しばらく前からパソコンのモニターの裏、きまって左側からだが、昼間一、二度小さな蜘蛛があらわれる。蜘蛛の巣を張らない家蜘蛛であろう。モニターの上にくると、マウスのカーソルで遊んでみるが、思ったほどには動じてくれない。始めて気がついた時、たまたまごく小さな虫を捕らえようとしており、それが空振りに終わった瞬間を見てしまった。アレ?と思ったのが判った気がして可笑しかった。今回、できるだけ鏡花が書くような風景や、イメージにあった室内を、今まで撮影した様々な物を合成して作ってみたが、ふらっと旅に出て、たまたま撮影したように見えなくてはならず、そこに苦労が滲みでてしまっては台無しであろう。寝床を寝づらくしてまで制作した、そんな私を知っているのは、白い雲ならぬこの黒い蜘蛛というわけである。いよいよ今月一杯ですべて仕上げることになり、後書きの字数も聞いた。 現代の感覚からいうと、鏡花の表現は判りにくい場合があり、人の向きを間違えたり、見当違いな風景を作ってしまったり、私も随分手こずった。よって鏡花本には脚注が不可欠である。しかしビジュアル化するにあたり、できるだけ見れば判る形にしたかった。よって今回脚注はない。
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