和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

啄木と歌加留多。

2016-03-07 | 詩歌
この機会に、
と思って石川啄木の本を読もうと手元にある本を
さがす。レクルス文庫「啄木日記」がある。

明治四十年1月4日(金曜日)


「曇天。雪少しく降る。寒さ烈しけれど、昨日の如くならず。
世に遊びのたぐひ多かるめれど、歌加留多許り
優にやさしき遊びはあらじ。
読札百枚取札百枚、しるされたるは、キング、クイン、ジャック
などの階級的表号にはあらずして、美しき三十一文字なり、
詩の句也。ともしび明き一室、和気○○たる中に、
うら若い男女入交りて二列に居ならび、身の構へさまざまに
皆膝の前にならべられたる札に目を注げり。
別に一人の読手あり、声張り上げて誦し出づるは何?
ああこれ実に一千年前の詩人が物にふれ時に応じて
心の底よりうたひ出でたる一百首の『くにぶり』にあらずや。
時に巧を辞句の末に競ひてうれしき心地せぬよみ口もなきにあらねど、
大方は今の世の我々がきいても有がたく思はるる歌なり。
いと深き心の声を珠の如き言の葉に述べつらねて、
げに不朽の調ぞと思はるるも少なからず。
殊には其歌、美しき相聞の歌ぞ其半ばをも超えたり。
恋の心は昔も今も変らず。
誰の耳にも美しきは恋の歌なるべし。
うら若き声に読み上ぐれば、
うら若き人の手其札を競ひ取る。
古への歌垣の場(には)を羨み思ふ我には、
加留多とる室の様ばかりうれしきは無し。
・・・・・
今夜、十二時を過ぎて加留多会散ず。
二時頃、いと長き地震あり。
今枕につかむとするに、はや三時にもなりぬらむ、
寒さ骨に沁み、裏の厩に若き栗毛の立髪ふるふ音す。
明日の寒さの酷しさ思ひやらる。
ならぶる枕なきさびしさ。
夜啼きの稚児に乳房やふくますらむ
妻が上切に恋し。」
コメント
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