人形制作者の私が作るのであるから、様々な風景、人物によって構成された本であっても、最終的には主役である河童の三郎の表情が肝心で、三郎がこんな顔になるのは、こういう物語があったからだ、となるべきであろう。 そのつもりであったが、数週間前には河童があまり登場しておらず、このペースでは今年中の良いタイミングでの出版は無理かも、という編集者の表情であった。ところが私としては素材をすべて並べ、あとは料理してかぶりつくだけ、という最も美味しい日々が始まるつもりでいた。今考えれば、いくら私の頭の中にイメージがあり、それを期日までに頭の中から確実に取り出せる自信があっても、編集者には完成作を見せなければ伝わるわけがない。隙間だらけの原稿を見て嘆息するのも今は判るが、その時は私とは関係ない、何か社内的問題でも起きたのか、と勘違いしたくらいである。財布には間違いなく現金があるから大丈夫。といっている私と現金を見なけりゃ安心できない。という編集者。そんな感じだったろう。 そこから幸福な2週間が始まる。河童を空に飛ばしたり土下座させて泣かせたり、ハナを垂らさせたりハエをとまらせたり、念願だった柳田國男との共演シーンも一気に制作した。私にはこれ以上の快楽は考えられない。そしていよいよ完成が近づいている。 “及ばざるくらいなら過ぎたるほうが絶対マシ。というやり過ぎ傾向にある私は、編集者の客観性を信頼してきたが、おかげで表紙はこれだろう。と最後の最後に残しておいて制作した作品がボツになり、裏表紙のつもりで作った作品が表紙になってしまった。えっそっち?しかし頭の切り替えは早い。こんなカットが入らないほどの出来なのだ、と今は納得している。ホント。でも、あともう一回くらいいわせて! ※ボツカット近日公開予定。
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