和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

夏中は。

2009-08-07 | 幸田文
森まゆみ著「読書休日」(晶文社)に、
幸田露伴を取り上げた文がありました。
ちくま日本文学全集の「幸田露伴」(文庫)を取り上げておりました。
そこに、こんな言葉があります。

「夏中は『観画談』『幻談』『雪たたき』の頁をめくれば涼しくしていられた。」

うん。うん。夏の涼しい読書。

今年の夏は豪雨のニュースに、館林市の竜巻と続きました。
まだまだ、つづくのでしょうか。
さて、テレビのニュースを見ていて、印象に残ったのは、山口県の防府市の老人ホーム「ライフケア高砂」の土石流災害でした。真新しい老人ホームの一階を土石流が通り、まるで土石流の真ん中にホームが建てられてあったような新聞写真でした。

ところで、「観画談」は、寺を訪ねる主人公の話です。
ちょうど、雨が降ってくる。

「 頼む、
と余り大きくはない声でいったのだが、がらんとした広土間に響いた。
しかしそのために塵一ツ動きもせず、何の音もなく静かであった。
外にはサアッと雨が降っている。
  頼む、
と再び呼んだ。声は響いた。答はない。サアッと雨が降っている。
  頼む、
と三たび呼んだ。声は呼んだその人の耳へ反(かえ)って響いた。
しかし答は何処からも起らなかった。外はただサアッと雨が降っている。」


とにかく、お寺に泊めてもらえることになります。
すると、

「御やすみになっているところを御起しして済みませんが、夜前からの雨があの通りひどくなりまして、谷がにわかに膨れてまいりました。御承知でしょうが奥山の出水は馬鹿にはやいものでして、もう境内にさえ水が見え出して参りました。・・・・すでに当寺の仏殿は最初の洪水の時、流下して来た巨材の衝突によって一角が破れたため遂に破壊してしまったのです。・・・水はどの位で止まるか予想はできません。しかし私どもは慣れてもおりますし、ここを守る身ですから逃げる気もありませんが・・・」

こうして雨具に身をつつみ、安全な場所に移動することになります。

「何処へ行くのだか分からない真黒暗(まっくらやみ)の雨の中を、若僧にしたがって出た。外へ出ると驚いた。雨は横振りになっている、風も出ている。川鳴の音だろう、何だか物凄い不明の音がしている。庭の方へ廻ったようだと思ったが、建物を少し離れると、なるほどもう水が来ている。足の裏が馬鹿に冷たい。親指が没する、踝(くるぶし)が没する、足首が全部没する、ふくらはぎあたりまで没すると、もうなかなか谷の方から流れる水の流れ勢が分明にこたえる。空気も大層冷たくなって、夜雨(やう)の威がひしひしと身に浸みる。足は恐ろしく冷い。足の裏は痛い。胴ぶるいが出て来て止まらない。・・・・風の音、雨の音、川鳴の音、樹木の音、ただもう大地はザーッと、黒漆のように黒い闇の中に音を立てているばかりだ。・・・泣きたくなった。」


ちょっと、雨の箇所だけを引用しました。
あとは、読んでのお楽しみ。では、涼しい夏の読書を。
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