメリカがウクライナの脱ロシア化を焚き付け、武器を売り込み、西側化を煽ってきた結果ではないかと思います。ロシアが言うように、西側諸国とウクライナはロシアが国防上許容できるギリギリの線を、ロシアの意向を無視して超えてしまったのでしょう。いずれにせよ、結局、苦しむのは、地理的に東西の間に置かれた小国の人々です。

ウクライナの気持ちは理解できます。しばらく前、「フィンランド化」の話を書きましたけど、ウクライナが最初から、妥協してフィンランド化を選んでいれば、こうならなかったかも知れません。思うに、ウクライナはEU圏で豊かな生活を享受するフィンランドが羨ましかったのでしょう。しかし、ロシアに跪くのは嫌だった。NATOの一部となることで、西側とアメリカの庇護を得て、ロシアに跪くことなく、西側の一員となって、豊かになりたかったのでしょう。

ロシアは軍事大国ではありますが、経済的にも人口的にも、もはや大国とは言い難いです。むしろ製造業は弱く、世界に先駆けて開発したコロナワクチン、スプートニク5号も、自前で大量製造ができず、製造を外注する始末。経済の多くは天然資源の輸出に頼っているという状態。

一方、フィンランドはロシアに隣接しながらも、EU経済圏に属し、一人あたりのGDPで比較すると、ロシアよりもはるかに豊かな国です。2020年のデータだと、フィンランドは世界13位です。一方、ロシアは66位で、国民一人当たりの経済規模はアメリカの1/6、フィンランドの1/4と言うレベルです。(ちなみに日本は24位)ロシアの経済力は人口割でみれば他のソ連諸国の多くよりもまだ低いのです。そして、ウクライナと言えば120位、そのロシアのさらに1/3しかありません。

ウクライナは肥沃な農業地帯を持ち、優秀な人材もいるのに経済的に苦しんできました。ソ連時代の核やチェルノブイリなど負の遺産も多く残されています。地理的に近く、ロシアとの関係においても共通点があるにもかかわらず、フィンランドと現在のウクライナの差は大きいです。片や、EU経済圏で、国民一人あたりでみれば世界でもっとも豊かな国の一つ、一方は、ソ連時代からの負の遺産に苦しめられ、世界でも下から数えた方が早いぐらいの弱い経済に喘ぐ国。ウクライナがフィンランドのように豊かになりたいと思うのは当然でしょう。

それで、1957年のMGMミュージカル映画、「絹の靴下 (Silk stockings)」を思い出しました。これはFred AstaireのMGM最後の映画で、見どころはCyd Charisseの踊りです。下にリンクする「赤のブルース」の踊りのシーンの前では、パリでの仕事のあとすっかり西側の生活に魅了されたソ連政府職員がロシアに帰ってから再会し、甘美なパリでの思い出に耽り、「退廃的な」西側風の音楽を演奏し始めるという部分があります。その後に続くロシア風の振り付けを交えたCharisseの踊りは圧巻です。

この映画は、これよりさらに20年前につくられたグレタ ガルボ主演の映画「ニノチカ」を元にしたものあり、「絹の靴下」が意味する西側の物質的な豊かさに憧れるロシア人を描き、抑圧的で官僚主義なソビエト時代のロシアを皮肉っています。

この映画のように、ウクライナも幸福を追求したいと願っていたに違いありません。おそらくクライナは強く感じていたのです。共産主義の理想も死に、貧しさだけが残された、オラ、もうこんな村、イヤだ、と。EUに入って豊かになって、銀の匙で食事をし、絹の靴下を着けるのだと。フィンランドにできて、自分にできないわけがないのだ、と。これまで、我慢に我慢を重ねてきたのだ、もうロシアの言いなりにはならないのだ、と。

しかし、ロシアは力ずくで侵攻し、反ロシアを煽り続けてきたNATOもアメリカも口先だけで動かない。西側とロシアの間で、ロシアにはいじめられ、西側には利用され見捨てられた、泥沼の戦争の中で、幸福な未来は遠のくばかり。

Silk Stockings (1957)


ついでにNinotchikaでの上に相当するシーン、Back in the USSR

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