デザインも決まり、後は画像データの最終調整と後書きなどの、本文以外の文章の修正を残すのみとなった。朝から細かい部分の修正を繰り返す。画像総数74カット。先日の打ち合わせで、その3週間前は硬直した表情だった編集者も、良い本になったと笑う。「誰が買うかは別として」。余計なセリフを後ろにつけないでよろしい。 1冊目の『乱歩 夜の夢こそまこと』2005年(パロル社)を入稿した日、帰りに街行く女性が急に奇麗にみえたのを覚えている。『昼過ぎ外に出ると、ここ数ヶ月、街行く人が流木や石ころに見えていたのが一変している。特に女性が輝いている。昔4キロ四方、誰も住んでいない廃村で、男三人で焼き物をやっていた頃、たまに東京に帰って来た時の状態にそっくりである。』集中していたせいであろう。今回はというと、この夏、まだ扇風機のみで冷房を入れたことがない。火もまた涼し、といわないまでも、確かに制作中はどうということもなく、気がついたら背中に太陽の直射光があたっていたことさえある。 乱歩本の編集作業も佳境に入っていた頃の話である。『大江戸線で門前仲町から雨の中帰るが、門前仲町の交差点を渡ると、前を行く若い女性が傘もささず、慌てる様子もなく歩いている。ビニール傘の私は半分濡れているのに、何故か濡れていない。そんな素材の服なのかと思うが、一滴も濡れている様子がない。1メートル数十センチまで近付いたが、筆先のように束ねた髪が、雨が滴りもせず乾いている・・・。まあこんな事もあるさ。私は角をまがって家に向かった。』と書くのは、昨日チューハイグラスの幻覚を見た私である。
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