毎日金魚を眺めていると、連中が餌以外のことには無関心なことが判る。私の今の関心事は、私が餌のパッケージを持っているのといないのと、連中が認識しているのか、ということで、水槽の前で餌を持って“赤上げて、白下げないで赤下げない”なんてやっている。 こんなあてにならない連中よりも、昨日落札した豊干と虎の図こそが私を見守り後押ししてくれるだろう。しかし届くまでは安心出来ない。以前明治時代の歌舞伎役者の書を落札した時、出品者から連絡が着た。「品物はすべて別棟の倉庫にしまっているのだが、いくら捜しても見当たらない。ハクビシンの仕業かもしれない」。言い訳にしてもふざけた話しだが、ハクビシンに免じて忘れることにした。 豊干と虎図の作者、藤本鉄石は諸藩の追っ手に追い詰められながらも脱出に成功したが、逃げることを潔しとせず、門弟一人と共に引き返し紀州藩本陣に突撃、討ち死にした。昨日の繰り返しになるが、その壮烈な最後に引き替え、虎の脳天気な表情はどうだ。近所のノラ猫でさえもっとシャープである。人間一人の奥深さを想うのであった。
