撮影日2022.07.15 朝5時ころ
「柏木 秘密を背負った男子の誕生」
■ 『源氏物語』の「若菜 上、下」を読み終えて、しばらく間が空いたが昨日(15日)次の帖の「柏木」を読んだ。この帖のトーンは上掲写真のように暗い。
柏木(督の君)は、光君(六条の院)に女三の宮(光君の妻)との密通が知られてしまい、ずっと病に伏せたままだ。冒頭の文章を読むと、柏木がうつ状態だということが分かる。自分が死んでしまえば、光君も大目に見てくれるだろう・・・、と思う。
柏木は病床から女三の宮に最後の手紙を送る。**今これまでと私を葬る炎も燃えくすぶって、いつまでもあきらめきれない恋の火だけがこの世に残り続けるでしょう**(444頁)という意味の歌に思いを託して。
光君の機嫌が悪いことなどがやり切れず、女三の宮はなかなか返事を書こうとしなかったが、小侍従に催促されてようやく返事を書く。**立ち添ひて消えやしなまし憂きことを思ひ乱るる煙くらべに**(447頁) 私も一緒に煙となって消えてしまいたい思いです。空に立ち昇る煙(恋心)はどちらが強いか比べるためにも。柏木はこの返歌がとてもうれしくて(そうだろうなぁ、分かる)、この歌だけがこの世の思い出なんだろうな、と思う。
女三の宮が男の子を出産する。薫。ここで無知をさらける。僕は薫は光君の子どもだと思っていた。物語でもこのような扱いだが、光君は実の父親ではないということはずっと知らなかった・・・。当然と言えば当然だが、光君は生まれてきた子(柏木によく似ている)を心から慈しむ風でもいない。
この先のことを憂い、女三の宮は出家を願うようになる。姫宮は食欲もなく、次第にやつれていく・・・。あの六条御息所の死霊の仕業だということが分かる。またしても六条御息所。物語における六条御息所の役目、作者の意図を考えなくては・・・。
娘のことを案じた朱雀院は出家の身だが夜の闇をついて山をおりてくる。で、光君を反対を押し切って娘を出家させる。朱雀院は**これ以上ないほど安心だと思って姫宮を預け、光君もそれを承諾したのに、それほど愛情も深くはなく、期待していたようではない様子だということを、この何年も何かにつけて噂に聞いて心を痛めていた。**(454頁)のだった。
柏木は女三の宮の出産と出家を知り衰弱、生きる力を失う。見舞い来た夕霧に柏木は次のようなことを言い遺す(ふたりは幼馴染でずっと仲良くしてきている)。光君(夕霧の父親)との間に思わぬ行き違いがあったが、自分が死んだ後でも許してもらえるのなら嬉しいということを伝えて欲しい、それから残される妻の落葉の宮(女二の宮、女三の宮の姉)のことが心配だから後をよろしく頼む、と。柏木は泡が消えてしまように息を引き取る。
夕霧は遺言に従い、落葉の宮とその母の一条御息所を弔問する。御息所と対面した夕霧が述べるお悔やみの言葉、**「このたびのご不幸を嘆く私の気持ちは、(中略)督の君にもどんなに深く心残りがあっただろうと察しますと、悲しみが尽きません」**(467,8頁)には感心した。こんな挨拶ができるなんてやはり夕霧は優秀だ。
世間は柏木の死を深く悲しんだ。光君の思いは複雑だ。**女三の宮の生んだ若君を、自分の心の内だけでは、督の君の形見と思っているけれども、ほかの人は思いも寄らないことなので、まったく甲斐のないことである。**(475頁)
秋つ方になれば、この君は、ゐざりなど。**秋の頃になると、この若君ははいはいなどをするようになり・・・。**(475頁) この帖はこのように結ばれている。
華やかな平安貴族の暮らしぶりが描かれていた頃とは違い、人の内面、抱える悩みなどが描かれる。言うまでもなく『源氏物語』は浮ついた恋愛小説などとは全く違う。
1桐壺 2帚木 3空蝉 4夕顔 5若紫 6末摘花 7紅葉賀 8花宴 9葵 10賢木
11花散里 12須磨 13明石 14澪標 15蓬生 16関屋 17絵合 18松風 19薄雲 20朝顔
21少女 22玉鬘 23初音 24胡蝶 25蛍 26常夏 27篝火 28野分 29行幸 30藤袴
31真木柱 32梅枝 33藤裏葉 34若菜上 35若菜下 36柏木 37横笛 38鈴虫 39夕霧 40御法
41幻 42匂宮 43紅梅 44竹河 45橋姫 46椎本 47総角 48早蕨 49宿木 50東屋
51浮舟 52蜻蛉 53手習 54夢浮橋