死人に口なしを疑う
馬込容疑者が銃を所持していることに不安を感じた近隣の住民が交番に銃を取り上げるように一昨年の05年4月に申し出た。その経緯を昨19日(07年12月)朝のTBS、「みのもんたの朝ズバッ」で次のように報じていた。
馬込容疑者の近隣の住民が、「夜中の2時ごろ来て、トイレを貸してくださいと言った」、「私たちが家のどこに寝ているか分かっているよ、と言われた」。別のテレビでは「迷彩服を着て銃を持って通りを歩いていた」といったことも報じている。
そして「警察にね、どうしてね、銃を持たせたかって」、近くの交番に抗議した。この情報は交番の警察官によって佐世保警察署に報告されたと言う。対する「佐世保警察署・生活安全課・警部補の報告書」
「馬込にあたっては銃の一斉検査、更新時の調査に於いては医師の診断書に『問題ない』旨の記載あり、また言動にあっても現在は問題ない状況にある。緊急に銃を取り上げたりする根拠もない。銃器を取り上げることはできない状況である」
だが、その一方で銃を発射不可能にする目的の「先台」を預けることを警察は馬込に要請している。
この部分を「朝ズバッ」では次のように報じている。
佐世保警察署の記者会見での質疑(Q&A)をクリップで説明。
Q「『先台』を保管したいと申し出たことについて馬込容疑者は」
A「一応『分かりました』と返事した』
Q「その後『先台』は?」
A「預かったと言う記録はない」
Q「預けていなかったあとの警察の対応は」
A「このあと、『先台』の提出は要請していない。任意な行為で強制力は
ない。法の遵守事項ではない」
警察が電話で「先台」を保管すると申し出たのに対して馬込容疑者は「分かりました」と受諾したが、実際には預けなかった。警察もそれ以上の対応は求めなかった。
先台に関しての経緯は各新聞のインターネット記事も同様の内容となっている。
四つの疑問が生じる。一つ目は、「銃器を取り上げることはできない状況である」としながら、その一方で発射不可能にすることになるのだから、「銃器を取り上げる」に準じる「先台」の保管を申し出たことに飛躍があることである。自動車免許証を取り上げるに至る交通違反を起こしていないが、所有している車を保管しますと申し出るような矛盾がそこにある。
二つ目の疑問は、「先台」を保管したいと申し出たについての理由をどう述べたかである。どのインターネット記事もその点について触れていないし、「朝ズバッ」のインタビューでも問い質していない。
18日の佐世保署内での記者会見。
記者「対応された警察官が馬込容疑者に当時先台を警察が保管したいと申
し出たというような事実はありますか?」
警察「それは事実です、ハイ」
記者「で、その申し出について馬込容疑者はどのような対応をされ、した
んでしょうか?」
警察「一応分かりましたとは返事はしております」(同「朝ズバッ」)の
みである。
理由もつけずに「先台を署に保管したい」と申し出た、馬込は「分かりました」と承諾したでは会話の体裁を成さないし、不自然に過ぎる。警察が理由を述べなかったら、馬込は「なぜですか?」と理由を問い質すだろうし、それに対して警察は理由を述べなければならなくなる。いずれにしても「理由」は必要となる。
当然その理由は銃そのものを所持禁止にする程ではないが、発射不可能にすることを納得させるに足る銃所持不適格性を告げる内容であったはずである。まさか先台をつけていたら暴発する危険があるからといった理由ではあるまい。だとしたら、すべての銃のすべての先台を預からなければならなくなる。
その内容によっては、提出を受けないまま放置したことが適切であったかどうかが判断できる。「任意な行為で強制力はない。法の遵守事項ではない」との説明が正当性を得るためには、先台を預かるについての〝理由〟(=不適格性)が殆ど問題にする程の内容ではない場合に限る。
もし実際に問題にする程の内容でなかったなら、なぜ馬込容疑者は「分かりました」と簡単に承諾したかの疑問が新たに生じる。逆に「なぜそんな理由で先台を警察に預けなければならないのですか」と問い返したはずである。「分かりました」と承諾したというなら、銃所持禁止に準ずる銃所持不適格性を理由としていなければならない上に本人が納得する説得性を持った内容でなければならない。
いわば問題にしなければならないほどの理由でなければならないことになる。事と次第によっては「任意な行為で強制力はない。法の遵守事項ではない」で放置することは許されなくなる。
三番目の疑問は、「先台」を預かったとしても、銃そのものを所持禁止にしたわけではないのだから、新たに銃を購入することで「先台」の不足を補うことができる。当然警察は申し出以前に先回りをして銃砲店にどこの誰に対しては銃の販売をしてはならないとする通達を出して初めて、「先台」の保管は万全を期すことになる。説明するまでもなく、「分かりました」と言って受話器を置いたと同時に銃砲店に走らない保証はないからだ。
だが、<火薬類取締法では、個人が保管できる散弾は800発が上限。馬込容疑者は市内の銃砲店で昨年11月までに複数回に分けて、計2000発を購入してしたという。>(2007/12/17付 西日本新聞朝刊≪佐世保乱射 車などに散弾2700発 馬込容疑者 防弾チョッキ着け死亡≫)から、いくら「任意行為」であっても、保管を申し出た以上、保管まで持っていかなかった手落ちと銃砲店に通達出さずじまいの二重の手落ちがあったと言えるのではないか。
とすると、「先台」の提出は「任意な行為で強制力はない。法の遵守事項ではない」は責任逃れの口実と化す。
四番目の疑問は、「馬込にあたっては銃の一斉検査、更新時の調査に於いては医師の診断書に『問題ない』旨の記載あり、また言動にあっても現在は問題ない状況にある。緊急に銃を取り上げたりする根拠もない。銃器を取り上げることはできない状況である」ことと、銃を発射不可能とする「先台」の保管を申し出たが、これは「任意な行為で強制力はない」ために、馬込容疑者から「先台」の提供は受けることができなかったと近隣住民に報告したかどうかの疑問である。
近隣住民の不安だとの要請を受けた警察の対応なのだから、最終的な結果の説明があって然るべきであろう。しかしインタビューを受けた住民からは「先台」の「さ」の字も出てこなかった。「警察は先台を保管するように馬込に言ったらしいんですが、任意行為だ、強制力はないと言って、ついには預かることもできなかったんですよ」といった警察に対する批判は聞くことができなかった。なぜなのだろう。
以上の疑問を解くとしたなら、考えられる理由は一つ、近隣住民の要請を受けて銃を取り上げなかったために銃乱射・2人殺害の事件が発生した警察の怠慢を誤魔化し、責任逃れに死人に口なしで「先台」話をデッチ上げたのでないかという疑いである。
マスコミはそこら辺を明らかにするよう求めるべきではなかっただろうか。
「朝ズバッ」でコメンテーターとして出演していた元検事、大澤孝征弁護士が「先台を出してっていうふうに電話で指示したって言うのはいかがなものか。やはり取りにいきます、出してくださいというとこまでやっておく必要があったのではないか・・・・」と言っていたが、児童相談所が児童に対する虐待を把握していながら、以後の経過を家庭訪問などをせず、電話での聞き取りといった安易な座仕事で済ませて結果として児童を虐待死させてしまうのと対応した電話での申し出と言える。
いずれにしても事件は起きた。銃を取り上げなかった判断も、「先台」の保管を申し出て相手の承諾を受けながら保管まで持っていかないまま放置した判断も、それが事実だとすると、結果として間違っていた。銃を使用できなくすべきだと見極めるだけの判断を示すことができなかった。警察は自身の対応を「適切な対応」と言っているが、そのことに反して「適切な対応ではなかった」と言うことだろう。
簡単に言えば、近隣住民の不安が当たり、警察の判断は間違っていたと言うことである。