「ダンテ・アリギエーリの『神曲』の煉獄篇・第五歌に歌われたピーアの物語。マレンマのラ・ピエトラ城の城主ネッロの妻ピーアに横恋慕するいとこのギーノは、ピーアに拒まれた仕返しに、彼女が不実を働いているとネッロに告発する。じつは、対立するグエルフィ党に属し囚われていた弟のロドリーゴを、ピーアは助けて逃がしたのだった。男のことを問われても口を閉ざすピーアを、ネッロは牢に閉じ込め殺すよう指示する。ギーノは自分の愛に屈すれば救うとピーアに迫るが、貞節なピーアは彼を拒絶する。グエルフィ党との闘いで深手を負ったギーノが、死の間際にピーアの無実を打ち明ける。毒殺を命じてしまったネッロは、必死にピーアのもとへと走るが空しく息絶える。」
先日の二期会公演「連隊の娘」(語りと歌)とセットとなるドニゼッティの悲劇オペラで、こちらは藤原歌劇団の主催である。
上に引用したのは良くできた要約で感心するが、要するに「悲劇のヒロイン」が3人の男から心身ともに傷つけられるが、最後は「愛」と「赦し」によって天国へと旅立つストーリーである。
どの作品もそうなのだが、私はドニゼッティと言う人物(及び台本作家のサルヴァトーレ・カンマラーノ)、更には主人公であるピーアの精神的な健全さ・高潔さに感嘆せざるを得ない。
そのおかげで、「連隊の娘」とは全く違う悲劇的な結末だが、終演後、ある種の”浄福感”に浸ることが出来たのである。
もちろん、これは、ピーア役の迫田美帆さんを始めとする歌い手の皆さんの熱演があったからなのではあるが。
ところで、この物語の原典はダンテの「神曲」とされているが、その中にあるピーアに関する記述は、「煉獄編」第5歌末尾の以下のくだりのみである。
「思い出して下さいませ、ピーアでございます。
シエーナで生まれました私をマレンマが死なせました。
そのわけは私にまず珠の指環を贈って
私を娶った男が存じているのでございます」(p76)
ちなみに、次の第6歌は全く違う場面に移るので、実質この4行を基にして、ドニゼッティ&カンマラーノは、2時間超のオペラを創り上げたのである。
何という想像力・創造力!