透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「忘却の河」福永武彦

2020-08-28 | H ぼくはこんな本を読んできた


『忘却の河』福永武彦(新潮文庫1979年17刷)


 何回も繰り返し読んだ数少ない作品のうちのひとつ。初読は1981年9月。この作品のキーワードは「孤独」。

**御自分が寂しい人だから、わたしみたいな寂しそうな女を見ると親切にしなくちゃ気がすまないのよ。**(54頁) 

ブログの過去ログを確認すると、この件(くだり)を何回も引用して載せている。なぜ、この件か、もちろん分かっているが、ここに書かない。今後、もし再読するとすれば『草の花』だと思う。だが、この『忘却の河』は残さなくては・・・。

このカテゴリーで取り上げた文庫を自室の書棚に並べなおしているが、数えると『忘却の河』が100冊目だった。101冊目の誤り。再読した『桂離宮』和辻哲郎が漏れていた。


『草の花』福永武彦(新潮文庫1981年45刷)


 


「真実一路」山本有三

2020-08-28 | H ぼくはこんな本を読んできた

 山本有三に『波』という小説がある。ぼくはこの小説を中学3年のときに学校の図書館で借りて読んだということを覚えている。内容はすっかり忘れてしまったが、暗い内容だったような気がする。



今、自室の書棚に山本有三の作品では『真実一路』(新潮文庫1994年91刷)がある。

例によってカバー裏面の本作紹介文から引くが、その内容からこの作品も暗い内容であることが分かる。

**父、姉と三人の、一見平和で穏やかな環境に育った義夫少年は、厳格な父になじめず、死んだとされている母が生きていると思い始め、熱烈な思慕を抱くようになる。父は何も話さないが、母は自己に忠実に生きて愛人のもとへ去ったのであり、姉も父の子ではなかったのだった・・・。(後略)**

山本有三の代表作はよく知られた『路傍の石』だろうが、この作品もまたトーンが暗い。今読んでいる畠山健二の『本所おけら長屋』(PHP文庫)のような、落語のように面白い小説(時にほろりとさせられる)も好きだが、ぼくは暗い作品に共感、同調する心の持ち主だ。