『職人』について、どんな本を読んだらよいか?
そういえば、と思い浮かんだのは、
臼井史朗著「疾風時代の編集者日記」(淡交社・2002年)
のこの箇所でした(日記から人物を抜き出して構成された一冊)。
「 昭和41年10月30日
久しぶりのいい日曜日、書斎にこもって仕事をする。
何もしないで時間をついやすことはいいことだ。
吉田光邦氏『日本の職人像』は非常に面白い力作だと思った。
平安から現代までいわゆる職人というものが
どのような歩みを続けて来たか、
時代の移りかわりの中にあってどのような社会的位置にあって
それぞれの職人気質を形成して来たかを面白く系統的に書いている。
名著だと思った。・・・ 」(p87)
はい。今朝になって『日本の古本屋』へとネット注文することに。
とりあえず吉田光邦著「日本の職人」(角川選書)が手許にある。
そこから、それらしい、面白そうな箇所を引用。
「 さて彼ら職人といえば、それは威勢がよく、
気っぷもよく、宵越しの金は使わねえなどと
巻舌でまくしたてるいきな兄(あん)ちゃんで、
また一面には職人気質というようにこり性で、
シニカルで意地っぱりな者と、今日では相場がきまっているようだ。
だがほんとうに江戸時代の職人はそんなに元気なものだったろうか。
成程地方の村や小さな町に渡ってくる職人は、明るい元気な楽天的
な者だったらしい。しかし大都会の職人は、どれも貧しいちいさな
九尺二間の長屋住居の者ばかりだった。
『宵越しの金はもたねえ』というのも一日一人扶持の、
その日暮しの貧しさを表現することばであった。
職人は貧しいままに社会の下積みの存在であった。
『 何事もワザを好くいたしたく候はば、
心のむさきことなきように是第一なり。
細工人は一生貧なるものと心得、
つねに心のよごれぬようにいたしたく候 』
と金工土屋東雨は語っている。
一生貧なるものと心得ねばならぬのが職人であった。
・・・・ 」(p275)
「 ・・・・人気をあつめ同情をあつめる主人公となるのは、
まず商に属する類の人たちであった。
そこで職人たちはせいぜい落語、軽口のテーマ
となるより仕方がなかった。
天明のころの名高い落語家江戸の烏亭焉馬
(うていえんば)はもともと大工だったし、
三笑亭可楽は櫛工という風であったほどで、
長屋住いの庶民の娯楽はそうした同じ類の
人々からつくり出されたのである。
そこで落語の主人公はことごとく、いわゆる
九尺二間の裏長屋の住人であり、その家主で
ありその地の地主たちということになった。 」(p276)
はい。これがさわりの箇所となります。
古本が届くのが待ち遠しくなりました。