山梨百名山から見る風景

四方を山に囲まれた山梨県。私が愛して止まない山梨の名峰から見る山と花と星の奏でる風景を紹介するページです。

帰命院の夜桜

2011年04月12日 | 南アルプス
 平成23年4月4日

 帰命院のしだれ桜は、寒い日が続いたため昨年よりも2週間ほど遅れて開花した。昨年は3月20日ごろに満開だったが今年は3月下旬に下見に行ったところ、まだ3分咲きだった。甲府市内ではいちばん早く咲き始める帰命院のしだれ桜、今年は夜に訪れてみようと決めていた。
 4月4日は、日中は雲が多くてやや風の強い日だったが、夕暮れとともに風がおさまり、星の輝く夜になった。帰命院まで歩いて30~40分なので、夕方から歩くつもりだったが、雑務を片付けていると気付けば夜の8時を回っている。予定変更、車で行くことにした。

    帰命院のしだれ桜  30秒露光、F9、風が無かったのでブレなかった。


    上と同じだが、フラッシュに白いハンカチをかけて光を拡散して撮影。後方まで光が届かず。

 空を見上げると西の空に冬の大三角形が傾いているが、なんとか間に合いそうだ。9時、帰命院に到着。すっかり風が止んで木が揺れていない。さらに都合良いことに桜のまわりはほとんど電灯がついていない。ライトアップしていると桜はきれいに写るものの、星が写らなくなってしまう。星空を入れて桜を撮りたいのだ。さっそく三脚とカメラを出して撮影にとりかかるが、なかなか難しい。光の無い場所だとしだれ桜の上品なピンク色が消えてしまうのだ。フラッシュを焚いてみるが光がまばら、ならばフラッシュに白いハンカチをかけて光を拡散させてみるが、光量の調整がなかなか難しい。角度を変えたり、町明かりをライティングに使ったりと試行錯誤し、さらにパソコンでホワイトバランスと色調を調整してようやく出来上がったのが今回公開する画像である。

    町明かりを利用して半逆光で撮影


    反対側から半順光撮影。町明かりだと色調がいまひとつ。


    桜の上に昇った北斗七星  山の上のようには星は輝かない。

 風が吹かなかったのが幸いだったが、風で枝が揺れたら全くこのような写真は撮れなかっただろう。夜桜を撮るには光の使い方以上に気象条件が難しい。
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Light down Kofu city 

2011年03月29日 | 南アルプス
 平成23年3月17日

 毎年9月か10月にLight down Kofu valleyという行事が行われる。これは明るい甲府盆地の明かりを消してかつては見えていた星空を取り戻そうという主旨で行われているもので、甲府市内の愛宕山にある県立科学館に集まって星空の観察会が催される。2回ほど参加したがいずれも天候は曇り、かつ、あまり甲府市民は関心が無いようで、町明かりはほんの少ししかライトダウンされなかった。もっとも、山の上から見ているとわかるのだが、いつも霞がかかっている甲府盆地からでは、たとえ全ての明かりをライトダウンしたとしても星空が見えるようになるとは到底思えない。しかし、少なからず期待してしまう。ひょっとしたら天の川が見えるかも知れない。ひょっとしたら南の低空に輝くあの星、カノープスも・・・。
 甲府駅前で内輪の送別会が予定されていたこの日、甲府市は計画停電が夕方6時20分から行われることになっていた。7時から予定されていた送別会に少し遅れてしまうが、甲府駅から徒歩10分ほどの場所にある舞鶴城公園の高台に行き、Light downを待った。同じことを考えている星空愛好家がいるようで、東側にある愛宕山山頂には明るいライトが点灯し、人が集まっているようだ。予定の6時20分を過ぎたが明かりは消えない。今日はやらないのか?と思った6時40分、明かりが消えた!と思ったのだが、それは中心街の向こうの住宅地一部だけだった。甲府駅周辺は電車の関係で停電しないとは聞いていたが、甲府市中央の飲食店街あたりも全く消えていない。官公庁や山梨中央銀行本店などがあるかららしいが、それにしても明るい甲府の街。拍子抜けしたLight downだった。

    計画停電前の甲府市


    停電後の甲府市。市街地の向こう側が少しだけライトダウン


    停電を見に来ていた男女。西側は全く消えていないようだ。


    甲府駅北側。マンションは電気が消えたと思っていたが、ただ部屋の明かりが少なかっただけのようだ。


    北西側(湯村方面)も消えたのかどうかわからない。

 この日は明るい月が昇っていたこともあって星空観察には向いていなかったのだが、空気は比較的良く澄んでいて、オリオン座と冬の大三角形ははっきりと見えた。しかし、本当の星降る空を取り戻すには、一時的な停電ではなくて消費エネルギーを減らし、地球温暖化を止めなければきっと戻ってこないのではないだろうか。

    記念碑の上に昇ったオリオン座と冬の大三角形


    同上。別の角度から。


    城壁の上に昇った明るい月


    向こうのマンションは月光、城壁は町明かりに照らされている。明るい甲府市の明かり。
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名峰 北岳  

2011年02月27日 | 南アルプス
 私の大好きな山、日本第2の高峰北岳の映像をお見せします。「名峰 北岳」は周辺の山から見る北岳の雄姿、見る方向によってその山容はだいぶ異なりますが、どこから見ても格好が良い山です。曲は宮­本笑里さんのアルバム「TEARS」から「風笛」という曲を選びました。心地良い風が山の上を吹き抜けて行くような、そんなイメ­ージで編集した作品です。

名峰 北岳 for YT.mpg



一斉に花が咲き出す7月の北岳。初めて花の季節に訪れた時、標高3,000mあたりに咲いていたハクサンイチゲのお花畑を見て、­人生観が変わるほど感動しました。5回花期に訪れた北岳の花を映像に綴ってみました。(登山歴6年で5回ということはほぼ毎年と­いうこと。)
 曲は宮本笑里さんのアルバム「TEARS」の中から「Beautiful Days」という曲です。曲の名の通り、山上の美しいお花畑を散歩するイメージでお楽しみいただければと思います。

北岳に咲く花たち for YT.mpg


 今年も7月海の日の連休、北岳に行こうと思っています。天候が許せば、2泊でゆったりとお花畑を楽しんでこようと思っています。腕のこともあるのでテントは止めて山小屋泊まり。当院職員の山ガールが同行するかも・・・
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不発に終わった秋の毛無山ダイヤモンド 平成22年10月23日

2010年12月21日 | 南アルプス
 平成22年10月23日 天候晴れ

 ずっと頭の中で描いているがなかなか撮れないダイヤモンド富士、それは一面に広がる雲海の上に昇るダイヤモンド。標高1,500mを越えないと撮影できないこの絵は撮影できる場所が限られており、毛無山と笊ヶ岳は絶好の場所だ。何度も登っているこの二つの山だが、未だ雲海上のダイヤには巡り合っていない。そう簡単に撮影させてくれるものではない。
 前日の10月22日は雲の多い空模様だったが精進湖から富士山は見えていた。写ば写ばの栗林先生の喫茶店に立ち寄った後、朝霧高原の毛無山登山口に向う。オリオン座が昇って来るのが夜9時過ぎなので、山頂に夜9時までに到着すれば良い。4時間かかると見て、歩き始めたのは夕方4時半。普通の人はもう下山している時間から登り始めるので、もちろん誰1人出会うこともなく、毛無山の急登りをテント担いで黙々と登る。

    毛無山を代表する滝、不動の滝

 5合目あたりですっかり日が暮れてヘッドライトを点灯、時折霧に巻かれて視界が悪くなるが、少し待つと霧が晴れて空にうっすらと月が見える。9合目の富士山展望台に着いたのが8時を少し回った頃で、展望台から富士山を眺めてみるとちょうど富士山の真上に月が昇っているところだった。数枚撮影したがあっという間に富士山は雲の中に消え、その夜は二度と姿を現すことはなかった。山頂にテントを張ってしばらく空を眺めてみたが、月も星も全く姿を現さず、その夜は寝るしかなかった。

    9合目富士山展望台から見る富士山。一時的に雲が晴れて姿が見えたが、その後は姿を現さず。

 迎えた23日の朝、一面の雲海とは行かないが、富士山5合目あたりに巻いた雲の上に富士山が浮かんでいた。しかし、悪いことに富士山の真上にも大きな雲がかかってしまっている。裾野は朝焼けで赤く染まってはいるものの、果たしてダイヤモンドになるのだろうか?夜明けとともに空の雲は少しずつ晴れて行くが果たしてその時までに晴れてくれるのか?時計と空を見ながら祈るように待ったが・・・6時40分、ダイヤモンドの時間になっても富士山頂にかかった雲の帯は消えることはなかった。6時49分、雲の切れ間から太陽が姿を現したが、わずかの差でダイヤモンドにはならなかった。ほんの少しだけ雲の位置がずれていれば、きっと素晴らしいダイヤモンド富士になったであろうが、自然相手の写真はこのようなことは良くあることで、良い写真とそうではない写真はほんの紙一重の差でしかないのだ。「またおいでよ、今度は凄い景色を見せてあげるから」山がそうつぶやいているような気がした。

    迎えた朝の富士。山頂に大きな雲の帯・・・


    少しずつ狭まってはいるが・・・


    ダイヤモンドに間に合うか?


    祈るようにその時を待つ。光の放射は富士山頂から広がっている。


    わずかに至らず。雲間からダイヤモンド富士になったなら、良い写真になっただろうが・・・


    毛無山に昇る朝日


    草紅葉と富士


    展望台から見る南アルプス

 いつもなら登って来た道をそのまま下りるのだが、今回は1度だけ歩いたことのある地蔵峠から沢沿いに下りる道を歩いてみることにした。地蔵峠からのダイヤモンドも悪くは無く、場所と視界の確認、それともうひとつ、この山塊で不動の滝と並ぶもう一つの大きな滝、比丘尼(びくに)の滝を見に行きたかったことがある。地蔵峠の上には絶好の富士山展望台があり、紅葉もちょうど見頃で良い景色に出会えた。ここは4年ほど前の冬にやはりダイヤモンドを狙って下部温泉側から登った時、樹氷が素晴らしく綺麗だった場所だ。その時は何故か野良犬のシロ君が山頂までずっとお供してくれた。

    毛無山稜線の紅葉 今年はハズレ。


    地蔵峠上の展望台から見る紅葉と雲海の富士山(来年のカレンダーに使いました)


    地蔵峠から見る富士山 このあたりからのダイヤモンド富士も良さそうだが、やはり、当面は山頂にこだわりたい。

 地蔵峠から一旦急下りになるが、その先は尾根道と違って傾斜は緩やかで、沢を数回渡り返す。初めて歩いた時は対岸に渡る場所がわからず少々とまどったことがあったが、今回は全く迷うことなく(ルートもわかりやすくなっている)進む。あと10分ほどで尾根道分岐というところに比丘尼の滝がある。「尼」という名がついているが、むしろ男性的なイメージを受ける豪快に落下する滝だ。

    毛無山のもう一つの滝、比丘尼(びくに)の滝

 約4時間のスローペースで下山し12時半、麓の駐車場に到着した。帰り支度をしていると、見慣れた方が下山してきた。この山塊の主、ミスター毛無山さんだ。毎週この山に登られており、登頂回数は既に1500回を越えているのではないだろうか。この山に登る時は必ずといって良いほどこの方とお会いする。今回はルートが違ったので会えないかと思っていたのだが、偶然にも駐車場でお会いできるとは光栄だった。また来ますと挨拶して別れた。
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3年越しのダイヤモンド富士、笊ヶ岳(2日目)

2010年10月24日 | 南アルプス
 平成22年10月10-11日 天候晴れ

 前日11時間半かかって山頂に到着した時は、もうすっかり夜中、10時半になってしまった。富士山の上にオリオン座が昇り、天の川流れる星空を眺めつつ、未明1時に眠りについた。

    夜明けの富士山


    夜明けの荒川三山 右から荒川岳、赤石岳、聖岳。聖と赤石の間にあるのが影富士。

 目が覚めたのは4時半ごろ、まだ薄暗く、もう少し寝るかと2度寝入りすると、次に目覚めたのは5時40分過ぎ。携帯電話の目覚ましを5時20分にセットしておいたのだが、全く気がつかなかった。外はもうすっかり明るくなっている。ダイヤモンド富士は確か6時ごろだったはず、飛び起きてテントの外に出ると、富士山山頂がきらきらと輝いていて、ダイヤモンドの前兆が始まっていた。急いでカメラのところに行くと、前夜セットしておいたタイマーが作動していて5カットほどシャッターを切ったところだった。構図を決めなおして絞りとシャッタースピードを再調整し、ダイヤモンド富士に備えるが、後を見ると荒川三山に朝日が当たり始めており、綺麗な景色になっていた。影富士も見える。そちら側に移動して何枚か撮影し、戻って北岳方面を撮っていると・・・ふと見ればダイヤモンド富士が始まってしまっているではないか!急いで定位置にカメラを戻してシャッターを切る。まだ朝焼けのオレンジ色が残っているうちにダイヤモンドになるこの場所の富士山はそれなりに良いのだが・・・狙っていたのは雲海上のダイヤモンド富士。すっかり雲が飛んでしまってあまりにもあっさりし過ぎている。レンズに吐息を吹きかけて光を分散させて撮ると、それなりに面白い作品にはなるのだが・・・いまひとつと言わざるを得ない。また次回・・・はいったいいつになるのか?またここまで登って来る元気があるのか?この山に来るたびにそう思うのだが、辛さは下山するとすぐに忘れてしまってまた行きたくなってしまう。山に登る人はきっとみんなそうなのだろう。

    笊ヶ岳のダイヤモンド富士  3度目でようやくダイヤにはなったが・・・雲が無くあっさりし過ぎている。


    レンズに吐息を吹きかけて光を拡散させて撮影


    朝焼けがまだ残っている時間帯にダイヤモンドになる笊ヶ岳は、条件は良いが登るのが大変。


    白根三山(右)と塩見岳(左) 真中に小さく見えるのが仙丈ケ岳


    笊ヶ岳から見る甲府盆地


    小笊と富士

 ダイヤモンド富士が終わったところで朝食をとる。夕食と朝食で水1リットル消費し、残りは布引山にデポした分を合わせて800mlほどとなってしまう。広河原の水場まで5~6時間かかるとして、ギリギリといったところだろう。昨日の登りで時間がかかり、予想以上に水を消費してしまった。それでもなお、体は脱水状態で、テント撤収でテントを丸めようとすると両手の指が攣って言うことを聞かなくなる。指を引っ張ってはテントをたたみ、また引っ張っては仕舞い、そのうち面倒になって指が攣ったままでテント撤収して無理矢理ザックの中に押し込める。さて、長い下山だ。

    笊ヶ岳の標柱  左が立派な静岡県(東海パルプ)の標柱、右は新しく立て直した山梨百名山標柱。南嶺会のメンバーが苦労して担ぎ上げて立てた標柱だ。


    布引山コルから見上げる大笊と小笊


    布引山の稜線から見る富士山  下に雨畑湖が見える。


    布引のガレから見る紅葉の荒川三山

 7時半山頂を出発、布引山9時、その先のガレ場がなかなか眺望が良く、三脚を立てて写真を撮る。ここから先が急下りだ。こんな急で道がわかりにくいところを、よくあんな暗闇の中を登って来たものだと我ながら感心する。昨日の足の疲れでふんばりがいまひとと効かないので、慎重にゆっくりと下りる。途中で軽く足が攣ったものの、屈伸運動だけで改善。辛かったのは爪先の痛みで、靴が合わないようで4時間以上のロングコース下りだと毎回痛くなる。山の神手前辺りから痛みが強くなり、靴を脱いで休憩しながら下山し、午後2時、渡渉点の広河原に到着した。

    山梨の森百選、檜横手山の苔とツガの森

 水を一気に1リットル飲んで水分を補給し、ここでゆっくりと昼食のソバを作って食べる。前日に比べて水かさはだいぶ減っており、楽に渡渉できた。靴紐をゆるめて奥沢谷、林道と歩き、午後4時20分、老平の駐車場に到着した。ヘトヘト、というほどでもなかったが、爪先の痛みがいちばん辛かった。
 山頂まで行けるかどうか、この山に登る時はいつも心配になる。今回は足が攣って心が折れそうになったが、目的と強い意志を持って登りつくことができた。ちょっとばかり危険な登山ではあったが、達成感のある登山だった。
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富士に昇るオリオン座 笊ヶ岳(1日目)

2010年10月19日 | 南アルプス
 平成22年10月10-11日 天候曇りのち晴れ

 3連休初日の土曜日はあいにくの雨となってしまった。天気予報では翌日の午前中も雨の予報で、前年からこの連休に予定していたこの山へは登れないだろう、と思っていた。雨による増水で奥沢の広河原が渡渉できない可能性が高いからだ。数年前に台風後の増水時、ここを無理に渡ろうとして流され、命を落とした人がいる。しかし・・・
 10日の日曜日、朝8時に目を覚まして空を見上げると、雨はもう上がっている。時折雲の切れ間から青空も覗いているではないか。思ったよりも早く雨が上がったのだ。しかし、昨日の雨の降り方からして奥沢の渡渉が可能なのかどうか?時間も遅くなってしまったし、相手はあの難峰笊ヶ岳だ。行くかどうか、かなり迷った。天気が回復してくるのは目に見えている。そして、何故この連休にこだわるのか?それは、10月11日は笊ヶ岳山頂でダイヤモンド富士になり、しかもほぼ真中から日が昇って来るからだ。10月11日が休みになる日はまた数年先になってしまい、その時登れる保障もない。渡渉できなければ仕方ないが、行かないときっと一生後悔するだろう、そんな思いを抱きつつ、早急に1泊テント装備をザックに詰め込み、9時に自宅を出発した。
 雨畑の老平(おいだいら)を歩き始めたのはもう11時になってしまった。3年前は11時間かかってようやく山頂に到着したので、今回もおそらくは山頂到着は夜の10時ごろになるだろう。なにせ累積標高差が約2,300mもある、とんでもない登山だ。急ぎ足だと後半に響くので、足が疲れないように故意にペースを落としつつ、林道を歩き、一軒家の廃屋を過ぎ、岳沢吊り橋を渡って1時間20分ほどで広河原に到着した。

    雫の上に咲くギボウシ


    岳沢の吊橋


    シャワーを浴びる場所がある。

 思ったとおり、いつもの徒渉よりも10cmほど水位が上がっている。いつもは登山靴のまま石の上を飛んで靴を少し濡らす程度で渡っていたが、今回は濡れずに渡ることは困難だ。まずザックを下ろし、膝上までズボンとタイツを捲り上げ、裸足になって空身で渡渉してみる。膝を少し越えるところまで水に濡れるが、なんとか渡渉できる。今度はザックを背負って慎重に渡渉し、無事に対岸にたどり着いた。

    広河原の渡渉場(渡渉後に撮影) 下段の中央部を渡った。

 ここが最後の水場になるので、たっぷり水を飲んで食事をとって、2.5リットルの水を汲んで(持って行ったスポーツドリンクと合わせて計3.5リットル)ザックに詰め込み、午後2時広河原を出発した。ここからが笊ヶ岳登山の本番となる。山の神の祠まではジグザグの良い道がついているが、その先で急傾斜が始まる。ちょっと緩くなったかと思えばまた急傾斜、その繰り返しだ。檜横手山手前の傾斜がかなりきつく、登りついて緩やかになったところで苔の生えたツガの林に入るのだが、ここから緩い傾斜をだいぶ歩いてようやく檜横手山山頂に到着、時間は午後6時、ここで日が暮れた。檜横手山(ひのきよこてやま)まで、昭文社地図では広河原から3時間と書かれているが、何度歩いてもこの時間ではとてもたどり着けない。(老平駐車場の看板には4時間と書かれていて、こちらの時間のほうが正しいと思う。)

    造林小屋跡地への登りでガレの縁から富士山が望める。雲が晴れすっきりした富士山が見え始める。

 座って一休みするが、足にかなりの疲れが来た。普通ならばここでテントを張って未明から登り始めるのだろうが、なんとしても山頂まで行きたい。立ち上がってザックを背負おうとすると、右足太腿の内転筋が攣ってしまう。ストレッチしてなんとかおさまり、ヘッドライト点灯して夜道をルート探しながら歩き始める。この先、崖のような急登が待っている。その中腹で、今度は左足の大腿四頭筋が攣ってしまい、一歩も足が進まなくなってしまう。暗闇の中、登ることも下りることもできず、しかもテントを張れるような場所でもない。ひとまずは腰を下ろして疲れた足をマッサージし、ゆっくりと屈伸運動を繰り返す。そしてスポーツドリンクと行動食をとって塩分とエネルギーを充填する。10分ほどの休憩でなんとか足は動くようになり、再び暗闇の中を上を目指して歩き出す。なんとか歩けそうだ。最初はゆっくりと、そして徐々にピッチを上げて、いつも通りに歩けるまで回復した。
 布引山に8時45分到着。空を見上げるとすっかり雲が晴れ、一面の星空が広がっていた。頭上高く夏の大三角形が輝き、天の川が貫いている。やはり山は登って来いと私を呼んでいた、そんな気がした。ここで500ミリリットルの水をデポして笊ヶ岳山頂を目指す。足は大丈夫そうだ。この先のルートははっきりしているので、迷うことはない。足元に気をつけて転倒しないように歩き、そして夜10時半、ようやく笊ヶ岳山頂に到着した。3度目の山頂だが、今回がいちばん達成感があった。小笊越しに富士山がくっきりと見える。右手には静岡・沼津方面の明かり、左には甲府盆地の明かり、富士山の左手に明るく放散しているのは東京都の明かりだろう。思ったとおりの夜の絶景、そして富士山の真上にオリオン座が昇ってきていた。

    富士に昇るオリオン座


    富士に昇るオリオン座と冬の大三角形  右が沼津、左が甲府盆地の夜景。15mm diagonal fisheyeで撮影。


    裏側の荒川三山に沈む夏の大三角形

 山頂にこだわるその理由は、明朝のダイヤモンド富士もあるのだが、もう一つはこの富士山の上に昇って来るオリオン座と冬の大三角形だったのだ。夜11時にオリオン座が全容を現すのはパソコンで計算していたので、それまでに山頂に到着できれば良かったのだ。なんとかたどり着くことができた。3年前の静寂な雲海が広がった笊ヶ岳の夜、この光景を目にしていたのだが、その時は撮影する技術を持っておらず、ずっとリベンジしたいと思っていた。3年越しの思い、しかし、雲海が広がらなかったのはちょっと残念だ。久しぶりに空気が澄んでいつもは霞んでいる甲府盆地の明かりがはっきりと見える。おそらく、この夜は甲府からでも空に流れる天の川が見えたことだろう。リモコンで1分30秒ごとにシャッターが切れるようにセットして、テントを張り食事をとる。満天の星空の下でとる食事がどれほど美味で幸せなことか。

    3年越しの思い、富士に昇るオリオン座と冬の大三角形


    笊ヶ岳の標柱とテント  この星空の下、眠るのがもったいない。

 眠るのが惜しい夜だったが、寝ておかないと明日の下山に堪える。1時まで頑張って、翌朝間違って起きられなかったことを想定して、5時半から自動的にカメラのシャッターが切れるようにタイマーをセットしておいて、シュラフに潜り込んで眠る。
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Crescent moon 雲海に昇る月 鳳凰山(後編)

2010年09月13日 | 南アルプス
 平成22年9月4-5日

 青木鉱泉から中道ルートで薬師岳まで7時間もかかった。薬師岳小屋に宿泊料金は払ったものの、夕食をいただいただけで結局用意していただいた寝床には全く横たわることなく、ザックを背負って薬師岳から観音岳に向う。それもそのはず、おそらくはこの夏シーズン最高と思われる星空になり、とても寝ていられる状況ではなかったからだ。白根三山と天の川中心部分の位置を見ながら観音岳を目指し、8時ごろ山頂に到着した。さそり座はもう半分以上沈んでしまっているが、農鳥岳の上あたりに大きな天の川の帯がかかる。上を見上げれば夏の大三角形、そしてカシオペア座、北斗七星。東にはひときわ明るい木星が昇る。満天の星空を見上げながら、翌日の下山の心配があるので山頂ケルン横でツエルトとシュラフカバーを被り、夜11時、一旦寝る。

    Crescent moon 雲海に昇る月  午後2時過ぎ、オリオン座の横に二十六夜の月が昇る。

 とてもぐっすりと眠れるような環境ではないのだが、少しは眠ることができ、目が覚めたのは午前1時過ぎ。オリオン座が昇り始めていた。眠いのでもうひと寝入りして2時過ぎ、まだ眠い体を引きずるように起き上がる。眼下に雲海が広がり、そのおかげで明る過ぎる甲府盆地の灯りが遮られ、オリオン座と冬の大三角形がはっきりと見える。二十六夜の月が静かに雲海を照らしながら昇っていた。富士山が雲海の上に頭を出している。凄い景色が目の前に広がっていた。

    雲海に昇る月と冬の大三角形  レンズの上半分に吐息をかけて月の光を拡散させて撮影。


    富士に昇るオリオン座の光跡  15分間バルブ撮影。


    富士に昇るオリオン座  こちらの画像の方がデジタルカメラの特性が発揮できる。

 ここからはもうひたすらシャッターを切った。30秒シャッター開放、記録に30秒かかるので、1枚の撮影に最低1分はかかる。画像の構図、明るさをモニターで確認してまたシャッターを切る。朝まで山頂の岩の上や、一段下のところを行ったり来たりの繰り返しだ。できれば、17mmの画角で雲海を水平に捉えたかったのだが、APS-Cサイズのセンサーでは入りきらず、15mm fisheye での撮影となる。想定していたよりも遠い位置に月が昇っていた。また、オリオン座の位置も予想よりは富士山から遠かった。しかし、それを考慮しても余るほどの凄い景色だ。もし小屋が近かったなら、寝ている人たちをたたき起こしてでも見せたい景色だった。

    雲海に昇る薄明の二十六夜月  17mmでようやくこの画角に収まる。


    夜明けの雲海と富士


    朝焼けの雲海に浮かぶ


    雲海上の日の出

 夜明けが近付くとともに空が青らみ、水平線がオレンジ色に染まる。薄明の澄んだ青い空に吸い込まれるように星が消えて行く。足元がしっかり見えるようになった頃、山頂の岩から下りる際、見事に踏み外して転倒、カメラを思い切り岩にぶつけてしまった。ボディとレンズのフレームに傷ができたが、シャッターは普通に切れる。と思いきや、そうではなかった。サブモニターに表示されたIso感度や絞り、シャッタースピードがダイヤルを回しても変えられなくなってしまった。困った。朝だというのにIso 640のまま変えられない。しかし、ファインダーの中を覗いてみると、ダイヤル操作で数値が動いており、どうやら壊れたのはサブモニターだけで撮影には支障なさそうだ。日の出の貴重な時間、この転倒で15分ほど撮影中止となってしまった。肝心の自分自身は?膝と肘に擦り傷を負った程度で、カット判を貼っただけで事無きを得た。

    朝日射す地蔵岳と甲斐駒ケ岳


    白根三山の夜明け

 すっかり陽が昇ったところで三脚を担いだまま地蔵岳の方向に移動する。眼下の雲海は朝もそのままだ。地蔵岳や甲斐駒ケ岳、そして白根三山に朝日が射し込み、ほんのり赤く染まる。地蔵と観音のコルまで行ったところで朝食をとる。さて、下山。ドンドコ沢の急下りを黙々と下るが、この下りもまた登り以上にきつい。7時半に鳳凰小屋を出発したが、途中で疲れと睡魔に襲われてヘロヘロ状態となり、ついでに道を間違えて20分ほど御座石鉱泉側のルートに入ってしまうというおまけも付き(40分ほど時間をロス)、12時、やっと青木鉱泉に到着した。

    真夏の北岳


    雲海に浮かぶ八ヶ岳

 思いもよらぬ星空とめぐり会えた今回の鳳凰山。この山は何度登っても裏切られたことがない。今回も山の神様に感謝だ。しかし、自分の体力はどうかというと・・・ただ歩くことに慣れただけなのか、寝不足が応えたのか、もう動きたくないというくらいへとへとに疲れた。しかし、筋肉痛は翌日軽くあっただけだったので、5年前に比べると進歩・・・とみて良いのだろう。
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Crescent moon 雲海に昇る月 鳳凰山(前編)

2010年09月09日 | 南アルプス
 平成22年9月4-5日

 ジャズバイオリニストの寺井尚子という人の『Jealousy』というアルバムの中にcrescent moonという曲がある。細い三日月が静かに空に昇るイメージの曲だ。この曲のイメージに合わせた風景を撮りたかったのだが、なにせこの猛暑日の続く天候、空には入道雲がかかり、午後から夕方にかけてはいつ雷をくらってもおかしくない天候、そして空や山が全く見えないのだ。昨年もそうだったが、6月以降、まともな星空は全く撮影できていない。そして久しぶりに訪れた週末のチャンス、空が晴れてくれれば未明2時半ごろ、東の空からオリオン座に引きずられるように二十六夜の月が昇ってくるはずだ。久しぶりの鳳凰山、甲府盆地に昇ってくるcrescent moonを狙う。
 青木鉱泉からの入山は決めていたが、ドンドコ沢を登るか、中道を行くかは車を運転しながら決める。思えば5年前の初心者の頃に初めて中道コースを登って、とんでもなく辛い思いをした鳳凰山、下山して4~5日間筋肉痛に悩まされた。果たして少しは体力がついたのだろうか?5年間の成長を試すべく、中道ルートで登りドンドコ沢を下ることにした。山上に水場はないので、4リットル近い水をザックに背負い込み、9時10分、青木鉱泉を出発。途中で薬師岳小屋に宿泊の連絡をとろうとしたが電波が悪くつながらず、いざという時はツエルトとシュラフカバーで寝る覚悟で行く。中腹の林道との交叉点に11時、御座石という大岩のところに午後2時到着。毎度の事ながらコースタイムに及ばない遅いペースだ。御座石の少し下で薬師岳小屋の従業員とすれ違い、宿泊場所を聞かれて予約していないことを告げると、連絡を入れておいてくれるということだった。午後4時、薬師岳山頂到着。甲府盆地は見えるものの、山には雲が巻いて富士山も白根三山も見えなかった。夜の撮影場所を確認すべく、観音岳側に進んで富士山や北岳の方向、そして足場を確認し、4時半に薬師小屋に入った。連絡を入れておいてくれたおかげで、名前を告げると小屋番の女性はすぐにわかってくれた。

    中道コース上部にある御座石。ここから薬師岳まで1.5時間。


    ようやく見えた薬師岳山頂。このあたりから一気に眺望が開ける。

 5時半、夕食となる。向かいに座った若い女性の方は朝一番のバスで5時夜叉神峠から歩き始め、9時45分には薬師岳小屋に到着したという。また、横に座ったやや高齢の男性は前日夜叉神峠小屋に宿泊し、朝9時に薬師岳小屋到着したという。2人とも1日で鳳凰山縦走可能なペースだ。そういえば、夜叉神峠コースは冬期に何度も歩いているが、夏場は一度も歩いたことがないことに気付く。今度試しに歩いてみなければ。しかし、私の足ではやはり6~7時間かかるのではないだろうか。

    北岳の上に輝く金星  しだいに空が晴れ、山や星が見え始める。

 夕暮れの頃に薬師岳に登ってみると、北岳が雲に巻かれながらも姿を見せ始めていた。その上に沈みかけた明るい金星が輝く。7時過ぎまで景色を楽しみながら撮影していたところで電池切れとなり、一旦小屋に戻る。砂払山側の広場で数人の人たちが星空を眺めていたので、仲間に入れてもらって一緒に空を眺める。空が暗くなるにつれて霞が晴れ、一面の凄い星空になった。そして南西の空に寝そべったさそり座が、さらに空を横切る白い帯、天の川がはっきりと見えるようになってきた。思いもよらない星空に出迎えられ、未明2時まで小屋で寝ようと目論んでいたのだが、そうはさせてくれないようだ。寝るか、行くか、少しばかり迷ったが、こんな好条件の空はめったにお目にかかれない。乾燥室に干しておいた服やタオルをザックに詰め込み、山上で一夜を明かすことにして出発する。(小屋で用意してもらった寝床は結局一度も使うことはなかった。)

    薬師岳の岩峰に昇る木星と雲海上の富士山


    白根三山と天の川  観音岳山頂から見るとこの位置に収まる。

 薬師岳の稜線に登ると、空はすっかり晴れ、白根三山が姿を現していた。その南側に天の川の中心部分が昇っている。画角的に良い位置を探しつつ、観音岳を目指して三脚を担いだままどんどん進む。いつもならば眩しいほどの甲府盆地の灯りが広がっているのだが、この日は眼下一面に雲海が広がり、甲府盆地はその下だ。おかげで町明かりが遮られて凄い星空が楽しめた。雲海の上に富士山も顔を出している。迷うことも、転ぶことも無く観音岳山頂に到着。心地良い穏やかな風が吹く最高の夜だ。山上にいるのはもちろん私一人だけだ。木星が、白鳥座が、夏の大三角形が、そして北側にはカシオペア座と北斗七星が輝く。久しぶりに見る夏の天の川の美しさにはため息が出るほどだ。

    雲海の富士に輝く木星  レンズに吐息を吹きかけ、光を拡散させて撮影。


    薬師岳の上に立つ夜富士  これは長時間バルブ撮影。

 眠るのは惜しい夜だったが・・・少しは寝ておかないと明日の下山にこたえる。10時半、ツエルトとシュラフカバーを被り、観音岳山頂ケルンの横に横たわらせてもらい、星空を見上げながら仮眠する。(後編に続く)



   (おまけの1枚)雲海に昇る月と冬の大三角形  後編にご期待ください。
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北岳、花調査(後編) ~北岳肩の小屋から山頂、ボーコン沢の頭を経て嶺朋ルートを下る~

2010年07月28日 | 南アルプス
 7月4日 天候曇り時々晴れ

 北岳の山頂にかかる天の川の撮影を狙っていたのだが、夜はずっと雨が降り続き、星も月も全く見えなかった。ぐっすりと眠って朝4時に目が覚める。外に出ると、小雨が降り、真っ白な霧が立ち込める視界の悪い朝だった。御来光など全く望めない。
 5時過ぎ、朝食になる。この日もさほど急ぐ必要も無く、2順目の食事をとってゆっくりと準備し、6時半過ぎに小屋を出発して山頂に向う。霧と小雨が混じる天候で、レンズがすぐに曇ってしまうため、ハンカチやタオル、さらには・・・靴下でレンズを覆い、濡れないようにしながら歩く。山頂直下のハクサンイチゲのお花畑はまだ5分から7分咲きといったところで、おそらくは来週から連休ごろが見頃になったことだろう。

    朝霧に濡れるハハコヨモギ(フラッシュ同調)


    霧に立つハクサンイチゲ


    7分咲きのハクサンイチゲお花畑


    朝霧に濡れるキタダケソウ(フラッシュ同調)

 山頂を通り過ぎてトラバース道に下りて行くと霧と小雨に濡れたキタダケソウが見え始めた。2年ぶりに見るキタダケソウに出会えてほっとする。トラバース道に下りて北岳山荘側に進むとキタダケソウのお花畑になっており、ちょうど満開のキタダケソウを見ることができた。しかし、以前来た時と何か違うのは・・・ハクサンイチゲの混ざっている量がだいぶ増えた気がする。正確に計測しているわけではないので何とも言えないが、前はキタダケソウの中にわずかにハクサンイチゲが混ざっていただけだったような気がするが、今回はどこを見てもハクサンイチゲが混入して咲いている。これも温暖化の影響なのか、キタダケソウよりも暖かい場所で生育できるハクサンイチゲが増えてくるのは当然の現象なのかもしれない。

    梅雨に濡れるキタダケソウ


    キタダケソウのお花畑  ハクサンイチゲがだいぶ混入している。


    別の場所。 やはり以前よりハクサンイチゲが多い気がするが・・・

 たっぷり見物した後、八本歯のコルに下りる。このルートを通って左俣雪渓を下る物好きは誰もいないかと思いきや、2~3人通った足跡が残っていた。八本歯のコルに行くと、シナノキンバイのお花畑が広がり、岩の間にはイワベンケイやミヤマシオガマが咲いていた。そして足元を見ると、黒い百合、ミヤマクロユリが咲いていた。

    八本歯のコルのシナノキンバイお花畑


    ミヤマクロユリ  足元に咲いていた。


    岩場に咲いていたミヤマシオガマ


    ツガザクラ

 ボーコン沢の頭に行くために、ハシゴを登ったところで吊り尾根のほうから7~8人のグループが下りてきた。何故にここを下りてくるのか?と不思議に思って話してみると、左俣雪渓を登る時に霧に巻かれてルートを見失い、吊り尾根の途中に登りついてしまったそうだ。よくぞあんな急登りの雪渓を無事に登りつけたものだと感心する。そう思っていたら、その後にも2組、全部で15人ほどの人たちと出会い、この日に朝一番で左俣雪渓を登った人たちは皆ルートを誤ったらしい。無事に登りつけてなによりだった。

    池山吊尾根の露出したハイマツの根と間ノ岳


    池山吊尾根から見る北岳バットレス  やっぱり北岳は凄い!


    吊尾根のナナカマドと間ノ岳、農鳥岳

 池山吊り尾根のボーコン沢の頭までのルートはところどころハイマツの中でルートのわかりにくい場所があった。この頃には雨が上がっていて青空が見えるようになっており、時折北岳バットレスが山頂近くまで姿を現すようになっていた。ボーコン沢の頭手前のピークがバットレスの眺望抜群で、ここで休憩して昼食をとる。時間は10時半、私がしつこく写真を撮っていたおかげで、すっかり遅くなってしまった。

    ボーコン沢の頭のケルン


    嶺朋ルート入口の看板と北岳


    嶺朋ルート上部はコイワカガミがたくさん咲く

 昼食後、ボーコン沢の頭に11時25分到着、ここの池山小屋への分岐を右に曲がらずに真直ぐ進むと嶺朋ルートのある広河原直下りの尾根に行ける。ルートの入り口には「広河原へ3時間」と書かれた嶺朋ルート入り口の看板が立てられている。眺望の良い尾根はここで終り、ここから少しばかりハイマツの薮をこぎ、樹林帯の中へと道は進む。ところどころ道なのかどうかわからないところもあるのだが、ルート上にはペンキサインがつけられていて、これを見落とさずに下れば迷うところはない。しかし、滑りやすい急斜面あり、また時として岩を飛び越すところあり、さらに中腹から下のツガ林は倒木が何ヶ所もあり、三脚をつけた私のザックは何度もひっかかって通過しにくいことがあった。決しておすすめできるルートとは言えない、というのが私の率直な感想である。

    上部の雪渓残る草付。鹿の食害か、生えているのはバイケイソウばかり。


    中腹部の岩稜帯。左手に御池小屋が見え、右下には南アルプス林道が見える。


    中腹の苔の生した樹林帯


    倒木のところにつけられたペンキサイン。通過に苦労した。

 ルート最下部のカニコウモリ大群落を抜けると下に遊歩道が見え始め、広河原園地の近くに抜け出た。時間は14時25分、雨の後で滑りやすく、ピッチが上がらなかったこともあるのだが、嶺朋ルート入り口の看板のところから2時間40分の行程だった。

    下部のカニコウモリ大群落


    広河原園地の近くの遊歩道に出る。

 2年ぶりのキタダケソウとの再会、しかし、変化しつつある北岳のお花畑。果たしていつまでこの景色を見ることができるのか、そんな不安の残るレインジャー花調査を兼ねた北岳山行となった。
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北岳、花調査(前編) ~御池小屋、右俣を経て肩の小屋へ~

2010年07月22日 | 南アルプス
北岳、花調査(前編) ~御池小屋、右俣を経て肩の小屋へ~

 平成22年7月3日 天候曇りのち雨
 今年度から参加している山岳レインジャー(主に花の生育調査)の業務として北岳の花調査の命を所属する山岳会嶺朋クラブが受けた。ちょうどキタダケソウ満開の頃だろうし、行きたかった場所だけに参加することにした。しかし、問題なのは天候。1週間前から天気予報を連日チェックしていたが、日を負うごとに降水確率が高くなり、前日の予報では50%。ということは、山の上ではまず雨ということだろう。あまり気はすすまないが、レインジャーの花調査の業務は日程の指定があり、この日を逃すともう日程がとれなくなってしまう。前日、同行する嶺朋クラブ会長、高崎さんに電話してみると、「行くしかないでしょう」との返事。若干の天候不良くらいならば、行くしかないのだ。

    広河原から見上げる北岳方面。空は曇り空、山頂は雲の中。左側が下山時に使う予定の嶺朋ルートがある尾根。(ボーコン沢の頭から広河原に直下りする道)

 5時半芦安駐車場出発のバスに乗り、広河原に入る。天候がいまひとつということがあって、キタダケソウ満開の季節というのにバスに乗る人は少なかった。夕食までに北岳肩の小屋に着けば良いので急ぐ必要も無く、新しく立て直した広河原プラザの中の写真を見学してから、ゆっくりペースで登り始める。野呂川にかかる橋を渡ったところに看板があり、大樺沢の御池小屋分岐から二俣までは通行禁止と書かれていた。いったい何があったのか?高崎さんと相談の上、ひとまず行けるところまで行ってみようということになった。御池小屋分岐から30分ほどはいつもと変わらない大樺沢の道だったが、左岸に渡る橋のところで道は一変、大規模な雪崩の後なのだろうか、木々がなぎ倒され、道が無くなっている。橋はなんとか架けられているので渡ったが、その先の道は全くどこを歩けば良いのかわからない。どうしようかと相談していると、後ろから工事関係者(山小屋の方か?)がやって来て、「看板見ただろう、ルールは守ってもらわないと困る」と、お叱りをうけてしまった。話を聞くと、50年ぶりくらいの大雪崩で道が完全に壊れ、下の橋は直したものの上の橋はこれから工事を行なうところで、とても渡れるような状態ではないという。上流まで上って岩伝いに渡れないこともないが、保障はできないとのことで、ここは引き返して御池小屋経由で右俣を登ることにした。

    通行禁止となっている御池小屋分岐から二俣に行く大樺沢の道。大雪崩で道が壊れ、上流の橋が流されてしまっている。

 1時間ほど時間をロスし、御池小屋には11時15分に到着。私たちよりも1本早いバスの人たちが多かったのか、たくさんの人たちが休憩していた。小屋の前にミヤマキンポウゲが少しだけ咲いていたが、かつてはお花畑だったはずの草付きは、今ではバイケイソウとゼンマイしか生えない荒地になってしまっている。おそらくは鹿の食害、草スベリや右俣のお花畑も年を負うごとに狭くなっている気がする。

    御池小屋とミヤマキンポウゲ


    御池小屋横のお花畑はバイケイソウとゼンマイばかり。


    二俣のところの植生保護柵。保護というよりも鹿の食害にあったところとあわないところでどう変わるかを研究するための柵といった感じ。


    二俣に一株だけ咲いていたヤマガラシ

 二俣まで行ったところで昼食休憩をとる。雪が多いには多いのだがびっくりするほど多いというわけではない。足元にはまだあまり花は咲いておらず、開花が遅れているようだ。右俣を登って中腹の草付きのところまで行く途中は、4年前に歩いた時にキンポウゲがだいぶ咲いていたように記憶しているが、今回はほんの少ししか見つけることができず、変わってマルバタケブキがたくさん生えていた。バイケイソウ、マルバタケブキ、トリカブト、そしてタカネコウリンカは鹿が食べないと言われており、鹿の食害の後はこのような草木ばかりが残ることになる。そして、ゼンマイ(たぶんイタドリゼンマイだと思うが)が残っているところをみると、これもおそらくは食べないのだろう。ダケカンバの林の中を、登山道を横切る獣道が真直ぐに右俣の雪渓方向に向って走っている。雪渓周辺の草付きの花をおそらくは好んで食べているのだろう。現在私たちがレインジャーとして行なっている業務は花の調査だが、その結果が出る頃にはもう北岳のお花畑は消滅してしまっているのではないか、そんな心配を抱いてしまうほどに深刻な状況になっている。もはや調査ではなく保護の段階、いや、それを超えて再生をどうするかを議論する段階まで進んでしまっているのではないだろうか。

    わずかに咲いていた(残っていた)二俣ルートのミヤマキンポウゲ


    中腹の草付に咲いていたショウジョウバカマ


    かつてはミヤマキンポウゲが咲いていたはずだが、今ではマルバタケブキ、トリカブト、バイケイソウ、そしてゼンマイばかり。

 草スベリと右俣ルートの合流地点(標高2,600m付近)のシナノキンバイのお花畑は、まだ花がほころび始めたばかりだが無事に残っていた。しかし、少しずつバイケイソウが増え始めているような気がする。

    草スベリと右俣ルート合流部あたりのシナノキンバイお花畑。まだほころび始めたばかり。


    ほころび始めたシナノキンバイ

 さらに登って稜線にたどり着くと、景色は一変する。この稜線はまだ鹿が越えていない場所で、食害を受けていないため、ハクサンイチゲやミヤマキンバイ、オヤマノエンドウ、イワウメ、そしてキバナシャクナゲなどのお花畑が一面に広がる。ちょうどハクサンイチゲは満開を迎えており、眼前に広がる景色に遅い足がさらに遅くなってしまう。小雨が降り出したが、カメラをタオルとビニール袋で覆いつつ、三脚を取り出して写真を撮りながら歩く。高崎さんには申し訳ないので、先に小屋に行ってもらうことにする。あいにくの雨であまり良い写真は撮れないのだが、しかし、この景色は何度見ても感動する。登ってきて良かった、そう思った。

    稜線西面に広がるキバナシャクナゲ群落


    イワウメ群落


    岩場に咲くチシマアマナ


    ハクサンイチゲと残雪の北岳


    北岳稜線のお花畑  やっぱり北岳は凄い!

 小雨降る中を三脚を担いだまま存分に花を楽しみながら歩き、北岳肩の小屋には5時を少し回った頃に到着。小屋ではもう1順目の夕食が始まっていた。(この季節に訪れる時は、毎回夕食時間に間に合ったことがない。)2順目の夕食をいただき、うれしいことに、小屋主の森本さんからビールを1本ご馳走になった。顔を覚えていただいたようで、ここのところ宿泊のたびにビールをご馳走になってしまっている。少しでも良いから何か山に恩返しができれば、と来るたびに思う。(後編に続く)
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ユキワリソウ咲く錦滝と日向山  平成22年5月30日

2010年06月02日 | 南アルプス
 平成22年5月30日 天候晴れ時々曇り

 残雪の甲斐駒ヶ岳と夜の星空の撮影を考えていたのだが、生憎の曇り空、かつ前日は日直の業務があったため、日帰りで日向山を訪れた。この季節に日向山を訪れる理由は、新緑と残雪の甲斐駒ヶ岳が美しいというだけでなく、麓の錦滝に咲く雪割草を見るのが楽しみでもある。

    新緑と残雪の甲斐駒ケ岳


    ユキワリソウ咲く錦滝  滝の両側の岩に張りつくように咲いているのがユキワリソウ.

 暗いうちに自宅を出発するつもりで4時に目覚ましをかけ、一旦は目を覚ましたものの、あまりの眠さに二度寝入りしてしまい、気が付けばもうすっかり夜が明けた6時。急いで荷物を準備して出発し、登山口の矢立石に着いたのは8時になってしまう。錦滝に日が当たって撮影に良い光が射し込むのは午前中なので、まず林道を進んで錦滝に向かう。45分ほどで錦滝に到着、さっそく滝の下に行ってみると、目的のユキワリソウはちょうど満開の見頃だった。今回で3度目となるユキワリソウとのご対面だが、今年は例年よりもたくさん咲いているように見えた。時期が良かったせいだろうか。

    ユキワリソウと滝の流れ


    ユキワリソウ咲く


    ユキワリソウ

 存分に撮影後、錦滝横の急登りの登山道を登って日向山雁ヶ原に向かう。最近ちょっとしたトレーニングを始めて1か月ほど経過し、その成果が果たしてあるのかどうかを試してみたいということもあった。しかし・・・決して楽には登らせてくれず、やはり山登りは辛い。それでも雁ヶ原まで45分ほどで登り着くことができた。

    錦滝から日向山雁ケ原に向かう途中にある鞍掛山への分岐.新しく看板が設置されていた.


    日向山雁ヶ原  直登している人がいたが,登山道は左側にある.

 いつもならばゆっくり休憩するところなのだが、足にあまり疲れを感じず、ザックを降ろすことなくそのままそこそこに撮影を済ませて一気に下山を開始した。10時に山頂を出発、50分で登山口に到着、その間ほとんど休憩無しで一気に降りてきた。

    雁ヶ原の岩と盟主雨乞岳


    雁ヶ原と八ヶ岳

 最近やっているトレーニングはスピードアップのためではなく、長時間歩いても疲れない、休んですぐに回復するような持久力アップのためのトレーニングである。これから迎える高齢期に備えて、早くは歩けなくとも三脚とカメラを担いで目的の山まで登って行けるだけの体力を付けて行きたいと考えている。アンチエイジング、というにはまだ早いが、それに向けての備えである。まだ成果が出たかどうかはわからないが、体重5kg減量し、以前よりも休憩を入れずに長時間歩けるようになったような気はする。今年こそは、あの難峰笊ヶ岳に再度登りたいと思っている。(トレーニングについてはいずれ記事に書きたいと思っています。)
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月と仙丈ケ岳  平成22年5月1-2日

2010年05月05日 | 南アルプス
 平成22年5月1-2日 天候晴れ

 天候に恵まれたゴールデンウィーク、皆様はいかがお過ごしでしょうか?
 当初は鳳凰山から早川尾根に2泊3日で入山の計画を立てていたのだが、狙っていたさそり座と天の川の位置にちょうど月が居て、天の川が写ってくれそうにない。ならば逆にこの月を使って撮影するに良い場所は・・・2年前に行った小仙丈ケ岳からの小仙丈カールを照らす月、さらに仙丈ケ岳に沈んで行く月が良さそうだ。仕事の都合もあって2泊は無理になったので、前日に仙丈ケ岳に行くことに決めた。
 小仙丈ケ岳にテントを張るので、あまり早く行っても登山する人達の迷惑になってしまう。バスは10時仙流荘発で行くことにして、7時過ぎ、甲府を出発し、高速を使わずに国道20号線から杖突峠、高遠を経て仙流荘に入った。9時半に到着したが、目の前をバスが出発していった。バス時間を間違えたのか?と一瞬焦ったが、バス時刻表を見ると出発時間は10時5分、登山客が多くて臨時便が出発したのだ。山梨県の芦安からのバスと違ってこちら側はゲート通過時間の規制がなく、乗客が多いとすぐに臨時便を出してくれてサービスが良い。山梨県側も見習って欲しいものだと常々思うのは私だけではないだろう。この季節はまだバスは北沢峠までは行かず、手前の歌宿(うたじゅく)というところから1時間少々歩かなければならない。このアスファルトの林道が意外と厄介なのだ。登山靴で硬い道を歩くと異様に疲れるのだ。

    まだ葉をつけていない木と甲斐駒ケ岳  南アルプス林道から。

 もともと足は速いほうではないが、林道をテクテクと歩き、まかりなりにも先行していた大ザックを背負う3人組を追い抜いた時、突然声をかけられた。女性の方ははっきり見覚えがあるが、男性は??? 笊ヶ岳でお会いした宮崎さんご一行だったが、旦那さんのほうは少し太られたのか、以前とだいぶ印象が変わってしまった感じがした。本日は北沢峠テント泊だという。きっと大ザックの中はアルコールとご馳走でぎっしりのことだろう。私は先に行ったが、北沢峠で休憩中に3人が追い付いてきた。近況やその後の山行の様子など情報交換したが、この人たちはやはりただ者ではなかった。瑞牆山から雲取山まで5月連休に大縦走、などという山行をやっている。そういえば、長崎の堀川さんたちご一行がそれとは逆コースをこの連休で歩いているはずだ。あのつわものたちは今頃どの辺だろうか?下山後に連絡をとってみることにした。宮崎さんたちとは明日仙丈ケ岳から下山する時にまたお会いする事を約束してここで別れ、私はアイゼン装着して小仙丈ケ岳を目指す。

    樹林帯の中の登り。雪は締まっていて歩きやすかったが、かなりの急登り。

 2年前に来た時は雪が多く、しかもズル雪で足を取られまくり、とてつもなく体力消耗して6時間近くかかってようやく小仙丈ケ岳に到着した。今回はそのときに比べて雪が少なく、何よりも雪が締まっていて足が沈まず、歩きやすかった。それでも、3合目あたりからの尾根道の急登りは、夏道と違ってかなり傾斜がきつく、体力を消耗する。数日前に雪が降ったそうで、前方に大きく立ち聳える真っ白な仙丈ケ岳に圧倒されながら、雪の斜面を一歩ずつ登って行く。1時20分、北沢峠出発し、5合目3時40分、そして小仙丈ケ岳5時40分と、私としてはかなり順調なペースで予定地に到着した。小仙丈ケ岳の一段下に4人のパーティーが一張、そして小仙丈ケ岳には3人の若者のパーティーがテントを張っていた。2年前は私一人だけだったので、何かあった時には心強い。

    雪原の向こうの北岳  久しぶりの間近でのご対面。やはり格好良くて凄い山だ。


    雪の紋章と富士山

 テント設営し終えた頃に、中央アルプスの上に真っ赤な夕陽が沈んでいった。真っ白な雪原を照らす夕陽が美しく、日が沈むまで雪の上に立ち尽くして見入っていた。おそらく、今シーズン最後の雪山になるであろう。

    白い雪原と西に傾く陽  小仙丈ケ岳直下の真っ白な雪原、圧倒される景色。


    雪原を照らして沈む夕陽  左側が仙丈ケ岳山頂。

 テントに戻って夕食をとり、すっかり暗くなった午後8時、再び外に出る。冬の大三角形が仙丈ケ岳に沈んで行く時間だ。ちょうどおおいぬ座のシリウスが山頂近くに沈んで行くところだった。若干霞が出て、星空は鮮明ではなかった。次は10時。今度は北岳側、富士山の左横辺りから月が昇ってくるはずだ。テントの換気窓から外を覗くと、もう月が昇ってきていた。北岳は良く見えているが、富士山は霞の中に沈んでいた肉眼では確認できない。撮影してみると、かろうじてその姿だけは確認できる。手前の雪原を照らして昇る月が美しく、この雪原を入れながら撮影した。

    白き仙丈ケ岳と冬の大三角形  山頂に輝くのがシリウス、オリオン座は半分近く沈んでいる。


    雪原を染めて昇る月  WB日陰で赤い月を強調。


    雪原を照らして昇る月  WB白熱電球で青い月を強調。


    月光照らす仙丈ケ岳  昼間太陽の光で見るのとはまた違う、夜の女王の神秘的な美しさが漂う。


    月光照らすテント場の情景  (テント場ではありませんが・・・テント無いと凍死してしまうので。)

 ここで一端眠り、次に起きたのは3時半。風が強くてテントがバサバサと揺れ、熟睡したとは言えないがとりあえずは寝た。薄明の時間、今度は月が仙丈ケ岳に傾き出す。薄明の青い空に浮かぶ月と真っ白な小仙丈カール、これが今回描いていた絵だ。心配していた雲もなく、絶好の条件でこの絵を見ることができた。そして日の出、真っ白な小仙丈カールをピンク色に染めながら日が昇った。南アルプスの女王と呼ばれる美しいカール地形の仙丈ケ岳、圧倒される大きな山容と真っ白な雪、そしてピンク色の化粧と月のアクセサリー、言う事無しの素晴らしい情景を目にする事ができた。

    月光と南アルプスの女王  薄明の青い空と月、白いカール、描いていた絵そのまま。


    頬を染める女王と月のアクセサリー


    日の出


    朝の高峰たち


    雪屁張り出す雪原  隣にいた3人組はもう出発している。
  
 ここから山頂までは1時間半くらいで行ける。私の横にいた若者たちは農鳥岳を目指すらしく、朝6時にはもう出発していった。山頂まで行く時間は十分にあったのだが、目にした情景にもう十分満足し、この日は山頂に立ち寄らずにテント撤収し、速攻で下山した。歌宿のバスは確か10時だったはず。7時10分、下山開始。雪の斜面を早足で駆け下りるように下山する。3合目の下あたりで宮崎さんたちとすれ違い、再び軽く山談義して別れる。北沢峠8時45分到着、装備をはずして小休憩し、9時に北沢峠出発、辛い林道歩きだ。早足で歩いたが、歌宿に到着したのは10時5分、バスに乗り遅れた~、と思ったが、何故かまだバスが止まっている?? 10時は北沢峠のバス出発時間で、歌宿は10時15分発だったのだ。ラッキー! 今回は山の神様が祝福してくれたようだ。

    嗚呼、愛しき南アルプスの山たちよ!  素晴らしい景色をありがとう。山の神様に感謝。

 甲府盆地の空はもう春霞で星空が見られるような状態ではなくなってしまっている。しかし、標高2800mのところではまだ澄んだ空気できれいな星空が見られる。いつまでもこんな空が見られる環境であって欲しいと願う。
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 月光のアサヨ峰一夜  平成21年11月7日 

2009年12月25日 | 南アルプス
 平成21年11月7日 天候晴れ

 実に2か月ぶりのブログ更新となる。私のブログを熱心に見てくださっている方々、また、更新されないので心配されている方々、申し訳ありませんでした。全く山を歩いていなかったというわけではなかったが、体調不良で休んでいたのも事実。体力に似合わない大きな荷物を背負ったためか、左手にしびれが出て1ヶ月ほど静養したが、全く症状は変わらず、休んで治るものではないらしい。また、来年のカレンダーをつくったり、クリスマスイベントを企画して職場で音楽会に併せてスライドショーをやったり(画像500枚を編集して約250枚を上映した)、忙しい日々が続いていた。(本業は暇にしてます。)この記事は1ヶ月以上も前に登った、アサヨ峰1泊の記事である。
 奇しくもこの日は南アルプス林道バスが運行する今年最後の週末だった。また、故障したカメラとレンズの修理が終り、2日前に受け取ったばかりだった。この日を逃すと北沢峠は戸台口から歩かなければならなくなってしまうため、果てしなく遠い山になってしまう。また、アサヨ峰は昨年の年末に行こうとしたのだが、強風に阻まれて手前の栗沢山までしか行けなかった山である。何故この時期のアサヨ峰にこだわるのか?それはあの山頂からおそらくは北岳の左側、池山吊り尾根の上にカノープスという星が見えると予想されるからだ。どうしてもそれを自分の目で確かめてみたい。
 仙流荘10時発の北沢峠行きバスにぎりぎり間に合って、飛び乗るようにしてバスに乗り込んだ。ひと安心して久しぶりに見る戸台川の流れを楽しんでいると、異変に気付く。いつもなら首から肩にかけてぶら下げているもの、そうだ、カメラが無い!修理しなおしたばかりで車の座席に置きっぱなしにしてバスに乗ってしまったのだ。北沢峠まで行って仙流荘に戻るバスは午後1時、折り返して北沢峠行きのバスは午後3時、もうアサヨ峰まで登ることは不可能だ。北沢峠まで到着したところでバスの運転手さんに事情を話し、あきらめて帰ることを告げると、ちょうど団体客の臨時バスが北沢峠から出発するところだったらしく、無線で連絡をとってくれた。そして運良くそのバスに乗ることができ、12時半に仙流荘に戻ることができた。次の北沢峠行きバスは午後1時。2時から歩き始めれば、なんとかアサヨ峰まで到着できる。きっと山が呼んでいるのだろう。気合を入れなおしてアサヨ峰を目指す。

    仙丈ヶ岳に沈む夕陽(栗沢山から)


    夕陽射すアサヨ峰


    夕陽射す甲斐駒ケ岳

 晩秋の北沢峠は人もまばらで、テント場も数張しか張られていない。ツガ林を登っていると、後ろから中年のカップルがサブザックで登ってきてあっさりと私を追い越していった。栗沢山までピストンするらしい。自分としては急いで登っているつもりなのだが、栗沢山に到着したのは午後4時20分、北沢峠から2時間半もかかった。ちょうど仙丈ケ岳の上に夕陽が沈んで行くところだった。普通ならば急いでアサヨ峰目指すところなのだろうが・・・折角の夕暮れの景色がもったいないので、ここは三脚を出して写真を撮りながら、しばし夕暮れの景色を楽しむ。ヘッドライト装着し、午後4時45分、栗沢山を出発、途中で雷鳥に出会うことができ(この山塊で雷鳥を見たのは初めて)、岩場を慎重に越えながら、午後6時半、目指すアサヨ峰に到着した。もう真っ暗で、鳳凰山塊は見えるものの富士山は出ているのかどうか肉眼では確認できない。カメラで撮影してみると綺麗な富士山が鳳凰山の右上に浮かんでいた。

    アサヨ峰の途中で雷鳥に出会う.1羽は木の陰に隠れている.


    アサヨ峰から見る夕暮れの鳳凰山と富士山


    甲斐駒ケ岳と北天の空  甲斐駒ケ岳はちょうど北側に位置する.南には北岳がある.

 テントを張って夕食をとり、しばし和んでいると、甲府盆地の向うからオレンジ色の月が昇り始めた。今宵は十九夜の明るい月、星空を撮影するには明るすぎるが、そのかわり月光浴びる山々がきれいに写ってくれる。薄雲が時折山の上を流れて行くが、空が澄み、風も無く穏やかな夜だ。果たしてカノープスは見えるのか?昨年年末に栗沢山から撮った写真を再度良く検討した結果、栗沢山で見えたカノープスと思っていた星は実はそうではなくて、カノープスの少し上にあるオレンジ色に光る星であったことがわかった。すなわち、栗沢山からカノープスを見ることはできないのだ。しかし標高が100mほど高く、南に位置するアサヨ峰ならば、カシミールの画角からすると見えるはずなのだが・・・。東の空からオリオン座が昇って来たところで、午後9時半、シュラフにもぐり込んで一旦寝る。

    北岳と木星


    鳳凰山に昇るオリオン座  甲府盆地の明かりが明るすぎてあまり写らない.

午前2時半、テントの外に出て北岳を見ると、もうすぐ冬の大三角形が南中するところだった。そして、池山吊り尾根の上を見ると・・・微かな光、おそらくカノープスだろう。目が慣れてくると、明らかに明るい星が輝いているのが見える。間違いない、カノープスだ。予想通り、アサヨ峰から見ることができるのだ。30分ほど眺めていると、午前3時を過ぎた頃にカノープスは北岳の斜面に消えていった。

    南の空高く昇るオリオン座と冬の大三角形  すぐ上に月がある.


    天空のシリウスと池山吊尾根に昇るカノープス


    北岳とカノープス


    月光の甲斐駒ケ岳と雲に浮かぶ八ヶ岳


    薄明の鳳凰山と富士山

 甲府盆地は雲の下、霞んだ光が静かに輝く。月光に照らされた甲斐駒ケ岳が静かに立ち、その横には雲海に浮かんだ八ヶ岳がたたずむ。一人で過ごす山上の静かな夜を満喫し、やがて夜が明ける。鳳凰山の左横から朝日が昇り始める。このカットは以前から年賀状に使おうと思っていたのだが、なかなか撮れずにいた風景だ。日が昇ったのを見届けてからテント撤収、急いで下山し、北沢峠10時半のバスになんとか間に合って、無事帰宅した。

    朝焼けの北岳


    鳳凰山に昇る朝日


    朝日浴びるアサヨ峰

下山の時に岩場を降りる際、レンズの先を岩で擦ってしまった。いつもならば保護フィルター(NDフィルター)をつけているのだが、この時は修理から戻ってきたばかりだったのでうっかり付け忘れていた。あっ、と思った時にはもう遅く、レンズには1cmほどの白い傷がついてしまった。修理したばかりなのにまた修理、これもあって山をしばらく休むことになる。体の異変に気付いたのは下山して2~3日経ってからだった。槍ヶ岳に行ってきた頃からなんとなく左手がおかしい気がしていたのだが、たいして気にもしていなかった。しかし、今回は明らかに左手の指先がしびれる。1日中ではないが良くなったり悪くなったり、しかし、握力や腕力は全く問題なし。単なる神経の圧迫症状だろうと思い、しばらくザックを背負わずに休むことにした。(何となくスランプ状態で、あまり歩きたくなかったこともある。)1ヶ月休んだが症状は全く変わらず、そうしているうちにもう一つの異変が・・・血糖値がかなり高くなっていた。以前から内服治療はしていたのだが、もはや入院するかどうかという状態まで悪化、これはもう歩くしかないってことだろう。「さぼってないで登っておいでよ」山がそう呼んでいる気がする。
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大岩山から甲斐駒ケ岳へ、日向八丁尾根3日目 平成21年9月20‐22日

2009年10月03日 | 南アルプス
 9月22日(3日目) 天候曇り
 寝付きの悪い私もさすがに昨日は歩き疲れと前日の寝不足で、夜8時半にシュラフに潜り込むや否や眠りについてしまい、ふと目が覚めたのは未明2時過ぎ。テントの換気孔から空を見上げると、曇り空らしく星は全く見えない。オリオン座が昇ってきている時間なのだが、星の撮影は無理なのでもう一寝入りして3時半に起床した。テント撤収、まだ暗い未明4時に同行の2人より先に甲斐駒ケ岳山頂目指して出発だ。

    夜明け前の鋸岳  左下に小池さんたちの緑色のテントが見える.

 コースタイムでは山頂まで1時間半の行程なので、うまくすれば山頂で日の出が迎えられるかもしれない・・・という期待もあったのだが、真っ暗な道、かつ遅い足、しかも途中で三脚を出して撮影・・・などとやっていると、山頂の尾根にたどり着く前に夜が明け始め、真赤な朝焼けが始まる。歩くのを止めて刻一刻変わってゆく朝焼けの空を眺める。曇り空だが、朝の一時だけ青空が見えた。

    秋の朝焼け空


    秋の雲流れる朝

 見上げる稜線の上に大きな岩が見える。果たしてあそこまで登るのだろうか?道はトラバースしているように見えたので巻くのかと思いきや、長い鎖場が出現、しかも垂直近い急傾斜だ。真っ暗な中をこの鎖場通過は難しかったかもしれない。夜が明けてからで正解だった。稜線の上にたどり着くと、ウラシマツツジが真赤に紅葉して見頃を迎えていた。あちらこちらに三脚を立てて写真を撮っていると、後ろで呼び声が聞こえた。朝7時、小池さんと深沢さんがひとつ向うの小ピークにもう追いついてきた。7時45分、甲斐駒ケ岳山頂に到着、10分ほどして2人が山頂に到着した。小池さんはだいぶお疲れのようだったが、深沢さんは何事も無かったかのように元気だ。ガスで景色が見えなくなることもあるのだが、霞の彼方に鳳凰山の上に立つ秀麗な富士山が見えていた。朝はきっと赤い富士山が見えていたのだろう。ちょっと残念だ。

    鎖場と大岩.暗いうちに登らなくて良かった.


    ウラシマツツジの紅葉と甲斐駒ケ岳


    朝の鋸岳


    朝の仙丈ヶ岳


    北岳(左)と仙丈ヶ岳(右)

 あとは黒戸尾根を下って竹宇駒ケ岳神社まで下るだけだ。私は写真を撮りながら、足の様子を見ながらゆっくり下りることを告げ、2人には先に行ってもらう。9合目の下、鉄剣の立つ岩峰の上から見る風景はこのルートで私がお気に入りの風景だ。いつかここで甲府盆地の夜景を入れて夜明けの風景を撮りたいと思っているのだが、なかなか実現しないでいる。鳳凰山、富士山、鉄剣の岩峰が写しこめるこの画角は、多くの名作を輩出している甲斐駒ケ岳山頂の風景と並んで、秀逸な作品が撮影できる場所だと思っている。

    甲斐駒ケ岳山頂


    ガス流れる向うに鳳凰山と富士山が見える.


    鳳凰山と富士山  甲斐駒ケ岳山頂から.


    鉄剣立つ岩峰と鳳凰山,富士山


    倒壊している8合目石鳥居

 11時、7合目の小屋でラーメンを作って昼食をとり、テクテクとスローペースで黒戸尾根を下る。マツタケはないかとキョロキョロしながら歩いたが、素人の私に見つけられるようなものではないようだ。下部の横手分岐から竹宇駒ケ岳神社までの下りは足の疲れがピークに達し、とてつもなく長く感じた。午後4時半、無事に駐車場に到着した。先行した2人は午後2時15分に駐車場到着したらしい。さすがに速い。
コメント (2)
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大岩山から甲斐駒ケ岳へ、日向八丁尾根  平成21年9月20-22日

2009年09月29日 | 南アルプス
 日向八丁尾根(2日目)
 
 9月23日 天候晴れ
 前夜は大岩山の手前、駒薙の林の中にテントを張り、10時まで宴会をしてテントに入った。いつもならちょうど良い酔い加減ですぐに眠ってしまうところなのだが、翌日歩くルートの期待と不安のためか、なかなか寝付けずに夜が更けてゆく。未明3時半、今頃は甲府盆地の上に冬の大三角形が昇ってきている時間だろうが、とにかく眠らなければ、しかし写真も撮りたい・・・そういう葛藤の中で、シュラフにくるまって悶えていた。

    薄明に並ぶ三山  右から甲斐駒ケ岳、鳳凰山、富士山。空に輝くいちばん明るい星はおおいぬ座のシリウス。


    鳳凰山と富士山  今日もよい天気だ。

 朝4時半、結局眠れそうもなかったのでシュラフを片付け、駒薙にカメラを持って出かける。東の空はもう朝焼けが始まっていて、オリオン座と冬の大三角形は遥か頭上高く昇ってしまっていた。時、既に遅しだ。星空の撮影と山歩きを両立させるのはやはり容易なことではない。それにしても甲府盆地の明りは眩しいほどに明るい。風も無く穏やかな朝、水平線を赤く染めてしだいに明け行く空、何度見ても山の上の朝は美しい。6時近くまで駒薙で夜明けの風景を眺め、テントに戻る。

    朝焼けの甲斐駒ケ岳


    本日歩く日向八丁尾根。いちばん右が大岩山、左の尖っているのが烏帽子岳、尾根の向こうのギザギザしているのが鋸岳。

 小池さんと深沢さんはもう朝食を終え、テント撤収しているところだった。私もパンを食べて急いで自分のテントを撤収する。6時20分、いよいよハイライト、日向八丁尾根に向けて出発だ。一旦急斜面をコルに下りて登り返すと、40分ほどで林の中に南面(甲斐駒ケ岳側)の眺望がわずかに得られる大岩山に到着した。

    大岩山山頂


    いよいよ大岩山からの下降が始まる。降りたらもう戻って来られない。行くしかない。

 問題はその先だ。大岩山の先にある小ピークまではほぼ明瞭な道があるが、その先の切り立った斜面に道らしきものはない。いよいよ大岩山からの急下降が始まる。右手(北側)に回り込んだほうが斜面が緩くて降り易いと聞いていたので、先端から少し戻ったところで下降を始める。木は生えてはいるがほとんど崖のような急斜面だ。ザイルを木の根元にひっかけながら慎重に下る。4~5回ザイルを出し、最後の急斜面はさらに傾斜が強く、垂直懸垂下降に近い形になるため、先にザックをザイルで下ろし、空身でザイルにぶら下がりながら下りた。斜面を水平にトラバースし、日向八丁尾根の基部に到着、大岩山からの下降に1時間10分かかった。

    日向八丁尾根の取り付きから大岩山の斜面を振り返る。露出した岩の向こう側を下降したが、手前側は傾斜がきつくて厳しそうだった。向こう側で正解だったと思う。

 一休みして日向八丁尾根に取り付く。以外にも尾根には明瞭な道がついていた。ところどころテープも絡み付いている。ところどころ道は途絶え、シャクナゲやツガの若木のヤブコギを強いられるところもあるのだが、予想外に良い道だった。しかし・・・烏帽子岳まで標高差であと300mほどのあたりでハイマツが現れ始めた。道はハイマツの下に隠れてしまっているようで、背丈以上もあるハイマツを踏み分けながら進むようになる。体力を消耗し、ヘトヘトになってハイマツを越えると一旦は普通の登山道になった。しかしそれも長くは続かず、烏帽子岳手前のコブで再びヤブコギとなる。しかも今度はかなりの急斜面だ。体力も技術も劣る私は、2人よりも遥かに遅れて薮をかき分けて進む。30mほど先で「おーい」と呼ぶ声が聞こえるので、そこを目指して突き進むしかない。急斜面の途中に古い針金が2本通っている場所があり、おそらく林業作業か何かの古い道がここにあったのだろう。今はただのヤブコギ道になってしまっている。やがて展望の良い岩の上にたどり着いた。

    背丈よりも高いハイマツの薮が出現。烏帽子岳は向こうに見えるコブの先だ。


    鋸岳が目の前に迫る


    眺望の良い岩の上に飛び出す。眼下には甲斐駒ケ岳から延びる深い谷が見える。

 水平よりやや低い高さに暴れ出した雲海が広がり、彼方に八ヶ岳や奥秩父山塊が時折姿を現す。足元には深く切れ込んだ谷が見える。ずいぶんと来たものだ、と思うのはまだ早い。烏帽子岳はもう一つ上のコブを越えないと見えてこない。巻き道があると聞いていたので、水平方向に進み道を探すがそれらしいものは見つからない。結局隣の小尾根から烏帽子岳の北側斜面を直登することになってしまう。ここは背丈を越えるツガの若木がびっしりと生えていて、足元も良く見えないようなヤブコギになる。しかも見上げるような急斜面だ。左に登ろうとしたらツガの大木が横たわり越えられず、右に回りこんで越える。ほとんど体力は尽き果てた、しかし烏帽子岳の山頂はまだ見上げる遥か彼方だ。遂にここで力尽きるのか!?そんな気さえした大変な登りだった。

    烏帽子岳の巻き道・・・? ではなくてただの獣道だった。


    着いた!! 烏帽子岳山頂だ。尾根の上には明瞭な道がついていた。

 ツガのヤブコギが終わるあたりで小池さんと深沢さんが待っていてくれた。足を引っ張ってしまって申し訳ない。しかし、こっちも必死なのだ。呼吸が整うまで15分ほど休ませてもらって、再び出発、足がだいぶ疲れたが、なんとか踏ん張れそうだ。そしてようやく烏帽子岳に到着、時間は13時10分だった。日向八丁尾根の取り付きが8時半だったから、4時間40分かかって尾根を抜け出たことになる。烏帽子の尾根上には真直ぐに続く道がついており、おそらくは巻き道を探らずに尾根を直登していればこの道に出たのかもしれない。とにかくヘトヘトだ。深沢さんが差し出してくれた黒砂糖を舐める元気もないほどに息が上がってしまった。眼前に格好良い三角錐を描く甲斐駒ケ岳の絶景があるのに、三脚を立てる力が出ない。

    甲斐駒ケ岳をバックに3人で記念撮影

 10分ほど休んでようやく動けるようになってきた。改めて見上げる甲斐駒ケ岳の姿が凄い。肩のところを滝のように雲が流れ落ちて行く。三脚を立てて3人で記念撮影し、またへたりこんで座る。折角の景色だったのに休んでいるうちに甲斐駒ケ岳は雲におおわれてしまった。水分と軽食を補給して三つ頭に向って出発する。もう目の前に三つ頭が見える。ここから先は踏み跡のしっかりした道だ。いったん下ってまた緩く登り返すが、登り始めのところで登山道を横断する細い踏み跡があった。おそらくこれが見つけられなかった烏帽子岳の巻き道だったのだろう。いずれにせよ、なんとか登りつくことができた。

    六合石室  修理されてきれいな小屋になっている。


    甲斐駒ケ岳と木星  思いもよらぬ星空が出迎えてくれた。

 三つ頭を越えて、小コブをいくつか越えて6合石室に15時15分に到着した。石室はボロボロの岩小屋と思っていたのだが、修理されたようで新しい屋根がついていた。中に入ると3~4人用のテントが一張と、横たわって寝ている若者が1人いた。10人は軽く寝れそうな立派な小屋だった。ここで寝ることもできたのだが、山の中に来たのだから山が見えるところで寝たい。今は曇っているが、ひょっとしたら星空も見られるかもしれない。私は即座にテント泊りを決めて、道を戻って白砂の広場に行き、ザックを降ろして水を汲みに行く。水場は白砂のところから仙丈ケ岳側の斜面を10分ほど降りたところにある。この道は現在通行禁止になっている赤河原への道らしい。水を汲んだ後の登り返しがきつく、途中2回休んで白砂のテント場に戻ると、小池さんと深沢さんがテントを張っているところだった。小屋の中は酒を飲んで宴会するような雰囲気ではなかったようで、こちらに移動してきたのだ。小池さんたちのテントの中で本日無事に日向八丁尾根を通過できたことを祝ってビールで乾杯する。私がここまで来られたのはまさに2人のおかげである。感謝でいっぱいだ。夕食をとりながら、ビール3分の1とウィスキー1杯飲んだあたりで、昨日の寝不足と本日の疲れが一気に出てきたようで睡魔が襲ってきた。午後6時、あたりが薄暗くなってきたところで本日は早々に自分のテントに戻って寝させてもらうことにした。

    仙丈ケ岳と天の川  流星が天の川の中を流れる。


    テントと星空  空に輝くのはアルクトゥールス、山は鋸岳。


    空架ける天の川  久しぶりに見るきれいな天の川だ。

 新しい下着に着替えて寝る準備をしていると、外で小池さんが「月が出ているぞー」と呼んでいる。夕方6時半、曇っていた空はうそのように晴れ上がり、仙丈ケ岳の左裾に三日月が沈んで行くところだった。甲斐駒ケ岳の上には木星も輝き始めている。思いもよらぬご褒美が山の上で待っていた。静かに暮れ行く空、そしてしだいに光り輝いてゆく星々、久しぶりに見る済んだ星空を感動しながら見上げる。夜7時になると天の川がはっきりと見え出した。そして昨日見逃したさそり座が横たわり、仙丈ケ岳の上に沈んで行く。頭の上には夏の大三角形が輝き、それを貫くように天の川が流れ、さらに北の空にはカシオペア座、さらに北極星を挟んで北斗七星が輝いている。一晩中見ていても飽きない空なのだが、さすがに疲れたので、さそり座が沈む8時まで空を眺め、テントに戻って寝た。
明日は甲斐駒ケ岳に登り、黒戸尾根を歩いて竹宇駒ケ岳神社の駐車場に戻るだけだ。長いルートだが時間は十分にある。横になったと思ったらあっという間に眠りについてしまった。
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