和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

うれしいのは。

2023-03-20 | 前書・後書。
うれしいのは、いつかは読もうと積んであった本が読み頃をむかえた時。
はい。今回は「丸山薫全集」全5巻(角川書店・1976~1977年)でした。
ちょうど手を伸ばせばそこにあったわけで横着者には願ったり叶ったり。

この全集の編集には5名の名前がありました。
桑原武夫・井上靖・吉村正一郎・竹中郁・八木憲爾。

全集1の解説は、竹中郁。
全集2の解説が、井上靖。
全集3の解説が、竹中郁。
全集4の解説、杉浦明平。
全集5の解説、八木憲爾。

はい。お気楽に、全集各巻の解説を読めれば私は満足。
たとえば、全集の1と3の解説は、同じく竹中郁でした。
同じ人の解説でも内容は別。全集3竹中郁解説を引用。

文中『昭和20年の敗戦』とはじまる箇所がありました。


「・・大正中期に精彩を放ったリベラリズムの影響下に
 かずかずの子供向けの雑誌が出たように、戦後の物の乏しさにもめげず、
 『赤とんぼ』『銀河』『世界の子供』『子供の広場』『ぎんの鈴』など
 というのが相当規模出版社から創刊されていった。

 わたくしもその列に加わるような形で『きりん』というのを創刊した。
 大正も、昭和の第二次世界大戦直後の勃興とよく似ている。つまり

 戦争という暗雲の下では子供への配慮とか愛情とかは、逼塞しがちで、
 その雲の晴れるや、人間は未来を託すべき小さい者たちへの
 責任にめざめるものらしい。・・・ 」(p554)


「子供に読ませるものを書くには、子供にわかるボキャブラリーの範囲内で
 書かねばならない。得意の機転のきいたメタファもそうそうは使えない。
 そんな拘束は、いちど子供向けのものを書いたものなら、
 誰しもがすぐ感じることである。・・ 」(p555)


うん。この竹中郁氏の解説は豊かな内容を含んでいるので
安易に断片引用だけするのは申し訳ないのですが、ここは、
私の楽しみで読み進んでいて、手にした箇所を最後に引用。

「そんな成熟の裏打ちするかのように、丸山には子供の原初的な体験と
 同じような発見やそれに伴う驚きや不審を感じるアンテナがあった。
  ・・・・
 成熟ということにはいつも率直素朴であることこそ必須なものである。

 ・・・丸山はこの大条件をみたすものを一生を通じてもっていた。
 それならこそ、他の同時代の詩人とは離れた場所であざやかに
 そびえる城をのこして逝ったのではないか。

 長い年月、しかもこの巻の示すような多様な要請に応じて執筆した作品群に、
 どこといって、先人の俤(おもかげ)や西欧の詩の影響らしいところが
 見えないのは、一にかかって丸山の個性が強固だったことにある。
 もう一つは丸山の潔癖だったことに依る。

 この巻(第3巻)の全体を通じての表情に統一感があるとすれば、
 この二つの点がその作用の原動力となっていたのであろう。 」(p560)


はい。引用のとりこぼしは、あれこれとあれども、
未読本をこうして読み始められたことのうれしさ。
引用が、私と共にどなたかの役に立ちますように。




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