「私たちは、古くから知られている「人違い」の話から、創作を始めました。
この話は、1833年にロシアで浮き彫りになり、瞬く間に広まった逸話が元になっています。現在では、おそらく本当の話であろうと考えられています。」(公演パンフレットより)
起点となる「言葉」は、ゴーゴリの「検察官」のテクストが基となっている(だが、原作のRevizorは、正体を隠して抜き打ちで行政の査察を行う中央政府の官僚のことを指しているので、「検察官」(刑事訴追の権限を持つ)は誤訳と思われる。正しくは「監察官」だろう。)。
まず、クリスタル・パイトとジョナソン・ヤングは、この原題を、”Revisor”(校正者、改訂者)に”改訂"(むしろ改変?)した。
その上で、ジョナサン・ヤングは、慎重に彫琢されたテクストを完成させたのである。
このテクストは、振付のための原石のようなものである。
前半:「茶番劇」のパートには、偽の「検察官」(Revizor)が登場するが、彼は、「校正者(改訂者)」(Revisor)でもある。
政治腐敗のはびこるロシアの小都市を訪れた通りすがりの男が、査察に来た中央政府の高官と間違えられ、「検察官」に成りすます。
それだけでなく、彼は、”成りすまし”の一環として、小都市の長官に対し、こう告げる。
「小区分(7)内のカンマが一つ ずれていた・・・
・・・そういう訳で 私が派遣された
一つ左のスペースにずらせと・・・
・・・カンマを というかもう動かした
仕事は終わり」(Kidd Pivot | Revisor | Marquee TV:1分58秒付近~)
これを聞いた長官は、精神が壊れたかのように、みずからの悪事を次々と自白する。
”検察官”(Revizor)による、カンマの位置を一つ動かすという”改訂”(
Revise)が、この小都市の腐敗した人間たちの現実を崩壊させたのである。