Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

身を引く?

2024年12月19日 06時30分00秒 | Weblog
  • 指揮:ジョナサン・ノット(東京交響楽団 音楽監督)
  • 演出監修:サー・トーマス・アレン
  • 元帥夫人:ミア・パーション
  • オクタヴィアン:カトリオーナ・モリソン
  • ゾフィー:エルザ・ブノワ
  • オックス男爵:アルベルト・ペーゼンドルファー
  • ファーニナル:マルクス・アイヒェ
 ジョナサン・ノットが指揮するオペラはハズレがない印象だし、ウィーンフィル+バイエルン放送響とセットで買うと割安になるので、反射的にチケットを買った。
 期待したとおり、海外から招いた歌手陣の声量と表現力が素晴らしい。
 まず、ミアー・パーションの
 「時とは ふしぎなもの
で始まる1幕後半の元帥夫人の独唱が心に沁みる。
 彼女一人だけが高い山の頂きにいるようで、歌手のヴィジュアルとも相まって、「女神の孤独」という言葉が自然に浮かんでくるのである。
 もっとも、元帥夫人は、この時点では自分が神(女神)のレベルに達していることには気付いていないようなのだが・・・。
 ちょっと勿体なかったのは1幕ラストの演出である。
 私見では、今まで観た中でベストの演出は、新国立劇場のジョナサン・ミラーの演出(リヒャルト・シュトラウスばらの騎士)である。
 一人部屋に取り残された元帥夫人は、大きな鏡の前に立ち、煙草を吸いながら、もう若くはない自分の姿をまじまじと見つめる(この間、オーケストラは休止)。
 この演出は、どうやら中高年の男性から絶大な支持を得ているらしい(伝聞)。
 2幕の主役はオックス男爵となるが、アルベルト・ぺーセンドルファーの歌と演技が素晴らしい。
 2メートル以上はあろうかという巨漢で腹も出ている彼は、立ち上がったクマのようである。
 さて、このオペラのピークは、3幕ラストの三重唱である。
 解説本ではよく「三角関係を回避すべく、若い二人のために身を引く元帥夫人」などと説明されている。
 だが、台本を読む限り、そのような解釈は正しくないと思う。
 ”Geh' Er doch schnell und tu Er was Sein Herz Ihm sagt.
(早く行きなさい、あなたの心のままに)
とあるとおり、元帥夫人はオクタヴィアンの自由を尊重しただけで、「身を引いた」わけではないのだ。
 そして彼女は、当時の習慣にならって「愛のない結婚」を余儀なくされた自分とは違う道を、オクタヴィアンとゾフィーに歩んでほしいと願ったのである。
 これこそが、「正しいやり方で」愛することなのであり、ここにおいて元帥夫人は神(女神)のレベルに達したと思う。
 この三重唱は、R.シュトラウスの葬儀でも演奏されたというが、それは当然のことだろう。
 彼の最高傑作なのだから。
 


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