台風が来る度に空を見上げる。
足早に空を駆ける雲は 一つ一つの固まりみたいな、いわゆるアンパン雲というか、綿菓子雲というか・・・
ある空からやってきて、そのまま反対側の空へ移動していく間に雲達は様々な姿へと変化する。
そして、そのすぐ後には崩れ、再び何かの姿となって消えていく。
公園で遊び尽くした僕たちが、地面に寝転んで見た空。
そこは、自然の芸術が織りなす”一代スペクタクル”を見られる場所でもあったし、舞台でもあった。
みんなそれぞれに想像を膨らまし、 「あ!ライオンだ!」。「キノコだ!」、「ウサギだ!」
それぞれがどの方向にある雲なのかを指さしつつ、空を仰ぎ見た。
楽しい時間はあっという間に流れ、太陽が山にかかるころ、天空一面に展開されていたショーは、いよいよファイナルを迎える。
白い雲はオレンジや赤い光を受け、その表情はいっそう深みを増し、奥行きをいっそう際だたせる。
いつの間にやらみんな黙り込み、その美しさに飲み込まていく。
一番星が優しく輝き始める頃、その一大舞台はあっけなくエンディングを迎える事になる、必ず聞こえてくる言葉と共に・・・
それは、1人1人の名に必ず接続され、胸を締め付けられるように聞こえてくる優しい響き、 「夕飯よ~!」という母親の言葉。
その時には、何でもなかった普通の言葉なのに、今思い出している僕の頭に残るのは
そうした思いだ、それは単に輝くだけでなくて、涙すら強烈に誘う。
とても幸せな言葉に、 「僕たちは包まれていたのだ」と・・・・・、あの日と同じ空を見上げつつ僕は思う。