季節の赤ちゃん
透か空かで、茶色だった・・・・・
それが一面のピンクに覆われ、命を感じ取る喜びを花びらの吹雪で表現していたかと思えば静かになり、
今はこうして、朝の光を浴びて、赤く映し出されている。
「もう そろそろかな・・・・」そう思いながらバイクを寄せて、そっとエンジンを切る。
とたんに聞こえてくるのは、無限に広がっていく元気な産声達。
胸元まで伸びているその枝先には 思ったとおりの美しい季節が咲き、新鮮な大気を目一杯吸い込みつつ、大きな声で泣いている。
季節の赤ちゃん、 そう僕が呼ぶそれは、弱々しく、柔らかくて、小さくて・・・・
暖めてみようかな!? もしかすると泣き止むかな!? 少しだけ悪戯心を指先に絡ませつつ、もう片方の手のひらと供に軽く包み込んでみる。
そして瞼を閉じて木と一つになってみるなら、 産声は小鳥たちの囀りへと変化し、じっとして過ごしている割には、案外退屈していないんだな・・・・と悟る・・・・
赤ちゃんを手のひらから解放すると、もう一度木を見上げ、それからヘルメットを被り、エンジンに火を入れる。
クラッチを握り、 スロットルを開けて走り出した瞬間、 「歩む事が出来るあなたは、とても幸せなのよ!」 という声が響き、驚いた僕はブレーキをかけて後を振り返る。
春の温もりですっかり優しくなった風が、さっきの枝をほんの少しだけ揺らしていた。
「ありがとう!」 そう一言だけつぶやくと、すっかり暖かくなった心を抱えながら、霧がうっすらとかかる街へ踊り出した。
詩 By 翔