透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

原点回帰

2006-11-13 | A あれこれ

 雑誌「新建築」11月号に伊東豊雄 建築|新しいリアル」展 の紹介記事が載っている。建築家の藤本壮介さんのインタビューに伊東さんが答えているのだが、興味深い内容だ。そのひとつが「新しいリアル」という言葉が浮かんできたことについて。

**(前略)圧倒的な鉄を見て、それまでのイメージは全然違ったと思いました。光だけのチューブをつくるのは無理で、自分が考えていた軽い建築にはならないなと分かった。また一方でその鉄が持っている物質としての力やエネルギーがものすごいプリミティブな光景に見えたんです。建築がつくられていく本当の姿を思い知らされた。(中略)それで軽くなくてもいい、透明でなくてもいい、(中略)そこからこの10年間の建築の方向が始まったと言えますね。**

「せんだい」が伊東さんの転機になったことは既に指摘されているが、自身がこれほど明白に語っているのを目にしたのは初めてだった。

さて、今回のテーマ「原点回帰」。

以前ここで、安藤さんの「表参道ヒルズ」と実質的なデビュー作の「住吉の長屋」とはヴォイドな空間を内包する自己完結的な空間構造が同じだと指摘した。「表参道ヒルズ」、これは「住吉の長屋」、30年前の原点への回帰。

伊東さんの最近のプロジェクト「台中メトロポリタンオペラハウス」について

「新建築」の先の記事の中で伊東さんは**(前略)内部は水平にも垂直にも無限に連続する洞窟のような空間として構成され(後略)**と語っている。

また次のような発言もある。
**僕の建築家としての出発点である「ホワイトU(中野本町の家)」の内部空間は、僕自身もすごく気に入っていたのですが、一種の洞窟です。(後略)** これも「原点回帰」と理解してよさそうだ。こちらも30年前へ。「住吉の長屋」も「ホワイトU」も共に1976年に建設されている。

「原点回帰」の他の実例をビジュアルに示そう。

菊竹清訓、実作より伊東さんをはじめ何人かの建築家を育てたことの方が有名かもしれない。菊竹さんの代表作には自邸「スカイハウス」と「江戸東京博物館」も挙がるだろう。

 

 スカイハウス(左):20世紀日本建築・美術の名作はどこにある より
 江戸東京博物館(右):K-ART 関西建築見学会 より

(注)写真は上記のサイトから転載したものです。

自邸の「スカイハウス」は将来の増築を見越してピロティ形式にしたと説明されているが(事実現在は1階部分は増築されている)、私は菊竹さんはこの「かたち」が好きなんだろうと思う。増築対応という理屈は後から付けたのではないかと思うのだ。

両国国技館の隣にある「江戸東京博物館」、こちらもスカイハウス同様4本の柱で浮いている。私が指摘する「原点回帰」というわけだ。鉄骨のフレームがむき出し状態の写真を以前雑誌で見たが、とにかく力技で強引に持ち上げたという印象だった。

開館してから見学したが、何故持ち上げなければならなかったのか、その必然性を見ることが出来なかった。「どうして?菊竹さん」と訊きたいが、やはり好きなんだろうな、こういう浮いたのが、と納得する他ないのかもしれない。

「江戸東京博物館」、「スカイハウス」へ原点回帰。

多くの建築家は住宅からスタートしている。ここに挙げた3人もそうだ。確か安藤さんは、だんだん規模の大きな建築を手がけるようになったが、また住宅に帰って行きたいとどこかで語っていた。

「原点回帰」は願望なのか、それともサケが生まれた川に帰るように、それは本能的なものなんだろうか。