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■ 『なつかしい町並みの旅』吉田桂二(新潮文庫1987年2刷)。著者の吉田氏は建築家で全国各地に残る古い町並み(私は街並み、あるいはまち並みという表記の方が好きだが、書名に倣う)を7,80年代に訪ね歩いた。この本にはその中から選んだ、あまり有名な町並みを避けた26か所の紀行文を収録している。それぞれ数点ずつ繊細なスケッチが掲載されている。1枚だけ茅葺きの民家が連なる通りに火の見櫓が立っているスケッチがある(*1)。カバーのスケッチも吉田氏が描いたもの。
まえがきから引く。
**旅の楽しさは、見知らぬ土地を訪ねて自分なりの発見をすることだと思う。(中略)旅で何を発見するか、それは人によって違うはずだ。対象はこの本のように町並みであってもよく、あるいは食べ物であって焼物であっても、何でもよいが、日頃から自分が関心をもつことでなければ何も発見できない。見れども見えずということで終わる。関心の動機は興味だから、自分が興味をもつ対象への理解を深めるほど見える範囲がひろがってくる。**(下線は私が引いた) 全くもってこの通りだと思う。私も同じことを自著『あ、火の見櫓!』に**火の見櫓に関する知識を得て火の見櫓が見えるようになったのです。**と書いた。
この本には南洋堂という建築図書を専門に扱っている書店のシールが貼られている。上京した時に買い求めたのだろう。
マスク無しで旅行ができるようになったら(って、そんな日が来るのだろうか・・・)スケッチブックを持って旅行をしたいものだ。
鈍行列車で行くのんびり旅。荒涼とした日本海を窓外に見ながら、ワンカップ(ここは缶ビールではダメ)をちびちび飲む。あぁ、人生って寂しいものだな~などと思いながら・・・。
鄙びた宿に泊まり、スケッチをする。風景に火の見櫓があったら好いなぁ。
*1 七ヶ宿(宮城県刈田郡七ヶ宿町)