今年は、『安房郡の関東大震災』と題して、
1時間程度の講座をひらきたいと思っております。
昨年は、『関東大震災と「復興の歌」』というテーマで語りました。
それに関連して、資料を読み返しながら、当ブログでは、
すぐに忘れてしまう私のために、その資料をピックアップして、
あっちこっちと脱線して不連続ながらも書き込みをしています。
差し当たって、語るための資料はこの程度にして、
あとは、これを1時間の中にゴチャゴチャしない程度に
まとめてみたいのですが、さてどうしたらよいのか、と思っておりました。
まずは、『 安房郡の関東大震災 』に関する資料が豊富にあったことを
歓びたいと思い。その嬉しさを記しておきたくなります。
こういうのは、比較すると浮き上がってくるものですね。
ここには、東日本大震災のある箇所を比較してみることにします。
曽野綾子著「揺れる大地に立って」(扶桑社・2011年9月10日発行)から引用。小見出しに、「組織における記録という武器」とある箇所を引用してみます。
「 地震後しばらく経って、官邸と保安院と東電との間で、
喧嘩か責任のなすり合いが始まった。
東京電力福島第一原子力発電所の事故後、
第一号機への海水注水を行うことについて、
『 言った 』『 言わない 』『 知らない 』
『 伝えた 』『 連絡を受けていない 』式の
なすり合いが始まったのである。
ことがこれほど重要でなければ、
世間にいくらでもある喧嘩の典型的タイプである。 」(p162)
はい。ここでは、時間が限られた講座の話と違いたっぷり
引用しておきたいと思いますので、さらに引用を続けます。
「 会社や組織の中での喧嘩は、いつも
『 自分は連絡を受けていなかった』
『 そんなことはない、ちゃんと伝えてある 』の形式を取る。
いつか親しいカトリックのシスターが、
『 修道院の中でも喧嘩するのよ 』と言うので私は嬉しくなり、
『 シスターたちの喧嘩の原因てなんです? 』と尋ねたら、
『 連絡した 』『そんな知らせは受けていない』ということなのだという。
『 なあんだ 』と私は少しがっかりした。修道院の中なのだから、
もう少し神学的高級な問題の対立か、それとも好きなお菓子を
あの人が食べてしまったというような動物的な対立かと期待したのに、
これでは世間の会社と同じだ。
しかし組織が喧嘩をしないためには、
記録を採る習慣が非常に大切だと私は改めて思った。
私は前に勤めていた日本財団で行っている事業に関して、
何か少しでもおかしいと感じたら、
その瞬間から記録を採る習慣を職員に要請した。
『 〇月〇日、××の件で、どこそこの△△さんと名乗る人から、
根掘り聞くという感じの電話を受ける 』から始まって、
その問題に関するあらゆる人のあらゆる種類のアプローチを、
とにかく記録しておくのである。
これは非常に大切なもので、後になって大きな働きをすることがある。」
( p162~163 )
引用しながら、思い浮んでくるコラムがありました。
竹内政明読売新聞朝刊一面コラム『編集手帳』第二十集(中公新書ラクレ)。
この第二十集は、2011年1月~6月までの一面コラムが載っております。
その5月18日のコラムの後半を最後に引用しておくことに。
「 『 さしたる用もなけれども・・・ 』
何の用があったのか―――菅首相が野党から責め立てられている。
震災翌日に原発を視察した判断をめぐって、である。
首相は格納容器が破損している可能性を認識していながら、
指令本部の官邸を留守にしており・・・・・
そういえば、政府と東京電力が一体となって
原発事故のあたる『 対策統合本部 』の設置(3月15日)よりも、
蓮舫行政刷新相に節電啓発担当相を兼務させる人事(3月13日)の
ほうが先というのも、ピントがぼけていた。
拍手をもらえそうならば無理にでも『出る幕』を
つくってしまう≪ 興行師 ≫のような最高指揮官では困る。
視察は意義があったと首相は言う。
『 さしたる用もなけれども・・・ 』と言うはずもないが。 」(p196~197)
さて、『安房郡の関東大震災』を指揮したのは安房郡長大橋高四郎でした。
その記録となる『安房震災誌』(大正15年3月発行)には
前安房郡長大橋高四郎という肩書で「安房震災誌の初めに」という序を
書いております。その最後を引用しておくことに。
「 ・・が、本書の編纂は専ら震災直後の有りの儘の状況を記するが主眼で、
資料も亦た其處に一段落を劃したのである。そして
編纂の事は吏員劇忙の最中であったので、
挙げて之れを白鳥健氏に嘱して、
その完成をはかることにしたのであった。
今編纂成りて当時を追憶すれば、
身は尚ほ大地震動の中にあるの感なきを得ない。
聊か本書編纂の大要を記して、之れを序辞に代える。 」
『安房震災誌』の編纂に基づいて私は今年、
1時間の講座を、受け持つことにしています。