森嶋先生の主張に戻ると、「没落」の帰結として先生がもっとも懸念していたものは、「失業」だった。
「こういう倫理的混乱がもたらす、一番深刻な問題は失業問題であるだろう。それは目下第一級の大問題の取り扱いを受けていないが、近い将来に日本の最大の問題となるであろうと思われる。そして日本が今までの繁栄から転げ落ちるのも、現在の見かけではそれほど大きくない失業が、やがて雪ダルマのように拡大するからである。・・・日本は労働市場をつくっていくことから始めねばならないが、そのためにはいわゆる日本型雇用システムを改修ないし破壊することをしなければならない。」(前掲p65)
失業問題の対策---「ただ一つの救済策」---として、先生は、「東北アジア共同体」の創出を提案した。
中国、韓国、北朝鮮、台湾、そして日本で「共同体政府」をつくり、かつてのEUのように、まず資源開発をし、それをコントロールして有効利用をし、産業を建設するというものである。
産業建設の中心は、やはり資源を豊富に有している中国、次いで朝鮮半島ということになる。
「共同体政府の下で建設プログラムを立て、日本は資本と技術を提供すれば、仕事は大量に創造され、雇用はどんどん増える。もちろん朝鮮半島にも建設候補地はあるだろう。多くの人は北朝鮮は加入しないというかもしれないが、中国と韓国と日本が説得すれば、早晩は必ず加入する。」(前掲p154)
だが、先生の「救済策」は、少なくとも、近い将来実現出来そうにない。
残念ながら、現時点において、「救済策」は採用出来ないというほかない。
「民族国家は解体し、『広域共同体』となる」という先生の見立てが、東北アジアでは必ずしも妥当しないというのが根本的な問題であることは明らかだろう。
もっとも、他方において、日本が「失業問題」を別の安易な「救済策」に依存してしまったことも、(その時点では既に亡くなっていた)先生にとっては予想外だったと思われる。
すなわち、日本は、「失業問題」を、「少子高齢化」に加え「雇用の非正規化」及び「フリーランス化」によって、表見上乗り越えてしまったのである。
要するに、この20~30年間で、「簡単に首が切れる(又は関係を断てる)、しかも安上がりな労働力の担い手」という、新たな階層(社内と社外)を創り上げてしまったのである。
「非正規雇用労働者は、正規雇用労働者に比べ、賃金が低いという課題があります。」
「ランサーズ株式会社は11月12日、「新・フリーランス実態調査 2021-2022年版」を発表した。2021年10月時点でフリーランス人口は約1577万人、経済規模は約23.8兆円であることが分かった。調査を開始した2015年と比較すると、フリーランス人口が約640万人、経済規模が約9.2兆円増加している。推移を見ると、2020年に一旦減少したものの、2021年1月に人口・経済規模がいずれも大きく増加。「コロナ禍でフリーランス市場は大きく拡大したことが分かる」(ランサーズ)としている。」
「非正規化」と同時並行して、かつて正社員であった人たちが「業務委託」などによって“社外化”される動き(生保業界(勧誘員)などは顕著だし、弁護士業界(ノキ弁、タク弁)も例外ではない)が進んできたが、これにコロナ禍が拍車をかけた形である。
なので、次期経団連会長(経団連 十倉会長の後任 日本生命の筒井会長が内定)であれば、「『東北アジア共同体』なんかに頼らなくてもOK!」と言うのかもしれない。