■ 『本所おけら長屋』第6巻 畠山健二(PHP文芸文庫2019年第13刷)を読み始めた。この巻には5編の短編が収録されている。その第1編「しおあじ」を読んだ。
**「覚えていてくれたんだね、あの握り飯のことを。あの夜のことは、今でもはっきりと覚えているよ。引き戸の隙間から覗いたら、又坊が膝を抱えて泣いてた。たぶんお腹が空いていたんだろうね。あたしの両親からは、あの家の子には関わるなって釘を刺されていたから、親の目を盗んで握り飯を作ったんだ。あたしは、先に食べたからってごまかしてね。その夜はお腹が空いてねえ。そしたら、又坊のことをますます放っておけないと思った。あの子の苦しさや悲しさはこんなもんじゃない。まだ五歳かそこらの子供が空腹に耐えるのは、どれだけつらいことだろうって。島田の旦那、おけら長屋で暮らせるあたしたちは幸せ者ですね。そんな悲しい気持ちになることはありませんから」(60頁)
又造(又坊)とお染さんとの二十二年ぶりの再会。この手の人情噺には弱い。朝カフェ、スタバで読んでいて、涙が頬を伝わった。周りにお客さんがいなくてよかった。
C1:図書カードで購入した本(1冊目)