5日付「時事ドットコム」記事――《理念・政策、方向性が課題=対極の与謝野、平沼氏-新党構想》(2010/04/05-19:02)が、新党は〈政治理念や主要政策で具体的な方向性を示すのが課題だ〉と注文をつけ、〈明確なメッセージを打ち出せなければ、打倒を目指す民主党などから「野合」との批判を受けるのは必至。民主、自民両党への不満層に支持を広げるのは容易ではない。〉と警告を発している。
その上で4月5日日曜日の平沼赳夫の政治理念に関わる発言を伝えている。
「私の主張は我が国の伝統と文化と歴史を大事にすること。与謝野氏も反論はないと思う」
記事はこの発言に対して、平沼氏は〈保守的な理念を掲げることに自信を示した。〉と書いている。そして平沼と与謝野の政治的姿勢の違いを紹介し、その違いが招くかもしれない危うい点を伝えている。
〈政界で平沼氏は、自主憲法制定や外国人参政権断固阻止などを唱える保守派の代表格。穏健な与謝野氏は対極に位置しており、周辺からは「右寄りの政策が前面に出過ぎると、無党派層が逃げていく」との声も漏れる。
2005年の郵政民営化法成立の際には、与謝野氏や園田博之氏が自民党執行部の一員として内容をまとめたのに対し、平沼氏は同法に反対し自民党離党に追い込まれた因縁の間柄。一方、経済政策となると、与謝野氏は消費増税による財政再建論者だが、平沼氏は積極財政派として知られる。
園田氏は、郵政民営化について「見直すべきところはいくつかあると思う」と平沼氏に配慮。平沼氏は経済政策で「福祉のための増税に大筋では異論はないから、一致するところがある」と与謝野氏らに歩み寄る姿勢を見せる。しかし、一方の主張を全面的に受け入れれば、他方は政治家として過去の行動との整合性を問われ、互いに歩み寄れば、内容があいまいになりかねない。政策調整は簡単ではなさそうだ。〉――
平沼赳夫が新党結成を表明したのは4月2日。その日の夕方、平沼、与謝野、園田の3人が都内で会談、新党結成に向けた対応を協議、三者は新党結成に同意したという(asahi.com。
そして与謝野は3日午後に離党届。5日夜には平沼、与謝野、与謝野に同調して自民党を離党した園田、自民党参議院議員藤井孝男、石原都知事と会談(NHK)。
この間にも密かに会っていたといったことがあったかもしれない。
上記「時事ドットコム」記事の発信はこの会談のあった日と同じ日付けの発信ではあるが、この会談には触れていないから、平沼の「私の主張は我が国の伝統と文化と歴史を大事にすること。与謝野氏も反論はないと思う」は会談前の発言と思われる。
だとしても、発言から窺うことができることは、少なくとも新党結成に向けて対応を協議した4月2日夕方の平沼、与謝野、園田の3人の会談までにお互いの政治理念、政治主張、政治的立場について一度も話し合っていなかったということである。いなかったから、自身の政治的立場に対して「与謝野氏も反論はないと思う」と推測するしかなかった。
と同時に「与謝野氏も反論はないと思う」は自身を上に置いて自分の考え方でやってもらうという意思表示を示した言葉ともなっている。
これらのことは新党結成に向けての対応協議が新党を立ち上げることだけを話し合い、立ち上げに同意し、マスコミに新党結成を公表したという経緯のみが存在したことを物語っている。新党というハコモノをつくるかどうかについてのみ協議して、お互いの政治理念、あるいは政治姿勢について一度も話し合わなかったということであろう。
女性天皇問題が騒がれていた2006年に都内で講演した平沼赳夫の、「愛子さまが天皇になることになって、海外留学して青い目の外国人と結婚すれば、その子供が将来の天皇になる。そんなことは許されない」の発言から窺うことができる天皇主義は日本人でなければ絶対いけないとしていることから外国人排斥の人種差別主義を併せ持った日本民族優越主義を基本思想としていることが分かる。
このことは民主党の蓮舫議員を指して、「言いたくないが、言った本人は元々日本人じゃない。キャンペーンガールだった女性が帰化して 日本の国会議員になって、事業仕分けでそんなことを言っている。そんな政治でいいのか」の発言、さらに従軍慰安婦問題事実無根説、外国人住民への日本国籍付与の簡易化や日本国民のみが有する権利を外国人にも付与するとした法案に対する反対姿勢にも現れている日本民族優越主義であり、外国人排斥の人種差別主義であろう。
つまり平沼が言っている「私の主張は我が国の伝統と文化と歴史を大事にすること」とは、日本民族優越主義に則った狭隘な「我が国の伝統と文化と歴史」ということであろう。
与謝野馨については歴史認識や戦争犯罪、天皇や外国人についての問題発言を聞いていない。2000年4月の第42回衆議院議員総選挙で民主党の海江田万里に敗れ、重複立候補していた比例代表東京ブロックでの復活も果たせず落選したこと、昨年の総選挙でも民主党海江田万里に敗れたものの比例代表で復活当選といった自身の政治経歴と存在評価に反した不名誉ということからなのか、民主党には相当に恨みを持っていると書いているブログもあったが、他人種に対する差別・偏見、さらに相互関連した自民族優越とは関係ない位置に立っていることだけは確かである。
4月2日以降の会談で両者の政治理念や政治姿勢の違いを埋めることができたとは考えにくい。もし簡単に埋めることができたとしたら、「時事ドットコム」記事が「対極」にあると言っているように基本的に似た者同士ではないのだから、それぞれが自らの政治理念、政治姿勢に無節操になることによって可能となる妥協の産物でしかないだろう。
このような二人が一つ船に乗って、政治を行う。与謝野馨が平沼赳夫のような日本民族優越主義者に立った天皇主義者であり、外国人差別の人種主義者であるなら、政治理念や政治姿勢に齟齬を来たすことはないだろうが、現実はその逆に位置している。
同「時事ドットコム」記事は郵政民営化に関する両者の姿勢に違いがあることにちょっと触れているが、《「比例や東京選挙区で候補者擁立」与謝野氏、新党で検討》(asahi.com/2010年4月5日0時34分)は、〈国民新党の自見庄三郎幹事長はNHKの番組で「小泉元首相の郵政民営化を推進したのが(当時の)与謝野政調会長、反対したのが平沼さん」と述べ、両氏は政策面で隔たりがあると指摘。〉と政策面でも大きな違いがあることを言っている。
違いのある政策に妥協点を見い出すためにどこまで譲るかに関しても、節度が問われることになる。
《新党へ調整続く 自民は結束策》(NHK/10年4月6日 4時31分)は5日の会談で新党党首が平沼赳夫に決定したことを自身の記者会見の発言として伝えているが、悪く勘繰るとしたら、両者の間に政治理念、政治姿勢、あるいは政策の面で違いが生じて収拾がつかなくなり、新党が失敗に終わった場合、責任はより多く党首が負わなければならないことからの、いわば与謝野側からの責任回避から出た平沼党首と言えないこともない。
いわば与謝野は一党員となることで、新党結成の責任問題から距離を置いたという勘繰りも成り立つ。