和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

夏木マリさんの横笛。

2021-05-23 | 本棚並べ
朝ドラ『おかえりモネ』第四回目の録画を、また見直す。

四回目の最後の方、ほんの少しですが能舞台で謡(うたい)
が始まる前に、夏木さんの横笛を吹く場面があるのでした。

恐らく、現地の方の横笛の音にあわせてでしょうね、
夏木マリさんが笛を吹く姿勢で、指を動すその姿が、
一度の場面なのに、引きしまって印象鮮やかでした。
はい。その景色を、録画で再生して見ておりました。

そういえば、枕草子が浮かんできました。
「笛は、横笛、いみじう、をかし。」と始まる段がある。
そのなかに、吹き方という指摘がありました。
ここは、島内裕子さんの訳で引用してみます。
まず、笙に触れております。

「笙(しょう)の笛は、月が明るい夜などに、
牛車に乗って移動している時、どこからともなく
聞こえてくるのは、とてもよい。ただし、
笙の笛は横笛よりも大きいので、取り扱いが難しい
のではと感じられる。笙の吹き口が下の方にあるので、
顔の中央に持って来て、両方の頬を膨らませて吹く時の
顔といったら、ちょっと滑稽なくらいであるが・・・。
まあ、それは管楽器の場合、どれも似たようなもので、
小さな横笛でも、吹き方一つで、顔がよく見えたり、
滑稽に見えたりするのだろう。・・」
( p217。ちくま学芸文庫「枕草子 下」島内裕子校訂・訳 )


昨日。「黒川能の世界」(平凡社・1985年)の
馬場あき子さんの文を引用しました。
その文に、門笛の名手が語られてる。

「毎年四月はじめ・・・
黒川の門笛は獅子を連れて一軒一軒ていねいに村を巡ってゆく。」

「門笛の名手・難波甚九郎さんは70歳を超えたが、
ただ一人しかいない貴重な現役である。・・・・
・・甚九郎さんにとって、この四日の間、
夜遅くまで笛を吹いて村々をまわることは
決して楽なことではない。子息の玉記さんは
笛をはじめてまだ日が浅いから、甚九郎さんにいわせれば、
『まだ恥(はず)がすぐで、人さまに聞がせらいね』ということになる。」
( ~p28 )

この笛の音を、馬場あき子さんは、こう書いておりました。

「« 流し »と呼ばれるその曲は、
りょうりょうとして若やかで、馥郁としてなつかしい。
そしてどこかにもの哀しい音色を秘めて、しみじみと春を待つ
草木や名もない土地神の祠の扉にしみとおってゆく。」(p27)

はい。枕草子の『笛は』のはじまりを
ここはまず原文で、次に現代語訳で、引用してみます。

「笛は、横笛、いみじう、をかし。
遠うより聞こゆるが、漸(やうや)う、近う成り行くも、をかし。
近かりつるが、遥かに成りて、いと仄(ほの)かに聞こゆるも、
いと、をかし。・・・・」

「管楽器の中から選ぶとすれば、何と言っても横笛が、素晴らしい。
遠くから横笛の音色が聞こえて、それが段々こちらに近づいてくるのも、
趣深い。そしてまた、近くではっきり聞こえていた横笛の音が、次第に
遥かに遠ざかってゆき、ほんのかすかに聞こえるだけになってしまうのも、
とても面白い。・・・」
(p215~216。ちくま学芸文庫「枕草子 下」島内裕子校訂・訳)


はい。ちなみに、『徒然草』の第16段に、
笛・篳篥(ひちりき)をとりあげた短文があります。

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