金曜日朝(07.6.14)のTBS「朝ズバッ!」の年金記録消失問題コーナーの中で、1992年に社保庁長官と労組が交わし、05年に廃止した社保庁職員の職務に関わる「確認事項」の、これといったところを伝えていた。
それによると、
①窓口装置の連続操作時間は50分以内とし、操作時間50分ご
とに15分の操作しない時間を設ける。
②窓口装置の1人1回の操作時間は平均200分以内とし、最高
は300分以内とする。
③窓口装置の1人1日のキータッチは最高5000タッチ以内と
し、最高1万タッチ以内とする。
④国民年金過年度(過去の会計年度)保険料の催告状発行は
未納者の3分の2を対象とする。
⑤端末機の設置面積は1台当たり、5㎡以上とし、事務室の
面積は職員1人当り4㎡以上確保する。
⑥部屋は冬は18℃以上とし、夏は18℃以下と市、外気温との
差は~(後は不明)。
⑦人事院規則に定める一般健康診断の他、機械を操作する事
務員を対象とした次の特別健康診
断を実施し、経費を十分配慮する。
「催告状の発行」は元々収入の少ない人間に発行するのだから、全員が催告に応じるわけではないということから、無駄を最初から少なくしておこうとの意図からだろう。頭のいい合理的なやり方である。横着なやり方とも言う。
一言で言えば、「殿様待遇を致します」と認める「確認事項」の取り交わしとなっている。この覚書(「確認事項」)は番組の女性解説者が「『確認事項』については組合が一方的に要求したのではなく、社会保険庁幹部と協議の上でつくったものと反論」と言っている。
事実、テレビが映し出した覚書の最後に<全国自治団体労働組合国費評議会 事務局長>と<社会保険庁長官官房総務部長>の肩書きが記されていた。「反論」に反して組合側が一方的に要求した項目であったとしても、<社会保険庁長官官房総務部長>の肩書きが記されている以上、それを許可したことの証明であって、上の指示に違反する勝手な振舞いではなく、あくまでも許可を受け、公に認められた職務事項ということになる。
なぜ社会保険庁上層部はそのような〝殿様待遇〟を認めなければならなかったのか。
認めるには認める側に認めるについての何らかの状況を抱えているものである。金に困った人間が最初に借金を申し込むのは親・兄弟なのは一般的な傾向であろう。親・兄弟の側には親・兄弟としての情を抱えていて、なかなか断りにくい状況にあるから、それを狙って借金を申し込む。うまくいけば赤の他人から借金するのではないから、親・兄弟の情に恃んで返済しないで済ませる可能性も期待できる。
親・兄弟がダメなら、以前金を貸してやったり、何らかの援助を与えた人間に借金を申し込む。相手が一度恩を受けている、世話になっている、厭であっても借金を認めざるを得ない状況にある人間を狙う。
このような認めるについての何らかの状況は否応もなしに一種の〝弱味〟として働く。
こういった人間関係の法則を当てはめるとしたら、社保庁職員の〝殿様待遇〟の要求に対して社保庁上層部側が抱えている認めるざるを得ない状況、拒絶できない状況とは、相手の〝殿様待遇〟要求に相互対応し合い、それを上まわる何らかの〝殿様待遇〟を上層部側が自らのものとしている、それが〝弱味〟となって、相手の要求を引き込まざるを得ない力が働いたということを示すのではないだろうか。
社保庁上層部が職員側の要求する〝殿様待遇〟を下回る〝殿様待遇〟状況にあったなら、許すはずはない。上に位置する者として、同等かそれ以下の〝殿様待遇〟に抑えただろう。〝殿様待遇〟にしても、下の者としての分を弁えなければならないからである。
社会保険庁上層部が自らのものとしている第一番の〝殿様待遇〟とは、上層部の特別待遇であろうし、それ以外に第一番に上げる項目はないはずである。
それは社会保険庁長官自身の待遇に現われている。この番組の中でも伝えていたが、「歴代社保庁長官7人の退職金の総額はおよそ9億円にのぼる」と。1人頭1億円を超える大金となっている。
厚生労働省、その他を退職するとき大枚の退職金を手に入れ、社保庁に天下ってきて、1年か2年勤めただけで1億円以上の退職金を自分のものとすることができる。1年か2年の勤務ではたいした仕事はできるはずはなく、仕事は直属の部下に任せ、結果としての仕事の量の少なさと仕事の質の低さに比較にならない1億を超える退職金とそれに決して低くないであろう月々の給与が保証される。これ程の〝殿様待遇〟が他にあるだろうか。
長官以下の幹部の待遇は長官に準じているはずである。準じていなければ、誰が言うことを聞くだろうか。テメエだけいい思いをしてと、陰で足を引っ張る反乱を起こされるのがオチだろう。
〝殿様待遇〟のテメエだけいい思いの都合悪さがその配分を認めざるを得ない状況、〝弱味〟を誘い出し、それが長官の待遇に準じる上層部の待遇となり、一般職員の「確認事項」で取り交わした職務待遇ということだろう。
1年か2年勤めて1人頭1億円を超える退職金で表現されることとなる社保庁長官の天下りのいい思い、〝殿様待遇〟から比べたら、一般職員の1人1日のキータッチは最高5000タッチ以内、最高1万タッチ以内などはかわいい内に入る〝殿様待遇〟と言える。
尤、こういった勤務待遇のみが一般職員の〝殿様待遇〟、いい思いではない。所管団体での出来事ではあるが、01年度から05年度に交付金や委託費を計1775万円も不正使用して、職員の親睦旅行会や忘年会に転用していた事実は社保庁本体を引き継ぐ所管団体の〝殿様待遇〟であり、いい思いであったろう。いわば〝殿様待遇〟、いい思いが社保庁本体のみならず、所管団体にまで同じ色に染められていたと言うことでもあろう。
不正使用金は全額返還しているが、そういったいい思いの返上、〝殿様待遇〟の一時的停滞、あるいは一時的障害は本体の〝殿様待遇〟、いい思いとの比較で割を食うこととなり、返済が個人返済ではなく、所管団体立替えということもある。
一頃問題となった社保庁の年金不正免除も、仕事を楽にして〝殿様待遇〟をより確かなものとする手段としてあったものだろう。
04年には年金や健康保険の保険料6070万円を財源として職員用にマッサージ器を購入していた事実が露見している(04.7.9『朝日』長官≪社保庁マッサージ器購入 保険料財源6070万円≫。同じ記事の中に、<年金改革をめぐる国会審議などで、長官の交際費や公用車の購入、職員専用ゴルフ場のクラブやボール購入などに保険料が使われていたことが次々と明らかになり、「事務費の範囲を超えた無駄遣い」と非難を浴びた。>と出ている。
〝殿様待遇〟が長官以下、全員に行き渡っていたことを記事は示している。
さらに04年7月26日の『朝日』朝刊は、≪社保庁元職員の関連2社 随意契約 6年計38億円≫なる〝殿様待遇〟の大盤振舞いを伝えている。これも自らの〝殿様待遇〟に対応した〝殿様待遇〟提供であろう。その証拠が課長が高額随意契約の見返りに数十万円の収賄を受けて逮捕されたという事実である。〝殿様待遇〟の見返りあっての〝殿様待遇〟の提供ということだろう。
冒頭部分を引用すると、<年金の掛け金がまた、ドブに捨てられていた。社会保険庁が長年にわたって、元職員が務めるニチネン企画(本社・東京都港区)から市販の約7倍の価格で金融機関のデータを購入していた。夫が社長を務める関連企業も合わせた随意契約額は、6年間で総額38億円。ざっと6千人分の老齢年金の年間支給額にあたる。>
この件に絡み、社保庁の課長が数10万円のワイロを受け取った。<市販の約7倍の価格で金融機関のデータを購入>する<6年計38億円>の随意契約を通した〝殿様待遇〟に対する<数10万円>のワイロ提供では割の合わない自身への〝殿様待遇〟であり、果して<数10万円>で収まっていたかどうかである。また一人課長のみが見返りの〝殿様待遇〟を受けていたかどうかである。
社保庁長官の〝殿様待遇〟、いい思いに多分端を発したに違いない幹部職員の〝殿様待遇〟、それを引き継いだ、あるいは倣った一般職員の〝殿様待遇〟はまさに諺で言うところの、「上のなすところ、下これに倣う」であろう。
英語の諺に変えると、「Like Master,like man.(似た主人に似た下僕)」となると『ことわざ故事・金言小事典』(福音館書店)に出ている。1959年版、48年前に購入した本だが、生涯貧乏人の身で、小事典しか買えなかった。定価100円。歴代社保庁長官の1億を超える退職金は夢のまたの夢のカネである。
社保庁職員の勤務実態を自民党は労働組合悪者説で批判の攻撃を向けているが、「上のなすところ、下これに倣う」、あるいは「Like Master,like man.(似た主人に似た下僕)」の現象だとしたら、組合だけを悪者とするのは魔女狩りと堕す。
参考に番組が伝えた社保庁関係の労働組合書記長の弁解の言葉を引用しておく。
全日本自治団体労組・金田文夫書記長「今の5千万円の問題とですね、その問題(「確認事項」の問題)が何か直結してお話されてますけど、それは少し問題は違うんじゃないでしょうかねと――」(言いたい、とか、反論したいと続けたかったのか?)
フリップでは次のように文字化されている。「みなさんから税金のように頂く。それをしっかり管理して給付につなげるという基本認識に不十分さがあった」
「覚書(確認事項)があったから、仕事ができていないという事は全くない」
全国社会保険職員組合・芳賀直行書記長「操作時間ですとか、タッチ数っていうところが非常識であるというようなご指摘もありますけれども、決してそうじゃない、ということはご理解頂きたい」
フリップ「届け主義に依拠・安住し、統合記録に関しても不十分であった」
不正・怠惰な不作為を指摘されて言い逃れの弁解に終始するときの政治家の言葉と何とそっくりなことか。〝殿様待遇〟から生じた狡猾な体質は政治家の狡猾さとも合い通じあうこととなっているようである。いわば官僚・職員共々、政治家とも同じ穴のムジナと化しているといったところか。