翅を閉じた蝶:本文とは特には関係ありません。
癌は、癌と書いたり、ガンと書いたり、がんと書いたりする。
大きな違いなのか、微妙な違いなのか、医師ははっきりと『8ヶ所中 4ヶ所から前立腺癌(いずれも右側)』と書いた。
私は癌患者になった。
悪性新生物を体内に持つ身となった。
エイリアンに支配されようとしている。
告知を受ける前日に電車の中で、生まれて初めて席をゆずられた。
スポーツキャップをかぶり、そこそこ若作りをしていたのに、病臭のような負のオーラが出ていたのか。
さほどためらうこともなく、「あ、すみません」なんて、素直に座らせてもらった。
キャップを深くかぶっていても、はみ出ている髪は真っ白(頭頂部は薄くなってきたごま塩まだらで、裾周りはフサフサ白髪という生え方)では隠しようがない。
前立腺癌悪性度の指標にグリソンスコアというものがあると教えられた。
前もって調べることをしなかったのは、たぶん無意識に目をそらしていたから。
中悪性度で治療をすれば、治る可能性が高いと言うので、「初期で軽度ということですか」と聞いてみた。
同じ言葉をなぞり「初期で軽度ということです」と言ってくれた。
でも、聞いた内容を思い出しながら調べてみると、初期で軽度は楽観的に過ぎるという感じがする。
つづく