第二次世界大戦で日本が負けた時、「国破れて山河あり、城春にして草木深し」という言葉を何度も聞きました。まだ少年だった私の心に焼き付いています。
今回の大地震・大津波、そして福島原発の爆発の後で、何故か敗戦の頃の日本を思い出しました。そして、「国破れて山河あり、城春にして草木深し」という言葉を何度も口ずさんでいます。敗戦と大震災が私にとって同じような感じがするのです。
この漢詩は、唐の長安が、安禄山の反乱で荒廃したありさまを見て杜甫が嘆いて作った詩です。
第二次大戦後にこの漢詩が多くの日本人の共感を得て、何度も読まれたのです。新聞が取り上げるし、学校ではこの漢詩を教えられたのです。
敗戦で打ちひしがれた人々を鼓舞したのです。アメリカ軍の徹底的な空襲で全国の都市が焼きつくされたのです。しかし山や河のような自然はそのまま残っているではないか!復興に努力し、この国をもう一度蘇らせよう!そのように国民を勇気づけたのです。私もこの漢詩に勇気づけられました。
そのように今回の大災害でも、日本の復興のために努力したいと思います。この詩は元来、大震災後の日本の復興を応援する意味など無いのです。しかし何故か勇気づけられます。
玄宗皇帝のころの華やかな長安が荒れて見る影もない。自身も年をとり衰えてしまった。その運命の暗転を見て嘆き、その気持ちを美しい詩としたのです。一個の芸術的な作品です。
「国破れて山河あり」という冒頭の言葉に戦後の日本人は共感し、この詩の美しさに慰められたことは事実です。慰められて、少し落ち着いて、今後の国のあり方を考えた人は多かったと思います。そしておもむろに立ち上がったのです。
中国大陸や南洋の島々で終戦を迎えた日本兵にとってこの漢詩は深い印象を与えたのです。やっとの思いで復員船に乗って故国の山を海の上から見たときの喜びの気持ちを表しています。国が破れてもあの緑豊かな山々は出征する前のままあるのです。自分達を温かく迎えてくれたのです。
「国破れて山河あり、城春にして草木深し」はそれ以来、私が不運や不幸に見舞われた時の、人生のキーワードになりました。
今回、大津波は街々を洗い流してしまいました。家族を失った人も多いのです。漁港も街もガレキで酷い状態です。
しかし目を遠方の山々に転ずると、以前と変わらぬ美しい山並みが碧く輝いています。なぜかホッとして復興への勇気が湧いてきます。
そんな事を想起させる漢詩です。東日本の一日でも早い復興をお祈りしています。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。
後藤和弘(藤山杜人)
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春 望 (五言律詩。長安の賊中にあって、春の眺めを述べる。)
国破山河在 国破れて山河在り
城春草木深 城春にして草木深し
感時花濺涙 時に感じては花にも涙を濺ぎ
恨別鳥驚心 別れを恨んでは鳥にも心を驚かす
烽火連三月 烽火 三月に連なり
家書抵万金 家書 万金に抵る
白頭掻更短 白頭 掻けば更に短く
渾欲不勝簪 渾て簪に勝えざらんと欲す