鳩山首相「アメリカの言いなりにならない」の言葉の軽さ

2010-04-12 07:23:35 | Weblog

   ――民主党に衆・参両院過半数のチャンスを――
 
《米タイム誌インタビュー 首相「今まで従属的…米の言いなりならぬ」》msn産経/2010年4月10日(土)08:00)

 鳩山由紀夫首相は9日までに米タイム誌のインタビューに応じ、日米関係について「日本にとって最も大事な関係」としながらも、「今までは米国の主張を受け入れ、従属的に外交を行ってきた」と指摘した。その上で「一方的に相手の言いなりになるよりも、お互いに議論を通じ、信頼を高めていく」と強調した。

 首相はこれまでも、「米国にも言うべきことを言う」などと、対等な日米関係の構築を唱えてきた。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)の移設問題が難航しているだけに、波紋を広げそうだ。

 日中両国の経済力に関しては「中国の人口は日本の約10倍で、いつか日本のGDP(国内総生産)を抜くのは当然だ。経済的により良い日中関係を作る方が大事だ」と述べた。

 ただ、中国の軍事力に関しては「透明性が十分ではない。軍事力の急速な伸びを、常に注視しなければならない」と懸念を示した。

 インタビューは3月30日に行われた。

 「一方的に相手の言いなりになるよりも」とは「一方的に相手の言いなりになる」ことへの拒絶宣言そのものの発言であろう。いわば記事題名で書いているように、「一方的に相手の言いなりにならない」と言ったと同然の言葉となっている

 普天間の移設先を具体的に日米共同で検討する実務者協議開催を岡田外相がルース米駐日大使との4月9日の会談で求めたのに対してアメリカ側が時期尚早だとして拒否したと《普天間「5月決着」絶望的、実務協議断念へ》YOMIURI ONLINE2010年4月11日03時07分)が伝えている。

 理由を次のように書いている。〈政府がまとめた新たな移設案は実現可能性が低いとして、米側が実務者による協議入りを拒否し、日本側が同日、協議開催を当面断念する方針を固めたためだ。〉――

 時期尚早の具体的理由は、

 〈1〉米軍の運用面で現実的でない
 〈2〉受け入れ先の地元合意がない
 〈3〉移設実現の期限が不明――等を挙げたという。

 日本政府の移設先案は米軍キャンプ・シュワブ陸上部とホワイトビーチ埋め立て、そして県外の鹿児島県徳之島へのヘリ部隊分散移設だが、すべて地元合意を第一前提としなければ、他の条件を成り立たせたとしても、その努力はムダとなる。

 それとも実務者協議で日米合意という既成事実を作り上げてから、日米合意の既成事実を楯に地元合意を強制する頭があったのかもしれない。地元合意に新たな障害となる1月24日の名護市長選挙での普天間辺野古移設反対派の稲嶺進氏の初当選に対して、平野官房長官が、「民意の1つであることは事実であり、それを否定はしないが、今後の検討では、そのことを斟酌して行わなければいけない理由はないと思う。名護市辺野古への移設という選択肢をすべて削除するということにはならない」 と、地元民意の無視を意志した前科がある。地元民意の無視とは地元合意の無視、あるいは地元合意の強制を意味する。

 だが、それ以前の問題として協議に入るために必要な米合意が立ちはだかって、地元合意に立ち戻らざるを得なくなったということではないだろうか。

 地元合意に関して記事は次のように解説している。

 〈一方、政府案で移設先に選ばれた沖縄県や徳之島では反発が日増しに強まっている。徳之島では、政府は関係自治体に移設の打診すら実現できていない。

 同島にある伊仙町の大久保明町長は10日、防衛省幹部からの会談申し入れを8日に拒否したことを明らかにした。〉――

 岡田外相がルース米駐日大使と会談して実務者協議入りを拒否されたのはの4月9日。その前日の4月8日に防衛省幹部は徳之島伊仙町大久保明町長との会談を拒否されていた。地元合意がこのような状況にあるにも関わらず、日本側はアメリカ側に移設先を具体的に検討する実務者協議入りを要求したのである。

 いわば基地受け入れの地元当事者の意向抜きの具体的な検討を求める逆の手順を踏んだことになる。

 そもそもからしてアメリカ側はこの実務者協議入り拒否を示すサインを前以て出していた。

 《移設問題“正式な提案必要”》NHK/10年4月7日11時34分)

 記事は岡田外務大臣が先月3月29日にゲーツ国防長官やクリントン国務長官と会談して日本政府内の検討状況を説明した概要に対してアメリカ側の反応を伝えたアメリカの外交専門誌「フォーリン・ポリシー」の6日付け電子版の記事を紹介する形を取っている。

 「フォーリン・ポリシー」はアメリカ側の反応を複数の政府当局者の話として次のように伝えている。

 〈日本政府が示した現行案に代わる新たな移設案は、計画の概要だけで詳しい内容はなく、アメリカ側は日本側に何の対案も示せない状況〉にあると。

 そしてこのことを米「当局者の1人」の発言の形で具体的に代弁させている。

 「日本側が提示したのは提案ではなく、議論の準備段階のアイデアや概念だ。ボールはなお日本側にあり、日本は正式な提案を示す必要がある」

 正式な提案とはなっていない、「アイデアや概念」に過ぎないと酷評している。

 先月3月29日の時点で正式な提案とはなっていないと扱われ、4月9日の岡田・ルース会談で日本政府の移設案は実現可能性が低いからと実務者協議入りを拒否されたということは、日本側の提案に見るべき進展がなかったことを示している。

 そして10日に日本側は実務者協議開催を当面断念する方針を固めた。相手にされなかったのだから、止むを得ず断念ということなのだろう。

 だが、先月3月29日から岡田・ルース会談の4月9日の間の3月31日の鳩山首相と自民党谷垣総裁の党首討論で鳩山首相は普天間移設先として、「私には今、その腹案を持ち合わせているところでございます。そして、関係の閣僚の皆様方にも、その認識の下で行動していただいているところでございます」、「腹案は、現行案と比べて、少なくとも同等か、それ以上に効果のある案だと自信を持っている」と発言し、内容を明らかにすることは障害が生じるからと明らかにしなかったものの、自らの“腹案”に太鼓判を押している。

 この太鼓判についてはアメリカ側も十分に把握した情報となっているはずであるし、「腹案は、現行案と比べて、少なくとも同等か、それ以上に効果のある案だ」と日本の首相が自ら言っている以上、5月末決着という時期の点から見ても、アメリカ側は日本政府の最終案と看做したはずである。

 だが、その“腹案”(=最終案)さえもアメリカ側は実務者協議入りするには満足な材料とはなっていないと一蹴した。

 そこへもってきて米タイム誌のインタビューで、「今までは米国の主張を受け入れ、従属的に外交を行ってきた」「一方的に相手の言いなりになるよりも、お互いに議論を通じ、信頼を高めていく」の発言が飛び出した。

 「お互いに議論を通じ、信頼を高めていく」とオブラートに包んで婉曲的に言ったつもりかもしれないが、アメリカ側から見た場合、鳩山首相自らの“腹案”(=最終案)に対するアメリカ側の拒絶に向けた反撥だと取られても仕方のないタイミングの発言ではなかったろうか。いわばアメリカの拒絶に対する“一方的に相手の言いなりになりません”の鳩山首相の拒絶ではないかと。

 例え基地移転問題で曲折や紛糾があったとしても、そのことで日米関係全体が険悪な対立関係に陥るわけではない。同盟の歴史も抱えている。そのような関係を持った国に対して、“一方的に相手の言いなりになりません”の意図をあからさまに持った刺激的で直接的過ぎる発言を一国の指導者が発していいものだろうか。

 口には出さずに日米関係を構築していく場面で、あるいは日米間に生じた様々な交渉の場で態度で示すべき事柄であろう。例え首相がかねてから、「米国にも言うべきことを言う」と対等な日米関係の構築を唱えていたとしても、それを態度として実質的に示すことができなければ空論で終わるのと同じく、“実質的態度”を一貫した必要条件とする以上、やはり口で言うべき“一方的に相手の言いなりになりません”ではなかったということではないだろうか。

 もし言うべきではないことを言ったということなら、言葉の軽い人間と看做されたとしても仕方はあるまい。

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